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55.祖国、滅びたってよ




「なんか、知らない間にコルツ王国がレオニール王国に滅ぼされたようだ」


「自業自得だな」



 そう言いながら給仕をするクロエに「まぁ、要らんことばかりしていたようだしな」とクレアは頷きながら、出されたカップに口をつけた。温かい飲み物にほおを緩める。



「十中八九、師が暗躍しているのだろうが……私が気にすることではないな」



 自分のことよりも母の件で国に対して恨みを持っていたので、可哀想だとも思わない。不完全燃焼感はあるが。

 元々、クレアも春になったタイミングで何かしら動いてもいいかと思っていたが、やることがなくなってしまった。



「まぁ、顔見知りとやり合うのはしんどそうだったしありがたいか」



 クレアはどう考えても復讐に身を焦がして殺し回るなんて向いていない。その点でいうと先手を打ったマーリンは弟子を守ったとも言える。

 ユウタの元には、前に世話になっていた国からいきなり書状が届いてびっくりしていた。やらかし王族とか魔法使いが軒並み処分されたと書いてあった。マーリンはクレアの後ろでサムズアップしていた。



「ついでに異世界召喚なんて術式消し炭にしてきたよ」



 そう言ったマーリンは満足気であった。


 そんなある日、レディアが日用品を持ってやってきた。多少疲れたような顔をする彼に「どうしたんだ?」と尋ねて温かい紅茶を渡した。クレアに気づかれないように他の従業員が先に飲む。頷く部下に苦笑して彼は口に入れた。

 その辺りの動作には気づいているが、「まぁ、そこそこ偉い貴族なんだろうな」とクレアは納得している。なお、第一王子だとは気づいていない。正式に顔を合わせたのはリルローズにドラゴレインへと連れてこられ、謁見した時だけであったし、彼はその時あまり話したりはしなかった。



「身体の中から癒されるようだよ。ありがとう」



 その言葉にぎこちなく微笑んで頷いた。

 身体の中から癒されるようだというのは間違っていなかったりする。特製の茶葉を使用している。ちょっとした疲労には効くがそれだけだ。それだけの効果ではあるはあるが、常用されるのはクレアの本意ではないので、レシピは収納魔法で仕舞ってある。



(作っておいてなんだが、こういう微妙に元気になるものは常用した挙句に、依存することになる者がそれなりに見受けられる)



 研究者にはままある話なのが困る。収納魔法を日常で使うきっかけになったのは、同僚がクレアの研究室を家探ししてまでそれを使用しようとしたからだ。少し回復して眠気が襲う前に苦い紅茶をグイッと飲めば、多少元気になったような感覚になるらしく「平民のくせに生意気だ。貴族の俺様が使ってやるから全部よこせ」などと言ってきた。クレアとしても偶然の産物であったし、一応レシピは残しておいたがそれは嫌な予感がして収納魔法で時空内に放り込んだ。その相手に成果物の話をするんじゃなかったと心の底から後悔した。決まりだったから一応話したが、そんなものを常用しても疲れた身体が全快するわけではない。忠告して残った全部を渡したが、なくなった際に起こったのが家探し事件だ。存在を知った他の人間からも作れと言われたがレシピが残っていないし材料も覚えていないと無理矢理誤魔化した。



(彼らも、すぐ目の前にある下級ポーション用の薬草を煎じて茶葉に加工したとは思わなかったらしいが)



 そんなことを思い出しながら苦笑する。目の前にいる男は明らかに仕事をやりすぎるタイプの人間だろう。であれば、詳細は秘密にしておくのが彼のためだ。



「それにしても、妙に疲れてんな?何かあったのか?」



 クロエがそう切り出す。レディアは困ったように「そんなに疲れて見えるかい?」と言った。実際に疲れて見えるので二人は頷く。



「少し厄介なことがあってね」



 けれどその内容は守秘義務とやらで話さなかった。彼はクレアを都合よく利用するつもりはない。そうなった場合の背後で睨みを効かせる男を相手取る方が被害が大きい。流石に国家に害を及ぼすレベルになれば相談もするが、現段階では話の通じない馬鹿の相手をしなければいけないだけの話だった。最悪武力制圧してしまえばいい。


 ソフィーは気にせずにクレアの好きな甘いものを作るための砂糖や蜂蜜を買っていた。砂糖は高級品ではあるが、クレアはお金だけはある。用意された金額をオーバーしても支払われている給金で足せばいいと思っていた。それをやるとクレアも流石に説教をするが。



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