86.お兄ちゃんは胃が痛い
商人の姿の時にクレアから相談を受けたアレーディアは、本来の姿と立場の弟にドン引きしていた。そして、今はいない父親のことを少し思い出していた。
戦場で出会ったという両親は父親の一方的な一目惚れから始まったという。それこそ、母であるアレクサンドラに近づくために国を一つ落としてそれを結納品代わりにしょっちゅう喧嘩を仕掛けてくる目障りな某王族の首を楽しそうに並べていくというヤバ目の男だった。アレに似ている、と思い至った彼は少しだけ虚な目になった。彼の中で父親はマーリンと同じくらい厄介な男だった。
ちなみに今国にいないのは愛娘の呪いを解くために各地の魔導師を訪ねまくっているためだ。もうその呪いは半分くらい解けているが、どこにいるのかわからないため、手紙すら送れない。送れたとしても別に帰ってきてほしくはないが。
「どうかしたのか、レディア」
「いや、少しだけ僕の父を思い出しただけだよ」
龍にまつわる者の執着心を知っているだけに下の弟妹が少し怖い。ただ、クレアを求める気持ちは分からなくもない。
クレアという魔導師のそばは何故か居心地が良かった。けれど、それは魅了のような能力ではなかった。あまりにも弟がのめり込んでいるのでアレーディアも国の魔導師に調べさせはしたのだ。
「意外だな。あなたのように穏やかな両親なのだろうと勝手に思っていたよ」
「僕の両親は両方ともおそらく少しばかり過激だよ」
彼は柔和な笑みを浮かべる。実際は少しばかりではない。
アレクサンドラも彼の父も感情の出し方がエグい。結果的に自力で脱出してしれっとクレアの世話になっていたリルローズではあるが、彼女が攫われていた際に娘を奪われたアレクサンドラの怒りは凄まじいものであったし、アレクサンドラに暴言を吐いた者を笑顔で血祭りに上げる父親も狂気を感じる。そんな両親を持つ彼なりの反面教師というものかもしれない。
「君の薬などの売上を書籍費として第二王子予算に回すように僕からも働きかけてみようか?」
「流石に国庫が心配だしな」
個人予算から出ているものなので、困るにしてもエリアス本人とその周囲くらいなものではある。
「リルローズも大きくなったとはいえ、なぜかここに入り浸っているし、大丈夫なのか?」
クレアの単純な心配はアレーディアに結構刺さった。正直大丈夫ではない。エリアスは恋に浮かれて貢ぎ癖があると発覚してしまったし、リルローズは「リズが男の子だったらクレアをお嫁さんにできたのにぃ!!」という訳のわからない癇癪を起こしていると聞く。
「まぁ、大丈夫じゃない?」
「立派な兄君がいると聞くしな」
うんうんと頷くクレアには申し訳がないが、目の前の彼も弟妹たちに手を焼いている。目の前の女の子に自分が王子だと知れるとややこしいので関係ないという態度を取っているが、内心は胃が痛く感じている。
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