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5.青年を拾う



 一年も経てば流石に通り過ぎていく亜人の数も減った。その代わりに無理やり居着く2人の少女が同居人として増えた。彼女たちはクレアのことをご主人様と呼ぶ。それに不思議な感覚を覚えている。クレアは貴族や大金持ちのお嬢様というわけではない。いや、よくよく考えると今、お金だけはある。近隣の国家で使用できる共通通貨は他のメンバーよりだいぶ少ないものの、クレアにも相当金額支払われていた。


 新しく建てた小屋は、ちょうどいい大きさの小屋を買い取ってそのまま土地に乗っけただけだ。自宅の方はある程度強化しているけど、あくまで通過人たちの仮住まいにそこまで手間はかけてない。倒壊しない程度にはしている。


 最近では奴隷商、というものなども見なくなった。クレアは嫌いだからここを通るなと一応の領主として書面で出していた。けれど貴族でないからか、彼らは意に介さず通過していた。

 ようやく領主がそういうのを嫌っていると理解したのか。そう呟けば、後ろで銀狼の獣人の少女と黒狼の獣人の少女がニコニコしていた。

 彼女たちの笑顔に何か思うところはあったけれど、証拠もなく疑うのは後々後悔することが多いため、あまり考えないようにした。何が起こったとしても、こんなに薄暗い森に入る彼らが悪いのだ。


 銀狼人のソフィーと、黒狼人のクロエ。

 彼女たちもまた、奴隷商に引き摺られてここを通り過ぎようとしていた。そこにクリムゾンベアーという赤い熊型の魔物が彼らを襲い、商品である彼女たちを盾にして彼らは逃げ出したのだ。

 たまたま狩に来ていたクレアは、襲われている彼女たちを助けた。そのだいぶ向こうで野太い声がしたが、点々と血の痕が残るのみだったので結局食物連鎖の餌食になったのだろうと納得している。その数分後に彼女たちの奴隷につける首輪の錠が外れたこともあり、生存は絶望的だ。


 国を越えて行けば良いと勧めたけれど、2人はメイド服を着てここで私の世話をしている。クレアはメイド服を強請る獣人を初めて見た。似合っているけど、それで良いのかと思う。少なくとも、彼女が旅の中で見たメイド服の獣人は憎々しげな顔だった。



 そんなある日、家の外に出たら絶世の美青年が落ちていた。



「落ちてる」


「落ちておりますねぇ?」


「落ちてんなぁ」



 後ろで対称に首を傾げる狼ズ。

 比較的丁寧な口調のソフィーだが、足で蹴飛ばして青年を転がす。一応それを咎めると、「知らない方に手を差し伸べるのはちょっと…」と困ったように笑った。一度奴隷として売られそうになった経験もあって簡単に触れたくないのだろうと納得する。



「男だしな」



 女だったら良い、というよりは男に捕まった時の方が怖いと彼女たちが経験してしまっているせいだろう。

 とりあえず、とクレアは付いている首輪は鍵開け魔法でちょちょいと外しておいた。隷属の首輪なんかつけてよく逃げられたなと思う。そうは思うけれど、やはり表情は動かない。

 この首輪はつけると強制的に命令通りに動かされるという最悪な機能が付いている。逆らうと意識が飛ぶほど強い電撃が流れるのだ。生意気な犯罪奴隷や、近年では非合法な奴隷などにつけられることがある。



「人間以外の奴隷は殆どが非合法だけどな」



 クレアは青年を見ながらそうボヤく。特に祖国の奴隷商のところにいる亜人族は9割、非合法に狩られた奴隷だ。人間も同じことをやられた歴史だってあるというのに、今度は自分たちがやってるあたりがどうなんだろうとため息を吐いた。そのうち歴史は繰り返し、人間狩りが起きるんじゃないかとすら思う。


 とりあえず拾ってくださいと書いてあるわけではないけれど、傷だらけなので青年を部屋に放り込んで治癒魔法をかけた。旅で同行していた聖女には及ばずとも、それなりに使えるのだ。聖魔法でなくて水魔法の応用だけれど。

 旅の最中、治癒魔法を使うことはあまり歓迎されなかった。聖魔法の価値が下がるなどと言われていた。それが怪我や病気をした人間にとってどれだけの価値があるのか。しかし、和を守るために、母の元に帰るためにクレアはこっそりとしか使用しなかった。


 美青年は、身体が回復して目が覚めた瞬間「ここはどこだ!?」と騒ぎ始めたのでクロエが「沈めてきていいか?」と不機嫌そうに言った。



「だから安易に暴力に訴えるんじゃない。待て」


 その言葉にクロエは拳を収める。

 たとえ無表情であっても、彼女たちは自分を助けてくれたこの少女が優しいことを知っている。目の前で殴ることを好まないだろうと納得した。

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