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88.不快な手紙




 クレア個人としては勇者一行として行かされた旅の思い出というものはおおよそ良くないものだ。

 なぜなら一緒に旅した元勇者たちの人格が正直あまり良くなかったし、性的な接待を持ちかけてくる人間にも出会ったことがある。あと、危険な事があれば彼女が真っ先に矢面に立たされた。


 クレアはあくまでも割と普通の感覚を持っていると自認しているので、やばい案件に巻き込まれそうな住民たちを逃がそうと努力していた。それでもクレアはあの国の出身だと言うだけで忠告をしたというのに信用されず、めちゃくちゃ石とか投げられて罵倒された経験もある。何故か自分達の領主や国主が、自分達を見捨てるわけがないと思っている者も多かった。

 その時点で勇者一行としてそれなりの成果も上げていた。クレアはだからこそ見捨てる決断をするだろうと思っていたけれど、「いや、見捨てるぞ」なんて彼らに言えるわけもなく、蹂躙される町や村を見たこともそれなりにあった。


 そんなわけで、魔族が襲ったということにして美しい人間を種族問わず囲い込むことが常態化していた祖国とかクレアは今でも本当に嫌いだった。もう国としてそういう腐った形態になっていたので滅びてよかったと思っている。



「ご主人様は旅の思い出など話してくださいませんけれど、どうしてでしょうか」


「思い出よりも嫌だったこととかのが多いんじゃねぇか?俺たちとの暮らしの話はちょくちょく話すじゃねぇか」



 クロエはモップにもたれかかりながらソフィーに「森での話とかな」と付け足した。それもそうだ、と思ったのかソフィーは少し難しい顔をする。その手に持っているのは明らかにいい紙を使って出された蝋で封じられた手紙である。その紋章はゼーン皇国のものである。



「ソフィー、クロエ」



 彼女たちは愛しいご主人様の声を聞いて顔を上げる。それと同時に、珍しくこのドラゴレインの女王に与えられた魔導師の正装を纏っていることに気がついて真顔になった。



「その不快な手紙について陛下より話があるらしい。城へ行く」



 最初はその手紙は王家の手で止められていたがあまりにもしつこく送りつけられるのでクレアは一度宰相等の立ち合いの元手紙を読んでいる。

 中身は婚姻の話であった。



「あの色狂いと嗜虐趣味、トチ狂った手紙を何通も送りつけてきてどういうつもりだろうな?」



 声から不機嫌さが滲み出している。師であるマーリンさえ、少し対応に困っているようだった。



「まぁ、クレアに何か起ころうものなら僕が滅ぼしてあげるから」



 苦笑しながら出る発言に、クロエが頭が痛いというような顔をしたが、続くクレアのセリフにそんな「それはやりすぎだ、この弟子馬鹿め」みたいな感想は吹っ飛んだ。



「じゃあ、一緒に城でも燃やしに行きますか?」



 普段から比較的温和なご主人様より発せられた言葉にメイド二人は息を呑んだ。



「どんだけ不快な手紙を書けば、ご主人にあんな声出させるんだよ」


「同感です」

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