表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/90

3.国境の森




 魔物や魔獣が多く棲むと言われる森を報奨と言うあたり、クレアを馬鹿にしているのか、引退などと言い出した魔導師ごと厄介払いをしたかったのか迷うところである。

 昔のクレアならもう少しポジティブに考えていたかもしれない。けれど、今のクレアはなんでもマイナス方面に考えが飛んでいってしまうこともあってプラスの面が考えられなかった。


 勇者はクレアに、王女との結婚式に出て欲しがっていた。けれど、クレアは感情の見えない顔で、「めちゃくちゃにされたくなくばやめておいて」と伝言をしてきた。恨まれてないなんて思うのは傲慢だ、と眉を顰めた。

 クレアは勇者パーティーを心の底から恨んでいる。

 たった一人の家族を守るために戦った彼女は、そのたった一人と再会を果たすことすらできなかった。そんな彼女が、望みを果たして幸せいっぱいという様子の勇者を嫌っても仕方がないことと言える。許せない、と思う。けれど、今更彼を殴ったとしてもクレアの愛する家族が戻ることはない。


 世界なんて、国なんてもののために戦ったわけではないのだから。クレアは、母と過ごす穏やかな日々を信じて戦った。

 結果、叶わなかった。

 それを当然とすら思う連中に振り回された。


 信じた自分が愚かだったというだけか、と何度目かの溜息を吐く。


 魔素が多く、それを取り込んだ木々が生い茂る森へと足を踏み入れる。

 家に関しては問題なかった。すでに建築済みのそこそこ使いやすい家を圧縮して、インベントリという収納魔法に突っ込んでいた。収納魔法でもかなり上位の魔法だ。何せ、突っ込んだあと、一覧と目録をステータス画面から確認できる。


 適当に開けたところに辿り着くと、家を取り出す。

 ここに永住するかは分からないので母の遺骨はまだ埋められないか、なんてぼんやりとした頭で考える。

 すると、石が飛んできていたようで、周囲に張った結界がそれを弾いていた。



「誰」



 捕まえるのも面倒だな、と思っていると、憎々しげにこちらを見る耳の尖った男の子と、それを止めるように抱きしめてこちらを睨む女性がいた。



「人殺し!!お前らの方が化け物だろうが、父ちゃんを返せ!!」



 種族的にはエルフだろうか。

白い肌に、輝かんばかりの金色の髪。その美しい(かんばせ)は彼らの特徴とも言える。最も、クレアには彼ら全員綺麗過ぎて同じ顔にしか見えなかった。


 エルフの姫君が王の側妃になった事と、睨みつけていたその顔を思い出す。

 人間が強欲なのか、それとも国のみんなが強欲なのかは分からないが、彼らは人以外を生き物ではないとでもいうように魔物として扱った。正直、クレアにとってはやりたくないようなエグい命令も出ていたし、一部はこっそり逃してあげていた。そんなことができたのなんてほんの一部だけれど、やらないよりはマシだろうと。


 そんなわけで恨まれても仕方がないなと思いながら彼らに目線を向けた。母親は子供を抱き寄せて私から隠そうとしているけど、クレアは魔王とすら張り合えた魔導師だ。その気になったら森ごと吹っ飛ばせる程度には力がある。



(本当に守りたいなら何もせず去るべきなんだよね)



 そんなことをする気はないんけれど、と無表情で彼らを見る。



「見逃してあげるから、さっさとこんな国出ていきなさい」



 一応、そう勧めておく。

 彼らの種族は人間に奴隷として人気が高い。見つかるとろくな目に遭わない。男も女も。

 寿命が長い種族でもあるし、見た目以上に丈夫だ。余計に酷い目に遭う可能性が高いとわかっていた。



「私はそんな趣味はないけど、君のような年頃の子は高く売れるんだ。御母堂と一緒だからこそ高値がつく可能性もある」


「な……!?」


「そういうのは、見ていて気持ちのいいものじゃない」



 同じような姿を持ち、言葉を交わせるというのに、国の連中は彼らを人扱いしなかった。獣人も含めて本当に扱いが酷い。


 国境を越えれば、彼らは環境の違いにきっと驚くだろう。この森が与えられた理由の一つでもあるが、何もない場所ということ以外にもこの先の竜の国はとても強い国なのだ。そこからの戦争の盾になれという意味もあるのだろう。その国では獣人もエルフも妖精もこの国のように差別されることはない。


 この国の王族は、クレアがここにいることで自分達が守られると思っているのだ。



(お前らを守って死ぬくらいなら、彼らの味方をした方がよほど有意義だ)



 嫌われている自覚がない彼らを思い出して、心の中で毒づいた。

 彼女の表情はそれでも凍ったまま、感情を表しはしない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ