29.お礼状
リルローズたちが持って帰った作物は、おいしく料理されて食卓に並んだ。その中には育てるのが非常に難しいと言われるものもあり、女王は「あの子、緑の手でも持っているのかしら」と呟いたが、緑の手と呼ばれる植物をうまく育てるスキルや称号を持ってはいない。単純に食事に困らないために旅の間に開発した魔法の応用が生きているだけだ。コルツ王国の勇者一行がしてきた半ば虐めのようなものがまさかの引退後に生きていた。コルツ王国では現在酷い旱が起きており、それはもしかしたらクレアが国に留まっていたらなんとかなったかもしれないなんて女王は思ったけれど、彼女をあの状態にした国に返そうとは思えなかった。
アレーディアは目の前で首を傾げながら野菜を頬張る妹を見ながら、妹は良い拾い物をしたなと思っていた。野菜嫌いの弟妹はクレアが来てから露骨な野菜嫌いは治りつつあった。弟に関して言えば好きな子が好き嫌いなく食べるのに自分が食べれないのは格好悪いとかいう思春期の少年みたいな理由だった。じゃあもう少し彼女に関する対応に頭を使って欲しいと少しだけ遠い目をした。
妹は今目の前で不思議そうな顔をしているのと理由は同じだ。質が上がった作物を食べて「あれ?美味しい?」と口に運んでいる。今更ながら野菜嫌いが普通に食べられるようになりつつあった。
「そういえば、アスお兄様にクレアからお礼状を預かっているの。誰に渡せば良いかしら」
「私が預かるよ。補給部隊に持たせよう」
クレアからの手紙を預かると、その紙の質に目がいく。細められた目は、それが何か、利益になるかどうかなどを急いで計算していた。
従来の羊皮紙等は動物の皮を加工したものだ。手間がかかり、取れる数も多くはない。
手触りからして、おそらくそれ以外のものだと考えられるが、アレーディアにはまだわからなかった。
「ご主人、そういえばオレイジョウ?に使ってたの羊皮紙じゃなかったけど大丈夫なのか?」
「……え」
クロエに問われてクレアは思わず声を漏らした。クレアは正式な文書だったので羊皮紙を使おうと思っていたし、それで用意していた。下書きではいつも自分が使っていた紙を利用したが。
慌てて自分の部屋の机の上を見ると、羊皮紙が残っていて「やらかした」と若干落ち込んだ声で呟く。
「先生が使ってる紙とよーひし?って何の違いがあるの?」
「これはその辺の草で作った紙で、こちらが動物の皮だ」
クレアの師である、色んな意味ですごい魔導師は羊皮紙が嫌いだった。「なんか気持ち悪くないかい?」とのことである。結果、魔法薬と魔法を使ってその辺の草木を使って紙を生み出す方法を考えたのがその師であった。ちなみに、広めることはしていなかった。
「僕の時間をその辺の塵芥に費やすのは勿体無いだろう?」
彼はそう言ってクレアの頭を撫でながら、「だからお前が僕の時間が無駄にならないよう、いつも死ぬ気で努力しなければならない。わかるね?」などとひどく優しい声で宣った。なお、本性を知っているので当時のクレアはその手を叩き落として「いいからここからここまでの説明をお願いします」と魔術書を差し出すなどしていた。こういったやりとりは通常通りなのである。
「先生の師匠って、問題がある人なの?」
「問題がある人なのではない」
クレアはユウタを見ながら、荒んだ目で告げた。
「問題しかない男だ」
クレアの珍しいその様子にユウタは「一生会いたくねぇな〜」と思ったが口には出さなかった。
なお、後日何処かから知ったレディアに紙の融通を頼まれたクレアだったが、作るのが面倒なので彼に作り方ごとぶん投げた。それは元々羊皮紙を作っていた領地に渡り、数年後には紙の流通が始まったりすることをこの時の彼女たちは知らなかった。
リルローズの兄の呼び方
長兄→アレンお兄様
次兄→アスお兄様




