85.貢ぎ王子
「やりすぎなんだよ……」
小麦色の耳が心なしかしょんぼりとしている。心情的には同じ色の短い髪を掻きむしりたい。だが、休憩中とはいえ職場でそんなことはできない、と眉間を揉むに留めた。自分もそこまで理性的な性格をしているとは思っていないが、彼の仕える武の第二王子に比べれば随分と己は理性的だろうと思う。
第二王子の予算からごっそりお金がなくなったと思ったら、高価な本をそこそこの量送りつけていたことが発覚して頭が痛い。
「どうした」
「よくもまぁ俺のいない日にごっそり貢いでくれやがりましたね、って思ってます」
マリウス・ザーラ・デザートという名の青年は恨めしそうに主人を見つめた。フェネックの獣人の彼は伯爵家の三男である。特に裕福な家の出身というわけでもない。だから金額を見ていると青くなる。
「本なら良いとマーリンが」
「程度がありますよねぇ!?」
領収書を見せながら、0の数を数えて見せる。それから、今年の彼の予算の残金を提示する。
「殿下、本っっっっっっと勘弁してください」
王族であるからにはそれなりに品格を備えた格好をしなければならないし、彼は魔物等との戦いに出向くこともある。そのため武具にも金はかかっている。だというのに、女一人にそれだけ予算を割いてどうするというのか。困るのは目の前のこの王子だし、それは一応この王子に助けられ、尊敬する部下としてはなんとかしたい。
「なんでめちゃくちゃ良い教育受けてるはずなのに予算の使い方ガバガバなんですか!?」
王子相手にガチの説教が始まった。
彼を知る人間からすれば遅咲きの初恋をしたエリアスを応援したい気持ちはある。けれど、今まで経験してこなかった感情に思い切り振り回されている状況は身分的にいただけない。
きっちり上司に説教をする根性がある部下を持っているあたり、エリアスは周囲に恵まれていたりするかもしれない。
一方で貢がれたクレアではあるが、「流石にこれ全部をただでもらうのはちょっと」と思った。そりゃ、目の前で跪いて花を差し出してくる男に下心が見えないわけはない。
怖いというか、最近では「彼、もしかせずとも天然か?」と気がつきつつある。「天然で貢ぎ癖があるのは王族としてやばいな」とも思っている。
「それはそうと、ある程度購入という形にしないと国庫が心配になるな」
物を返すのはどうかと思うが、流石にその金額がエグいのは想像がつく。値段とか考えたくもない。
後日、クレアはレディアにこの度のことを相談して、彼女の薬の売上のいくらかでこっそりと返済することにした。そして、マリウスが上司の代わりに菓子折りを携えてお礼とお詫びに訪れたりもした。
本当にマリウスが思わずお礼やお詫びをしに出向くくらいエリアスは貢いでいた。
本年も読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。感想などもありがとうございます!
来年もまたお付き合いいただければとっても嬉しいです!!
皆さま、良いお年をお迎えください。




