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46.望まれた破滅




 居住区から溢れる魔物、止まらぬ悲鳴、鳴り止まぬ怒号。


──どうしてこうなった。


 聖剣を持ってたち竦むしかなかった。領主様、と叫ぶ声にハッとなって魔物に剣を振る。かつてよりも弱くなった光に口の端を噛んだ。

 民の多くは領主である夫婦を守ることもせずに逃走した。それもそうだろう。自分達を守ってもくれない、支援してすらくれない人間を守りたいと思う者などいない。

 愛する人を先に逃した彼は、雪崩のように押し寄せる魔物を前に撤退を余儀なくされた。


 冒険者は集まらない。大した報酬も出ないのに命をかける人間などいるものか。

 ただでさえ、不作で食糧も不足していた。こんな状況で襲われれば、降嫁した姫がいる領地で他所よりも兵がいるといっても押し潰されるしかない。


 聖女がいれば、とも思ったが彼女は腐敗した聖職者との権力争いに結局負けてしまい、売られるように嫁がされた。最後には誰も助けなかったのだから、彼女がいればなど本当は思う資格などない。


 戦士もギルドを作ったが集まる者はなく、旅の褒賞を切り崩して生活をしている。うまくいかないことに業を煮やしているという。


 斥候の男がどうなっているかを勇者だった男は知らないが、自分達と同じであればうまく行っていないのではないかと彼は考えている。


 思えば思うほど、魔導師が憎らしい。あの女だけが成功している。


 そうではない。国王の悪手に乗って誰も諌めることなく、自分達の好きなように動いて、だからそのしっぺ返しを受けているのだ。

 聖剣の輝きがなくなったのだって、クレアが何かをしたわけではない。元々、資格がほんの少しあっただけ。それが魔王を倒してからの暴虐によって完全に資格を失ってただの剣になっただけだ。


 逃げるために必死に剣を振るうけれど、かつてのような光は放つことができない。段々と追い詰められていくが、彼にはどうすることもできなかった。

 ついに体力が尽きて手から剣が離れる。


 瞬間、魔物は焼き尽くされて離れた剣を拾う者がいた。



「た、助かった。それは私の剣なんだ」


「おまえの剣ではないよ。我が友がその身で鍛えた聖剣だ。間違っても、おまえのような愚か者のためのものではない」



 フードが風で落ちて、青藍の髪がふわりと広がる。憎々しげに勇者と呼ばれた人間を見つめるその男は、笑みを作った。聖剣は彼の掌の上で軽く浮いている。星の光を集めたように力を取り戻していくようだった。



「今、君に返そう。我が友よ」



 悼むような声に応えるように何度か剣が点滅する。ゆっくりと解けていくように消えていくそれに、勇者だった男は絶望したような顔をした。



「まぁ、それはともかくとして」



 完全に剣が消えた後、魔導師の男はいっそ凶悪なまでに美しい笑みのまま、勇者だった男の髪を掴んで持ち上げた。



「よくもまぁ、僕の弟子を使い潰してくれたね?」



 怒りの籠った声に圧倒されて、彼は何も言うことは出来なかった。

 誰にも、本人に対してさえも言わないけれど、魔術師マーリンはこの度の魔王退治及びコルツ王国の所業に関して激しい怒りを感じていた。

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