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雪がしんしんと降り積もり世界が真っ白に染まる。
一歩、一歩と足を踏みしめるたびにギュッ、ギュッと雪のつぶれる音が鳴った。
吐く息は白く、視界に入るもの全てが白く映り、靴と雪が擦れる音のみのこの空間はまるで異世界に迷い込んだようだった。
家名の書かれた石が立ち並ぶ中を進むと、桜の木が見えてきた。その前で立ち止まり、何かを思い出すように幹から枝先へと静かに目を沿わせる。
“あの子”が好きだと言ったその木から春の美しく咲き誇る姿は、今は見る影もない。
そのまま空へと目をやれば、日が最も高く昇っているはずの時間帯なのに分厚い雲がかかっているせいでその姿を見ることはできなかった。
空から落ちて来る白い結晶を手の平で受け止めると、静かに、音もなく、スッと雫に変わった。
ここに来る度、今日のような雪の日が来る度、気持ちが揺れる。『これで本当に良かったのか』と。
1年経っても答えの出ないその問いに心が焼けそうになりながら目的地へと着くと、ずっと手に持っていた一輪の花を足元に置き、零れ落ちるように呟いた。
「お前が死んでもう1年か……」
見慣れたくもないその『藤堂家』と書かれた石の横に既にある5本の百合の花と共に、持ってきた同じく百合の花を挿し、静かに手を合わせた後、ここまで来るのに使った車へと戻った。
車に戻り、エンジンをかけずに深く座席に腰かけると、ポケットからスマートフォンを取り出し、兄弟のように共に育った男へとメッセージを送る。
『今、墓参りに行ってきた。』
送ったものの、何となく携帯をしまう気になれなくて自然と指が伸びた写真フォルダから、一度だけ家族全員で行った旅行の時に撮った写真を見てしまう。
そして、最後の1枚を見終わると、さらに虚しくなった気持ちを隠すように携帯の画面をオフにし、座席に全体重を預けるようにして空を仰いだ。
「この世界は、お前が望む世界に近づいたのか、―――」