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25.生きるための練習




 先生と呼ばれるのを不思議だと思いながらも、クレアは彼が魔物を倒すところを見ていた。最初は飛び散る血や、魔物の悲鳴に真っ青な顔をしていたユウタではあったけれど、後ろからクロエが「後ろ!やる気ねぇなら下がってろ、死ぬぞ!」と叫ぶとそれでもと剣を振るった。

 比較的平和な国に生まれた彼はあまり血や悲鳴に耐性がなかった。けれど、生きるためと震える手で剣を握った。



「先生、生きるのって大変だな」



 目の前で倒した魔物の捌き方を教えてもらいながら、彼は死んだ魚のような目でつぶやいた。



「どんな世界でもそんなものだろう」



 それには違いない、と見本を真似るようにナイフを握った。家畜どころか魚も捌いたことがなかったのにとは思うが、旅の道中のことを思い出して、ええいままよと振り落とした。即座にクロエから注意が飛ぶけれど、「次からやる!」と叫び返した。勇者に選ばれただけあって負けん気は強い。ただ、縁がなかったことに挑戦するというのは大変なことだ。すぐにできるようになるとは思っていない。

 旅の途中、狩りをしようとしてもうまくいかず、ただ渡された手持ちのお金を少しずつ切り崩していく日々。勇者だなんて言われて訓練をしてしもらったが、一人で外に出るとこんなものかと自嘲した。


 生活に必要なスキル。それを会得しなければいけない。

 ユウタは実地訓練と言って連れ出されて今ある現実に納得し、吸収しようとしている。


 そんな彼を見ながらクレアも「私もこんな時期あったな」と思いながら臭みを消す薬草や狩った獲物に合う野菜などを選ぶ。選んだ先からクロエが料理しているので若干手持ち無沙汰だ。



「拾ってもらわなかったら、俺絶対死んでたな」



 戦士としての鍛錬も役には立っているが、生活をしていくには足りなかった。しみじみとそう思った。

 狩りに採集、捌き方、野営の仕方。そりゃあ、家にいながらでは学べないことは多い。戦いの際にどのように魔法を使うか、なども含めてもっと頑張らなければと拳を握った。



「そういえば、先生は杖でツノウサギ殴打して倒してたけどあれって俺に教えたのと同じ強化魔法なんだよな?」


「そうだよ。君の実習として連れ出しているんだからそれ以外を使ってもあまり意味がないだろう?」


「先生って使えない魔法ないの?」



 その問いにクレアは少しだけ考えて「知らない魔法は使えないな」と答えた。



「そも、私が師匠に目をつけられたのもそういう……ほとんどの魔法に適性のある体質あってのことだし」



 意外とそういう体質は珍しい。

 クレアが使えぬ魔法は、知らない魔法と禁術だけだ。クレアの師は非常に性格が悪く、性根も良くない。顔と魔法の腕だけは非常に良かった。それ故に、あちらこちらで暴れ回っても女性の取りなしで許されている。一瞬、にんまりと笑った師の姿を思い出してクレアは溜息を吐いた。

 あまり思い出してはあの悪魔のような師が寄ってきそうで、振り払うようにかぶりを振った。

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