また何処かの世界で・・・(4)
若干えげつない話ではあるものの、『思い出話』として嬉々として語る社長の雰囲気もあって、アナウンサーも相槌が打てる(話が飲み込める)。
そして、アナウンサーにもそんな覚え(経験)があったから、相槌を打ちながらも、『仕事中に感じた理不尽』を思い返していた。
彼女も、東京のテレビ会社でアナウンサーといて活躍する目標(夢)を抱いている。
だが、東京のテレビ局で学びながらトーク力を磨いていると、一部の人間から、こんな冷たい言葉を投げつけられた事があった。
「地方出身のくせに」「地元のテレビ局で働けばいいのに」「世間知らずな小娘」
___と、いかにも『昭和のドラマ』で聞くセリフを、今の時代(令和)に聞くとは思わなかった。
だが、実際そんな『変な偏見』を持っている人間が重役だったりする、いわゆる『現代社会の闇』は、探さなくても見つかってしまう。
今は何処に行くのも自由、何処で働くのも自由。それが『当たり前』という名の『風潮』
それなのに、『誰が建てたのかも分からない壁』に翻弄され、自分と同じ道から離れてしまった仲間は数知れず。
そんな仲間たちの、寂しげだが、まだ夢が捨てきれない姿を思い出していたアナウンサー。
自分自身がどうしてこの業界に残り続けているのか、理不尽を感じながらも投げ出さないのかは、彼女自身も分からない。
「_____なんか、私の心も、社長のおかげで軽くなったような気がします。」
「もしかして、あなたの勤めてる所も・・・アレですか?」
社長の、まるで『いたずらっ子のような笑み』に、アナウンサーもカメラマンも、苦笑いしながら互いに顔を見合わせる。
社会人なら、『誰もが経験する理不尽』に立ち向かう梅社長になら、彼らの胸の内が読み取れた。
口にできない、思い出したくもない記憶ではあるが、それを「間違いだ!!!」と言ってくれる人がいるだけでも、被害者は救われる。
何故なら、自分の胸の内にあるモヤモヤ(嫌な記憶)を、解決しようともしない(見て見ぬフリをする)自分も一緒に、喝を入れられているような気持ちになれるから。
「___でも今となっては、『派遣会社』が先か、『ブラック企業撲滅チーム』が先か・・・は、正直
どっちでも良いのかもしれませんね。
現にどちらも成功していますし、どちらかが欠けていたら、両方とも失敗に終わったと思います。」
「確かにそうですね。
梅社長が、大勢の社会人を救っているは、『順番』ではなくて『努力』の結果だと思います。」
面と向かって、『素直に』褒められたのが久しぶりだった梅社長は、思わず照れ笑い。
今まで数多くの『社長』や『理事長』と対談をしてきたが、何故か偉い人の褒め言葉ほど、『政治家のおとぼけ発言』と同じくらい、薄っぺらく感じてしまう(信用できない)。
赤くなった顔を隠しつつ、アナウンサーとの対談に集中しようとする社長を、カメラマンは逃しはしない(激写)。
今までの重苦しい話から一転して、急に場の空気が軽くなり、アナウンサーの質問の勢いも再熱。
「主にブラック企業の被害に遭った人に対してのケアは、どのようなものがあるんでしょうか?
やはり・・・カウンセリングが主なんですか?」
「それもありますけど、やっぱり『普通の会社』を意識してもらうようにしています。
あと、自分を取り巻いていた環境のおかしな点を箇条書きにして、そんな会社から避ける訓練もして
います。
やっぱり、一度経験した人間にしか分からない、『ブラック企業の見分け方』があるんです。
その経験を、私たちは大勢の社会人と共有していくのも、ブラック企業に人を入れない(加担しな
い)、大切な活動です。」
社長が力を入れているのは(手掛けているのは)、ブラック会社から被害者を救出するだけではなく、その後のケア(社会復帰)も含まれている。
仮にブラック企業から逃げ出せたとしても(檻から脱出できたとしても)、その後しっかり食べていけないと(生活できないと)
[やっぱりあの企業じゃないと、自分のような出来損ないは生き残れない]
という考えに陥り、結局助けた意味がなくなっていまう(鬱が悪化する可能性も)。
そんな、『正直者が馬鹿を見る未来』にならない為には、時間をかけて、ゆっくり心身を『元に戻す』必要がある。
人も物も、壊すのは一瞬、直すのは長い年月。
それを逆手に取って、傍若無人に振る舞う(会社の独裁者である)彼らは、とにかく狡猾で、自分の世界(会社の内情)が外に漏れないようにする手段だけは達者。
だからこそ、世間で認知されている数と、実際の数で、不自然な差が生まれてしまう。
まさか、「あなたの会社はブラックですか?」と聞かれて、素直に答えられるわけがない。
「___やっぱり、あるんですよね、ブラック企業って・・・・・
ニュースで取り上げられている所(公な事件になる会社)はごくごく一部で、実際は私たちの想像の
倍以上は潜んでいるんでね・・・」
「『会社』とは、いわゆる『一つの世界(一国)』です。
国は当然、『王様』だけでは循環しない、大きくもならない、ただそこにあるだけ。
だからと言って、王を世話する『召使』や『メイド』だけでも成り立たない。
国にとっての最低条件。それは、『支え・働く国民』がいるかどうか・・・です。
畑を耕し、魚を捕り、牧場で生き物を飼育する民
収穫品を適当な値段で売る民、国の警備をする民、区画を管理する民
ありとあらゆる民を、きちんとまとめ上げ、また彼らを支えるのも王の役目。」
「成程・・・・・つまり『社長=王様』で、『社員=民』って感じですね。」
「会社は当然、社長だけでは動けません。
だからと言って、『係長』『課長』等、役職があっても意味がない。
国であらゆる民が働くように、会社でもあらゆる社員が進んで働けるような場所が理想なんです。
___にも関わらず、社員(民)を『道具』のように扱う人間が、本当に実在した事に、当時の私も
驚くしかありませんでした。
しかもその内容が、場所によっては『目も当てられないほど悲惨な所』も・・・・・」
『目も当てられないほどのパワハラ』を、ニュースで報道すれば、あちこちから批判が来る。
しかし、その意図の大半は、『新社会人の為』でもなければ、『番組視聴率の向上の為』でもない。
ただ『自分が気に入らないから』『自分の主張は決して間違ってはいないから』
そんな言葉を参考にして、面白い番組が作れたのなら、番組制作会社だって苦労しない。
どんなに否定しても、目を背けても、実際に国中のあちこちで、ブラック企業に苦しんでいる社員がいる事に変わりはない。




