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72.春の朝



 赤い髪をもらった髪飾りでまとめて、鏡で確認をする。よし、と頷いて背を向けた。

 レディアが訪ねてくる日は、クレアはもらった髪飾りを身につけるようになった。せっかくもらったのだから、と。それを微笑ましげに周囲は見るけれど、その単純な理由には気が付かぬままである。


 暖かくなってからマーリンも常駐するようになってソフィーの機嫌は再び下がった。クレアの隣にいる時はそうでもないが、マーリンを目の前にすると目つきが変わる。やることがやることなので、クレアも擁護できない。戻ってくる時も絨毯で窓を突き破って帰ってきた。クレアの魔法をわざわざ破って。

 流石にクレアも「全部自分で直してくださいね、我が師」とドン引きした顔でマーリンへ要求した。

 そんなこともあって、ソフィーはマーリンが相変わらず嫌いだ。


 クロエはクロエで「つまみ食いするんじゃねぇ!!」とマーリンをぶん殴ろうとしていたし、マーリンはケラケラ笑いながら余裕そうにそれを避けている。やはりクロエにも好かれてはいない。



「僕はクレアの作ったパイが食べたいなぁ、シチューが入ったやつ」



 たまたま近くにいたクレアを見て、マーリンはニンマリと笑いながらそうねだった。ちょっとかわいこぶっている。



「ん?ご主人がなんでお前なんぞのために料理を作らなくちゃならねーんだ?」



 心底不思議そうに料理の配置を始めるクロエに、マーリンは顔を引き攣らせた。基本的に自分が作ってるのに、お前のためにご主人が出てくるわけないだろうという目である。クロエはマーリンが自らの主人の師であることは知っているが、そんなことはどうだっていいのだ。マーリンもクロエの「お前、ご主人の先生ってだけだろ」という態度が気に食わないらしくむすっとした顔をした。



「クロエ、ありがとう」


「構わねぇよ。つーか、ご主人のパイってそんなにうまいのか?作り方を教えてほしいんだけど」



 珍しいクロエからのお願いに「いいよ」と言うと、彼女はパッと嬉しそうな笑顔を見せた。マーリンは不服そうに肘をついて、フォークで野菜を差した。その後にすごもり卵を食べてちょっと嬉しそうな顔をする。師のこういうところが憎めないのだとクレアは苦笑する。かわいこぶるよりもこういう自然な表情が魅力的だ。



「材料を購入しなければな。今日はレディアの来る日だし」


「必要な物資はもうメモしてあるぜ」


「助かる」



 不恰好な字で書かれた文字を見て、それから追加で必要なものを書き足していく。



「よくこんな字を読めるね」


「少し特徴的なだけですからね」



 クレアがマーリンの言葉にそう返すと、彼はクレアの卵を奪い取って満足げにクロエの特製ソースをかけた。



「師よ、私の食事を奪わないでください」



 溜息を吐いてクレアはパンに手を伸ばした。ソフィーがマーリンの背後で斧を振りかぶっているのを見て、「ソフィー、飲み物を頼んでいいか?」と声をかけると、ソフィーはハッとしたような顔をしてから、きゅるんと可愛い顔になった。変わり身が早い。



「かしこまりましたぁ」



 その変貌っぷりに顔を引き攣らせるクロエをよそに、クレアのお願いにるんるんとソフィーは用意しに向かった。

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