42.兄妹の再会
本日二度目の更新です。
維持が難しくなって魔法を解く。シャルロッテに姉兄が無事であるのならば連絡をとりたいと言われたから連絡を送ったが、クレア本人としては楽しいものではない。
自らが関与していないとはいえ、当時一緒に旅をしていたのだから恨まれるのは当然だろう。それでも、負の感情をぶつけられるのはそれなりに堪えるものだ。
「まぁ、彼女の望みは何もしなくともそのうち叶うことではあるだろうけれど」
ふむ、と頷いて師から与えられた紙に書き込む。裏に魔法陣を書き入れると形が変わっていく。青い小鳥になったそれを窓際に持っていき、ふぅと息を吹きかける。すると、飛び立っていった。そして、離れるごとに透明に変わっていく。
「まぁ、潰すだの壊すだの、そういうのは向いてないからな。私は(・)」
そうであれば、向いている人物に相談だけでもすれば多少は気も休まるだろう。そんな、ある意味での善意で彼女は小鳥を飛ばした。
魔王との戦いで壊れたところがあるのは、彼女も一緒であった。
それから三日ほど経った頃、リヒトは再びクレアの家を訪れていた。扉を叩き、ソフィーがそれを開ければシャルロッテは一目散に駆け寄った。そんなシャルロッテをリヒトもまた、ほっとしたような表情で見つめる。
「もう再会していたか」
階段の先を見上げれば、髪を三つ編みにしてサイドに流しているクレアがいた。本を数冊抱えて階段を降りてくる。
「妹まで世話になってすまない。恩に着る」
「なに、たまたまだ。気に食わない男の邪魔をしただけだから気にしなくてもいい。ベルナルドにも会っていくか?」
「ああ……。あいつも生きていてくれたか」
感極まったような顔でリヒトは呟いた。抱き上げられたシャルロッテは嬉しそうにニコニコとしている。クレアは医者も来ている事を告げて部屋へと案内した。
「これから少し離れたところに家を用意するという話でしたが」
「そうだね。まぁ、彼らの一族的にも緑豊かな土地に住む方が勝手がいいだろうし」
「とは言いましても、そろそろ冬ですので緑も少なくなっていますけどね」
ソフィーの言葉に頷いて、冬になる前に再会できたことはよかったと思う。
とりあえず、知らせておこうと保護をしてくれている王家に手紙を書いた。
そして、かつて祖国だった国のことを考える。流れてくる話だけでも相当困ったことになっているのは予想できる。せっかく瘴気が薄れたというのに天候と人災に左右されて作物も上手く育っていないらしい。
勇者だ聖女だと言われても、彼らは民に仕えることができない人種だろう。逆は考えても、己が世界を救ったのだという意識は変わらぬまま、けれど貴族として自分を助けてもくれない王族に仕える。
「もう、関係のない話ではあるが」
クレアを多少なりとも助けてくれた人たちは、ほとんど逃げている。冒険者の多い地区に住んでいたのも幸いした。彼らも、クレアたち母娘に対する国の扱いに疑問を覚えていたし、まさか手紙が握りつぶされるなんて思っていなかった。
だからクレアが出て行った時点で「もうダメだな」と察してしまった。
コルツ王国において冒険者というのはさして尊敬を集める職業ではない。高ランクになれば話は違ってくるが、国に保護されるような団体ではなく、だからこそ今後傭兵などとして利益を出せる見込みがあると戦士は新しい冒険者ギルドの開設に踏み切ったのだろう。けれど、国に組み込まれた平民がどうなるのかを彼らは民に見せつけてしまった。
コルツ王国は各地で恨まれている。種族問わず美しい女を攫い、贅沢をやめず、かといってまともな政策一つ打ち出さない王。それを許容する腐敗した貴族。すでにあちこちで種火は広がりつつあるというのに誰かがいずれ対処するだろうと放置している。賢いものほど逃げ出して、甘い汁を啜り続けたいものだけが残っている。
もう長くはないだろう、それは国を出た者の殆どの感想である。




