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35.片目を失った男




 先程拾った少女が助けたがっていたのはこの男だろうとあたりをつけて軽く治癒魔法をかける。それ以上の治療行為はこの場では困難だった。



「あの男は面倒だ。次なんて考えないうちに捕まえておきたかったが」



 勇者一行の中で戦場にて背中を預けられるほどの実力者はおそらく彼だけだっただろう。勇者も戦士も実力者ではあるが、どこか貴族らしいプライドが邪魔して型通りの戦いしかできない二人だった。聖女に関しては、クレアを敵視していたところもあるので、他のみんなについていた祝福が自分にだけついていないということもザラだった。



(まぁ、私も信用できなかったしむしろその方が良かったが)



 自分にだけ能力アップの魔法をかければ事足りたので、クレアはあまり気にしてはいない。


 片目の潰れた男だけを引き取って、他の連中は隠れてついてきていたエリアスの部下が引き取って行った。

 エリアスもすでに帰ってきているらしいが、まだクレアの方には来ていない。共闘していた猫の獣人であるネーロは「あの人、自分が来れないからって部下に見張りに立たせてるから気にせず気持ち悪がっていいっスよ〜」と言っているのであまり変わっていないようだ。


 クレアが平気だと言っても「いやぁ、命令なんで」と家まで送ってくれることになったネーロが倒れた男を抱えてくれた。自己強化の魔法が使えるらしく、小さな体がひょいと大きな男を背負う姿は魔法が関わっているとは知っていてもどこか不思議だ。

 念のためにと追手に対する防衛と妨害の術式を組む。あとは姿くらましの魔法も。

 そこまでやって、クレアたちは家にたどり着いた。傷ついた男を見て多少身綺麗にされた少女が走ってきたけれど、クレアはソフィーの名を呼べば彼女は少女を抱き上げた。



「悪いが、今から治療に入る。キツい薬剤を使うからその子の面倒を頼めるか?」


「かしこまりました、ご主人様」


「手伝いはいるか?」


「要らん。厄介なやつを見つけた。お前達の鼻が利かなくなるのは困る」



 そんな会話をしている間にネーロは指定した部屋に男を運び込んでいた。それにお礼を言ってクレアは振り返って屈んだ。



「治ると信じてやれ」



 そう言うと少女は必死に頷いた。その頭を撫でて、クレアは部屋に向かった。


 クレアを見送った少女は不安そうにソフィーのスカートを引っ張る。何か言いたげな様子の彼女に「大丈夫ですよ」と答える。



「私のご主人様はすごいので」



 ソフィーのクレアに対する強い信頼を目の前にして、ようやく少女は涙を止めた。

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