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80.更に逃げた男




 アルケイドは脱走したけれど、クレアは彼の位置がわかるようにしっかり魔法をかけていた。会いたくないので仕方なく把握するようにしただけである。アルケイドはクレアと性格的に合わないというのに何故かちょくちょくちょっかいを出してくるという厄介な男でもあった。顔の良い彼がそうやってクレアを気にするから元聖女に敵対心を持たれていたというのも否定できない。


 元勇者一行に関していえば、クレアは破滅のきっかけとなった魔女ともいえるが、基本的にクレアは家族が関わらなければ強硬な手段を取ったりしない。おまけに、やらかしが過ぎてマーリンの怒りを買った。何もやらずに去るならば、誰も追いかけたりはしない。が、前科があるからアルケイドはだいぶやばい。


 当人にも自覚は薄いが、レディアと名乗る第一王子アレーディアもだいぶクレアに甘かった。アルケイドの件もあって少し苛立った様子も見える。ネーロなどは修羅場の予感に結構胃を痛めていたりする。ユウタには「勘だけど、あの二人結構上手くいくと思うんだ〜」なんて言われている。勇者の勘。洒落にならない。



「あの男、いっそ殺しておけばよかったか」


「いやぁ、難しいと思うっスね」



 アルケイドは生存に長けている。ある程度素直に捕まった時点で己の勝率を計算していたことは想像できる。金品くらいで二度とこの国に関わらないと誓えるのであれば安いかもしれないと思える男だ。

 何はともあれ、やらかしたメイドは全員解雇となった。実家から「家は許してくれ」と嘆願の書状も届いていたりするが、王家よりも元敵国の男を安易に優先するあたりで信頼など地に落ちている。侍女レベルになるとそんな者はいなかった。本人の資質もあるだろうが、男に安易に誑かされる時点でさっさと他所にやる方が本人のためだろう。



「クレアさんも罪な女だよなぁ」



 ポツリとつぶやかれたネーロの言葉は心からそう思っていることがわかる声音である。幸い、己が上司の耳には入っていない。


 クレアはなぜか、やたらとモテている。かといって魅了などの力はない。むしろ、そんな力が有れば、旅も非常に快適であっただろう。第一王子も第二王子も彼女を憎からず思っているように見受けられるのが厄介である。彼女本人は特に恋愛に興味はないというのが拍車をかけている。結果としてエリアスは初恋に浮かれてやらかしまくった。

 本人に自覚と恋をしたいという意志があればまた違っただろうとネーロは思っていたりする。



「恋愛が絡むとろくなことがない」



 王女を手に入れるために必死だった元勇者とか、少しでも良い男に拐って欲しがっていた元聖女とか、修羅場を作る大天才マーリンが近くにいるからこそ、そう言って敬遠している節がある。

 主に周囲のせいだった。

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