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49.大切なのは報連相




「盗み聞きなんて趣味が良いとはいえないな」



 反応のない男に雷撃を放とうとしたマーリンを見て、慌てて影に潜んだ者は顔を出した。黒猫の獣人は溜息を吐きながら「一応言い訳しとくと、そんなつもりはなかったんスよ」と渋々と言うように口に出した。



「俺たちは耳が良いんで、どうしても聞こえちゃったというか。一応、上に頼まれて護衛してるだけなんで勘弁してほしいっス」


「僕がそれで納得すると思ってるのかな?」


「して欲しいっス」



 にへら、と笑みを浮かべた。それから、真顔になって「誰にも漏らしませんよ、マーリン殿」と述べた。



「まぁ、あのクソうざい第二王子にバレなきゃなんでもいいよ。さすがに弟子に近づけるにはちょっと気持ちが悪い」


「あれでも優秀な王子なんスよぉ」



 実際に仕事はできる。女の子への贈り物センスは致命的だが。そして、権力への貪欲さはなく、兄妹との仲も悪くないとなればどう転んだとしてもそれなりの地位につくであろうと予想されて、女性人気は高い。高いが、彼自身に結婚の意思がなく、竜人族は非常に寿命の長い種であるために縁談を強く勧める者は少なかった。そのような理由からネーロ的には一応伴侶としてそう悪くない相手だとは思うが、エリアスが良くてもクレア自身がそんな気はなさそうだ。



「しかし、稀代の魔導師殿がひとりの弟子に心を砕いているのは意外でしたね」


「そうだね。だから、余計なことをされると僕怒っちゃうかも」



 茶目っ気たっぷりに、少し可愛こぶった声で言ったマーリン。しかしその目は笑っていない。彼女に何かあれば後ろから彼が出てきて全部ぶっ壊していくことなんて容易に理解ができた。

──コルツ王国のように。


 クレアがいたというあの森より向こうは地獄だ。恵みはなく、火が上がり、暴動が起こる。民を大事にしない貴族ほど怒り狂った者たちに引き摺り出され、凄惨に殺される。それは皮肉にもかつて燃やされたあの森の光景にも似ていた。


 滅びへのカウントダウンが始まっているコルツ王国のことを考え、次に思うのは青藍の髪の魔導師はクレアの安寧が保証される限りはおそらく敵には回らないだろうということ。



(根回しは確実に行わないと……)



 誰だって目の前の規格外を敵に回したくはない。「ああ、やっちゃったかな?」なんて惚けた声で言って国をめちゃくちゃにされるに決まっている。


 ネーロの主人は基本的に優しい。国を危険に回すことなどしないだろう。女王もマーリンが嫌いでも、クレアに何かしようとは思わない。



「まぁ、あの子を都合良く使い潰したりしないならいいよ。まだまだガキっぽいとはいえ、成人だ。ある程度は自己責任だからね」



 肩をすくめるマーリンは、そう言って背を向けた。ふと魔力の気配を感じて振り返れば、扉に守護の魔法の形跡がある。



「いやぁ、これある程度自己責任とか絶対ウソっスわぁ……」



 精神状態がボロボロだったと聞いているためか、むしろ過保護になってるんじゃないかとネーロは半笑いになった。

 


「さて、とりあえず交代したら直接報告に行かねぇと」



 後回しにしたら碌なことにならないだろう、とネーロはため息を吐いた。

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