74.本人達は穏やかなれど
季節が変わったため、服を購入しようとしたが、あまりにも雑に選ぼうとするためレディアが選んでいる。髪や瞳の色、体型などからどうやって選ぶのか。そういった説明を受けながら大人しく一緒に選んだ。
選んだものを用意してもらっている間にソフィーとクロエを呼んで、彼女たちの服も用意してもらう。二人は遠慮していたが、街に行く時に普段着などがあった方がいいだろうとクレアが押し通した。
「それ、使ってくれているんだね」
「ああ、その……せっかくもらったから。似合っているだろうか」
「うん。綺麗だ」
穏やかに二人が見つめ合う。レディアの部下は少し照れたような表情で笑うクレアを珍しいものでも見たかのように、少し驚いた顔を見せた。そして、修羅場の気配も感じた。
レディアはその本来の身分を明かしていない。それが厄介な人間を寄せ付けると分かっているからである。クレアが少しでも気を許しているのは、それなりに高貴な家の出身だけれど王族でないと思っているところもある。エリアスが若干やらかしているせいもある。流石のクレアでも自分の動向を常に探ってくる、しかも自分より肉体的に強い相手はそれなりに恐怖を覚える存在だった。
今はまだないだろうが、二人がどうにかなれば、そのことを知ったエリアスとの修羅場が怖かった。穏やかに話す二人を見ながら周囲は若干複雑な気持ちである。
「ご主人様、必要物資の発注は終わりました」
「ありがとう」
ソフィーから購入商品の明細を受け取って、軽く目を通す。それなりにしっかり見ているのはどんなに良い商会でも間違える時は間違えると知っているからだ。旅の途中、持たされている金額を考えずに勇者が注文をしていたので、こっそりと冒険者ギルドの依頼をこなして補填をしていたこともある。ちゃんと見れば多く取られていたこともあった。元は貴族の令息であるからか、それとも親に教えられていないせいか彼らの管理に不安があったためせめてもとしっかり見るようになった。
(領地を持っている奴らがいなくて心底ホッとした記憶があるな)
基本的にはうまく領地を回す貴族ほど金勘定はしっかりとしている。クレアは雑な金勘定を見ながら、勇者たちが自分の住む領地の主人になったら逃げようと思ったものだ。
「他に必要なものはあるかな?今度持ってくるよ」
「そうだな……」
少し悩むクレアを見ながらレディアは彼女を微笑ましく見つめる。その反面、周囲の視線に苦笑を零しそうになった。
そういう関係になった、なろうとしているわけではないというのに慌てる周囲。どうにもならない状況である。実験器具や新しい苗の注文を聞きながらレディアは帰還する馬車で苦笑した。




