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54.呪いと望み




 機嫌の良いシャルロッテを不思議に思いながら、クレアは薔薇を何本か切る。リルローズが欲しいと言っていたので、収穫し、水を張った桶につけた。

 外はもう風が冷たく冷えるので、使者が温室まで取りに来ることになっている。



「君の声はどうすれば戻るのだろうね」



 何が嬉しいか、何が嫌か。

 それを伝えるために最も手っ取り早いのは本人から聞くことだろう。突発的な危険にも対応しにくい。相手が年下に見える女の子なので余計にそう思ってしまう。



「まぁ、リヒトもいるし大丈夫だろうが」



 かつて隷属の首輪をつけられていたリヒトではあったが、種族が魔法に長けた者が多いのもあってか本来はそう簡単に遅れを取るような実力ではない。エリアスにも弓の腕は並び立つ者がいないだろう、などと言われている。


 シャルロッテは心配をしている様子のクレアを見ながらニコニコと笑う。クレアがそれなりに優しいのは知っている。そして、彼女が周囲にそれなりに注意も助言もしていたらしいことも知っている。信じなかったとある精霊族の村は大虐殺などと呼ばれた湊町よりも凄惨な目にあったと聞く。


 呪いの繋がりが二本切れた。

 嬉しくて、嬉しくて頬が緩んでしまう。


 切れたということは居なくなったということだ。



「今日は本当に機嫌がいいな」



 そう呟くクレアの向こうからシャルロッテは姉の姿を見つけた。



「シャルロッテ、お話があるの」



 困ったような顔をする姉の赤い瞳に自分と同じ感情を見つけて、彼女は楽しそうにその手を取った。



「クレア、面倒を見てくれてありがとう。リヒトもお馬鹿よね。シャルロッテはあのお馬鹿よりよほど過激だというのに」



 溜息を吐くその姿すら美しかった。じゃあね、と手を振って出ていくのと同時にリルローズの使者がやってきた。そちらに手を取られて、二人のお姫様の違和感から目を逸らしてしまった。



「あなた、声を捧げて呪いをかけたのね」


「あなたの歌声はとても美しかったのに」



 残念そうにそうぼやく姉だけれど、シャルロッテは悪いだなんて一つも思ってはいない。だって、それならばどうやってこの恨みを、憎しみを晴らせばよかったのだろうか。クレアが呪いに気づかないのはシャルロッテの持つ称号によるものだった。その称号を持っていると知っていたのであれば勘付いたかもしれないが。

 エルフとしては幼く、報復する術を持たないシャルロッテができることは少なかった。その中で、より不幸に、災いに見舞われるようにと手を尽くしたに過ぎない。


 目を閉じればいつまでも消えない炎が見える。悲鳴が聞こえる。逃げろと敵と鍔競り合いながら叫ぶ兄。涙を飲んで、走る護衛。逃げる最中に死んだ者も多く、残ったのはベルナルドただ一人だった。


 クレアだって高熱を出して寝込んでいなければ彼女の呪いの範囲に入っていただろう。それが幸か不幸かはわからないけれど、少なくともシャルロッテはクレアがいなかったら今頃コルツ王国で姉をどうにかするために使われていたことが予想できるだけに良かったと思っている。



「思うところはあるけれど、とりあえず魔導師自体は比較的善良そうだし、あの厄介な魔導師の男を敵に回すわけにはいかないわ」



 姉もなんやかんやクレアを認めているようで、それにもシャルロッテは嬉しく思った。

 シャルロッテはクレアを狙っている。保護してもらっている身ではあるが、竜の国の第二皇子よりも自身の兄の方が格好いいと自信を持っていた。種族も生まれ育ちも違うけれど、仇敵の国の出ではあるけれど、能力も性格もシャルロッテには申し分ないと思える。ちなみに自分の兄の感情などあまり気にしていないあたりが姉妹でそっくりだったりする。



「くしゅっ」


「風邪ですか?」


「いや、分からんが妙な悪寒が……」

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