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73.師と弟子




 朝食後、温室に植えている薬草を見に行って収穫する。見極めが難しいのでその区域は他の者には触らせないようにしていた。

 青い実がなっているそれを慎重に採取すると、所定の位置に置く。手早く実と他の部位を切り離すと、別々に包んで収納魔法内に入れた。



「そろそろ出るか」



 一息ついて外に出ると、馬の嘶く声が聞こえた。無意識に髪飾りに触れて歩き出した。

 馬車に近づくとアッシュブラウンの髪を持つ青年が微笑み、手を振ってきた。それを同じようにクレアが返すと、後ろから彼女にのしかかる男がいた。

 マーリンは不機嫌そうにクレアにのしかかると、その頭に顎を乗せる。



「重いです」


「重くしてるんだよ」



 にやっと笑う師に腹が立ったのか、容赦なく風の魔法を顔面に叩きつけようとするが、軽々と無効化された。



「まだまだ甘いね、お前は。僕を振り払いたいなら殺すつもりでこなきゃ」


「どこに大恩ある師を心の底から殺したい弟子が?」


「おっまえさぁ、そういうところがさぁ」



 呆れたように、少し嬉しそうにウリウリとクレアの頭を撫でようとする。その手を弾いて軽く髪を整えた。



「せっかくまとめた髪を乱さないでいただきたい」


「うんうん、悪かったね」



 何故か機嫌が良くなったマーリンを怪訝そうに見つめて、クレアはレディアの方へ歩いて行った。

 弟子の後ろ姿を見ながらマーリンは感慨深いというような表情を向けた。病魔に侵された母親のために恐怖を押し殺すように、必死に魔物を倒して生計を立てていた幼子(おさなご)。それが随分と大きくなったものだ。



「これが父親の気分なのかな」



 クレアの母が聞いていたらぶん殴られる言葉である。稀代の魔導師は嫌な悪戯をして弟子に叱られ、弟子に嗜められ、弟子に説得されてこれでも随分とまともになったのだ。だからといって行動が多少改まっただけで、その内面が大幅に変わったわけではない。なので変わらず敵の処刑を見ながらワインを飲めるくらいにはぶっ飛んでいる。

 そんなのが父親面していたら温和で有名だったクレアの母も流石に怒るというものだ。



「待たせた」


「いや、仲がいいのは良いことだと思うよ」


「我が師は悪い人ではないのだが……」



 クレアからすると、一応は幼かった自分を魔法を使う才能があるとして鍛えてくれた人だ。やってることにドン引きはするけれどそれでも彼女には尊敬する魔導師であることは間違いではない。特に頻繁に会いたくはないけれど。



「いかんせん、世話がかかる」



 とても弟子からでる言葉ではないとレディアは苦笑する。けれど、そう言うクレアの視線に敬意も入っているというのだからマーリンという魔導師は関係性次第で薬にも毒にもなるのだろうと思った。



「それで、今日は何を持ってきてくれたんだ?」



 クレアの言葉に商品を案内する。後ろから見た時に着けられている髪飾りに気づいて、面映ゆく感じられた。

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