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第三章(1) 普通(村)の生活に馴染んだ頃

「_____なんで今更になって・・・」


 まるで豪雨を浴びたように、汗で全身がびっしょりになったウズメ。

窓の向こうからは、鳥がチュンチュンと戯れる、楽しげな声が聞こえた。

 ぐっすり眠れたことに間違いない筈なのに、体が昨日よりも重く、何故か吐き気がする。

そして、肩にはまだ違和感があった為、ウズメは服に着いた虫を追い払うように、肩を叩いた。


 部屋に現在時刻を示すもの(時計)はないものの、太陽がどれだけの高さまで昇っているか見れば、ある程度今の時間帯が分かる。

 野宿で培った、彼女自身の感覚で。

今はまだ朝になったばかりで、村人が数名家から出てきて、1日の作業(仕事)の準備を始めていた。


 ベッドで眠れる夜がすごく特別だった『元・勇者メンバー』だったウズメは、翌日のお昼頃にようやく目覚める・・・と思っていた。

 しかしウズメは、そのまま二度寝することもなく、ベッドから逃げるように飛び起きる。

先程見た『過去の忌々しい記憶(悪夢)』を払拭するように。


 部屋の隅を見ると、立てかけておいたはずの槍が倒れていた。

ウズメは槍をもう一度自立させると、昨晩の記憶を思い返す。


「そっか、昨日ちょっとだけ『練習』したんだ。」


 もうモンスターを倒す必要がなくても、ウズメにとっては『大事な習慣』

槍を持ち、外へ出ると、村でたった一つだけの井戸へと向かう。


 近くに綺麗な水が絶え間なく流れている場所がある為、井戸の必要性はこの村にあまりない。

だが、料理には水が必要不可欠、料理を作る度に、毎回川へ赴いていては、腰や足が壊れてしまう。

 宿の裏手に井戸があるのは、生活用水というよりは、料理用水。


 今朝は久しぶりに川へ行く事も考えたのだが、何より今のウズメは、乾きで意識が朦朧状態。

昨晩はお酒を一滴も飲んでいないウズメだが、寝ている(悪夢を見ている)間に、ほぼ大半の水分を汗に変えてしまった。


 そんな状態で川に行ったら、そのまま川にドボン。色々な意味で、皆とオサラバ。

結果ウズメは、『心地よい(川の)水』より、『安全な(井戸の)水』を選んだ。


 せっかくここまで来た苦労を無駄にしない為、ウズメの心中には、まだ『命を大事に精神』が、しっかりと残っている。

 刃を振るう(魔族と戦う)時には、その精神を柱にしてたウズメだった。


 しかし、何故か魔族と戦わなくてもいい今になると、その柱が以前よりも大きくなったのを感じているウズメ。

 本人は無意識ではあるが、その変化こそ、『平和を噛み締めている証』

今の平和な時間を、1秒でも長く味わっていたい、ウズメの心身の現れ。




 宿の裏手に回ると、既にミラが、井戸の縄を小さな手で引いていた(井戸の水を汲んでいた)。

そのまま井戸にダイブしそうだった為、ウズメが覆いかぶさるように、縄を一緒に引っ張る。

 音もなくいきなり現れたウズメに、ミラは体を一瞬震わせつつ(驚きながら)、「おはようございます・・・」と、小声で呟く。


 ウズメは、ミラの身長よりも断然高い。

遺伝子や、生まれ育った環境も関係しているが、ウズメの身体の大半は、自主トレで鍛えられている。

 だから、同い年の女の子と並ぶと、どうしてもウズメは年上に見えてしまう(大人びてしまう)。


 ミラも、生まれてからずっと『普通(平民として)の生活』を送っていれば、同い年の女の子と並んでも、年下には見られなかった(違和感がなかった)かもしれない。


 それでもミラは、背の低さを感じさせないくらい力持ち。

ミラの足元には、汲んだばかり水が、幾つもの樽にたっぷり補充されていた。

 普通、こんな大量の井戸水を汲んでいると、息切れを起こす。

しかし、ミラは平然と、そして淡々と、宿の手伝いに勤しんでいた(井戸水を汲み続ける)。




 ウズメはこの世界に転生した当初、『水道』がない事に不安を覚えた。

それだけではない、この世界では『電気』も『ガス』もない。

 まるで、世界史・日本史の教科書で見た『中世』を思わせる生活。

不安だらけではあったものの、慣れてしまえば、もう違和感(不便)を感じない。


「ウズメさん、今日は随分と早いんですね。

 てっきりお昼頃まで起きてこっ



 うわわわわ!!!」


「ちょちょちょっとミラぁ!!!」


 ミラは振り向くと同時に、膝を井戸の淵にぶつけ、そのまま井戸の中に吸い込まれそうになる。

それを、ウズメが慌ててキャッチ。

 二人が井戸の底を見ると、遠い遠い底に、水が溜まっているのがぼんやり見えた。

そのまま二人は同時に息を呑んで、とりあえず井戸から距離を取る(離れる)


 今まで、長い期間同じ場所に滞在したことのない三人にとって、井戸ですら新鮮な存在。

城下町に滞在していた時は、城の部屋を貸してもらい、全ての身支度や食事は、ほぼ人に任せっきり。

 その仕事を任せられる側は、ミラも例外ではなく、僅かにしか与えられない食料を噛みしめながら、城の雑用を任されていた。


 城で働いている召使やメイドにまで使われるミラを、さすがに見ていられず、厨房に遭った食料の残り物を、全部ミラとヒスイに持って行った。

 ヒスイもミラも、「そんな余計な事しなくても・・・!!!」と言いつつ、彼女が持ってきた食料が尽きるまで食べつくした。


 二人は口に出していないだけで、本当はお腹いっぱい、ごはんが食べたかったのだ。

いつも残飯を僅かしか与えられないのなら、体の発育が遅れても仕方ない。


 だから二人には、遅れてしまった分を、この村で挽回できる事も願って、ウズメはこの村を選んだ。

この村の食事なら、二人もモリモリ食べてくれる。そしていつか、二人は立派なレディになってくれる。

 そんな願いも、ウズメにはあった。 


「___ミラ、この村で沢山ご飯食べて、もっともっと大きくなってね。」


「え?! 何ですか、突然・・・・・」


「ん? ミラには、もっと大きくなって、もっと綺麗になってほしいから。」


「え・・・・・???

 _____具体的にどんな風に???」


 ウズメの突然の告白に、戸惑ったミラは、混乱する頭でそんな言葉を口走る。


 だがウズメ自身、『前世時代』も含め、『美容』には一切興味がなかった。

高校生時代は、何かと流行に乗るのが楽しかったが、あの暗黒時代(社会人の頃)は、美容どころの話ではなかった。


 [だから今度は、魅力的な大人の女性になるぞ!]・・・という気にもなれず。ただ


 成長したミラやヒスイが見てみたい


 という気持ちが、無意識にウズメの語彙をおかしくさせてしまったのだ。


「まぁ、これからは毎日、お腹いっぱい食べられるんだから、自然と美人さんになるか。」


「何だか今でも、お腹がいっぱいな感覚に慣れないんですよね。

 でも、前よりも空腹が苦しくなったような気がして・・・・・」


「それはさ、満腹がどれだけ大事なのか、必要なのかを、ミラの身体が理解してるからじゃない?」


「_____そうかもしれませんね。

 それに沢山食べないと、村のお手伝いになれませんから。


 こうして新しい生活になっても、まだ自分に役目がある事は、幸せなのかもしれませんね。」


「私にとっては、毎日ちゃんとベッドで、たっぷり眠れる事が、幸せかなー。」


「ふふふっ、私もですよ。」


 勇者に買われた頃は、まだ『骨』の様に肌が青白かったミラ。

しかし、ウズメと共に行動するようになってからは、ミラの肌色がだいぶ良くなっていた。

 あとは体に肉をつけて、生き生きとした活力を身に着けるだけで、普通の女の子になれる。 


 旅の道中、ミラやヒスイに自分の食事を分けていたウズメだったが、食べ盛りの子供に、つまみ程度では足りる筈もなく。

 檻の中にいる頃は、食べる事に抵抗を感じていたミラだったが、ウズメの心遣いの結果、食事を楽しむ心の余裕(喜び)を学び始めていた。






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