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39.稀有な存在




 女王は報告書を読みながら少し遠い目をしていた。クレアは相変わらず自己肯定感が低かった。基本的にきちんと称号を持った本来の魔導師というのは希少だ。その称号を得られるほどに才能があり、努力ができる人間など少ないのだ。おまけにあの性悪のように捻くれてもいない。



「いや、あれは自分に正直なだけか」



 かつて、旅をしているとかでふらっとドラゴレインを訪れた魔導師がいた。女の家から女の家を渡り歩き、三日に一度は修羅場を起こす厄介者。顔と魔法の腕以外に誉められるところがない男だった。あれが以前魔王に届きそうだった魔人を単独で斃したというのだから才能のある人間はどこか壊れているものだろうかと思ったものだ。

 そんな男を見たあとだからこそ、まともな魔導師を逃したくはない。しかも、娘が懐いている。


 リルローズは今でこそ幼子のような姿だが、本来の見た目はヒト族でいう16くらいの年齢の少女だった。とある事情であの姿になってはいるが、それでも意外に求婚者は多い。自力で脱走はしたようであるが、誘拐されるくらいには見目の良い姿をしていた。

 以前からそのような事案はあり、家族と少数の使用人以外には心を開かなかった末娘は自分達の種族以外を見下すことで有名な隣国出身の魔導師に懐いた。その時点で信用に足ると思えたが、それだけで判断はできない。住む場所を与えて、遠くから庇護下に入れれば国民の為になる研究結果まで得られた。仕えている獣人二人も隷属させられたことによる命令ではなく、自主的に側に居ることも確認が取れた。



「あの子、慢心せずまともなまま魔導師でい続けられることがどれだけ難しいかわかっていないのよ。それか、親御さんの教育がよほど良かったか」



 長く生きていれば、上位称号を持つ者がどれだけ曲者かを知っている。クレアも自己評価が低すぎる点や価値観に大概問題は抱えているが、多くの者はそれ以上の厄介者なのだ。人にもよるが引きこもりがちになり、酷ければ研究に没頭しすぎて餓死した魔導師や医聖もいる。



「どうされますか?陛下」


「解毒が終わり次第なるべく早く王城の医師に引き渡せ。本職の治療の方が良いと説得せよ」



 宰相はそれに頷いて指示を出しに行くと、「じゃあ、私クレアに言ってくるわ!」とたまたま通りかかったリルローズがウキウキで出ていき、それと張り合うようにエリアスも出かける準備を始めた。



「指定した者が行きますので!!殿下!殿下方!!」



 数名が止めるものの、わかっているというように頷いて出て行くエリアスに「何もわかってねぇ、コイツ!!」と部下は頭を抱えた。



「ネーロ、頼む」


「……かしこまりました」



 どこかウキウキした様子で城を出ていく弟妹を部屋から見下ろし、アレーディアは頭が痛いと言うように頭を押さえながら指示を出した。

 ネーロは「あー、俺の貴重な内勤の日が……」と部屋を出てから呟いた。

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