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28.温室のルビーベリー




 リルローズがガラス張りの部屋に入ると、外との温度に驚いた。ほんのりと涼しくなるように風が吹いているようである。気温的には春のものに近い気がする。

 その中央に、屈み込んだクレアはいた。満足そうに一つ、実を取って魔法で水洗いをしていた。便利な魔法は羨ましいと思いつつも、これも才能だろうとユウタはそれを眺めていた。



「うん。甘い」



 少し、その表情が綻んだ気のするクレアにリルローズは飛びついた。驚き、少しよろけはしたけれど、クレアはそれを受け止めて「こんにちは、リルローズ」と話しかけた。



「ごきげんよう!!」



 機嫌良さげにニコニコと満面の笑みを浮かべながら、「それは何なのかしら?」とクレアの持っていた実を指差した。



「ルビーベリーだよ。一つ食べてみるかい?」


「ルビーベリーって綺麗だけど、すごく酸っぱいじゃない」


「これは甘いよ」



 苦笑して、クレアは宝石のような赤い果実を水の魔法で洗って侍女に渡すと、彼女は恐る恐る口に入れた。



「ん!あ、甘い、甘いですよ!姫様!!」


「嘘!?でもイルヴァが私に嘘つくわけないし……」



 リルローズが侍女の言葉を信じて口に入れると、両頬を抑えて幸せそうな顔をしていた。



「ルビーベリーって、宝石みたいにキラキラしてるけど、すっごく酸っぱい物のはずなのにとっても甘くて美味しいわ!!」


「よかった。従来のものより、寒さにも強くなっているんだ。……まぁ、その分鳥や虫に狙われるんだけど」



 なぜだろうか、と首を傾げるクレアに、リルローズは呆れたように「美味しいからよ」と返す。元々、ルビーベリーはただ美しいと言うだけでキラキラしたものが好きな鳥は集めたりしていた。それがおいしくなったのだからなおのこと執拗に狙うだろう。



「それで、これは王城に卸すのよね?そうでしょ?」


「まずは苗を融通してくれた行商人に渡すことになるが、諸々の許可が得られれば卸せるようになると思う。それに、研究のために温室を貰い受けることができたから完成したけれど、本来は春に実をつけるものだ。今育っているものはともかく、実際に流通するのには時間がかかるかもしれないね」



 すぐにというのが無理だということがわかったリルローズはあからさまにガッカリしたが、それでもそう時間はかからないと感じて納得はした。リルローズにとって一年だってそんなに長い時間ではない。長命種ならではの感覚かもしれない。



「それで、何か用があるのかい?」


「美味しいものができたと聞いたの!予想以上だったわ」


「それは良かった。虫除けの薬がちゃんとできれば流通も容易になると思う。

……それと、君の兄君に書状を認めた。渡すことはできるかな?」



 宛名はエリアス。リルローズの二番目の兄であった。

 クレアも、一応欲しいと思ったものを頂いてしまったのだからお礼をしなければいけないとは思っていたのだ。だが、聞かれてもいないものを用意されれば恐怖が勝ってしまっただけで。よく考えれば不自然なほど様子を見に来て、何も言わずに帰って行っていた。目的が何なのかは未だにわからない。



「お礼状なんだが……」


「あら、別にエリアスお兄様ったら乙女心も理解しないお馬鹿さんなんだから黙って貢がせておけばいいのに」



 リルローズにしてみれば、バレるように付き纏って怖がらせるように贈り物をするエリアスが悪いのだ。ある程度、自分のわがままがエリアスに影響を及ぼした自覚はあるが、エリアスはもう竜人としても立派な成人男性だ。擁護できる点なんてそう多くない。そもそも、リルローズがキレたのだって、誕生日プレゼントに大きな魔物の討伐部位を渡してきたりだとか、塊の肉だとか武器だとかを用意されたりしたからだ。そこからアクセサリーや服、本などに持っていくのにリルローズの方だってかなり苦労した。妹にして、あの強くて顔がいいと思わせる次兄がそんなポンコツだなんてあまり思われたくないものだ。どこの世界に誕生日になんとか産の特殊合金の剣を欲しがるお姫様がいるというのか。いや、いるのかもしれないが少なくともリルローズはアクセサリーとかドレスが欲しい女の子だった。



(アレンお兄様は普通なのになぜアスお兄様ったらああなのかしら!)



 あれだけアレーディアが言い聞かせて、その話を真面目に聞いていたというのに、どうして上手いことできなかったのだろうと思う。



「エリアスお兄様が何かやらかしていたら私に言いなさい」



 いくら自分にとっては良い兄であっても、年頃の女の子が付き纏われたら怖いと思うであろうことを想像できない時点で、リルローズにとってクレアを任せられる男ではなかった。



「わかったよ。ああ、そうだ。少しだけこれらを持って帰るかい?」


「ルビーベリーだけで良いわ。私あまりお野菜好きじゃないし……」


「姫様、好き嫌いはダメですよ」



 侍女イルヴァはそう嗜めて、野菜も含めたお裾分けを受け取った。王城に戻って検品はしっかりとするが、クレア産の作物は美味しいと噂だ。野菜が好きじゃないと言うリルローズでも食べることも知っている。同じく野菜嫌いの第二王子が遠征中なのが残念だ。最も、彼はいくら好きじゃないと言ってもクレアが渡してきたものならば何がなんでも食べただろうが。

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