つよゆきさん
闘技場で二人の男が対峙している。一人の名は解体工場ジョワス。その恐ろしい悪名はザバーン国全土に知れ渡っていた。自称大量殺人犯であるジョワスは生まれつきコンクリートを素手で砕くほど異常な指の力を持っており、老若男女わけへだてなく少なくとも146人に対して強制的な闇指相撲を持ちかけ勝利していた。
もう一人の名は東村つよゆき。圧倒的な論破力を用いて大の大人を号泣するまで容赦なく追い詰めることで知られている。だが、肉弾戦に関する彼の実力は全くの未知数であり、観客たちは固唾を飲んで二人を見守っていた。
「えーっと、まずは勝負の方法なんですけども、なんか指相撲とかそういうのはちょっと違うと思っていて、とりあえず死んだほうが負けっていうことでいいですか? はいかいいえで答えてください」
「勝負? かん違いするな。これから始まるのは一方的な惨殺さ」
つよゆきの流れるような鋭い言葉の連続ジャブに対しても、一切動じることなく反撃するジョワス。
「あの、嘘つくのやめてもらっていいですか。そもそも、はいかいいえでってこちらが言ってるのに、それすら理解できないあなたのレベルの低さに対して、不快感を覚えた自分に驚いたんだよね」
「……ああ、いいだろう。お前が……」
挑発に対して怒りで声を震わせながらも返答したジョワスだったが、彼が言葉を終える前につよゆきは動き出した。咄嗟の行動に反応が遅れたジョワスの横を矢のような速度ですり抜けたつよゆき。何が起きたか理解できず振り向いたジョワスの視線は、つよゆきの右手に握られている脈打つ赤い肉塊に釘付けとなった。
「これってあなたの肝臓ですよね?」
「……か……返……」
冷たい笑みを浮かべたまま肉塊を握りつぶすつよゆき。飛沫と破片が辺り一面に飛び散り、彼の黄色いパーカーを深紅に染め上げた。その瞬間、ジョワスはあまりのショックに気絶した。
「これはレプリカというか偽物というかダミーというか模造品なんですけど、まあとりあえず僕の勝ちってことでいいですよね。はいすみません。お疲れ様でーす」
白目を剝き泡を吹いて倒れているジョワスを放置し、その場を立ち去るつよゆき。観客は誰一人として言葉を発しなかったが、つよゆきに喧嘩を売るのだけはやめようと皆が心に誓っていた。




