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17.ある意味での苦悩




「報奨が追いつかない」



 白銀の髪を持つ、竜人の女王は真顔でそう言うと、息子である第一王子も真顔で頷いた。

 ドラゴレインでも一部地域ではなかなか作物が育たなかったり、蝗害などで酷い目に遭ったりしていた。虫による被害はまだあまり防げていないが、それは他の地域で豊作だった作物を国が買い上げて食物を配布することでなんとかなっている。干魃や洪水がなくともいくつかは問題が起こるものだ。


 なのに、当の本人は不思議そうな顔で首を傾げる。以前より表情がわかりやすくなってきたのは結構だが、大した事してないと思っているのは勘弁して欲しい。

 ちなみに、もう一人の息子が作らせているものが完成してクレアの研究が進めば、虫による被害も減らせる可能性が高い。国民を飢えさせることがない、というのは国にとって大変重要なことだ。民がいて、国家を運営できるだけの税収がなければ国というのは成り立たない。



「それとなく、欲しいものがないかを探れば、新しいことを始めようとしていますしね」



 趣味なのだろう、ということを理解しながらも第一王子アレーディアは苦笑した。

 エリアスに聞いても要領を得ないことも多く、彼がぶらっと聞きに行くこともある。最近の彼女の庭が実のなるもの多めなのは、彼が調達して渡しているのも結構大きい。甘くすることに情熱を燃やしている彼女を見るのは結構楽しかったりする。



「あの国、あんな子を外に出してよかったのかしら?何か言ってきても返しはしないけれど」



 食料自給率が上がり、勉強を嫌っていた末娘がちゃんと勉学に手をつけるようになり、国としては非常に嬉しい。

 ちなみに、末娘リルローズがきちんと勉強を始めたのは重々しく呟かれた「学がない者は狡猾な者たちに食い物にされる運命なんだよな」というクレアの呟きであり、震えながら長兄に話した時に「よくある話だね」と感慨深げに肯定されてしまったことに起因する。



「我が国に害がないのですから良いではありませんか」



 ただ、弟のエリアスが付き纏いをしていることは気にかかる。クレアは今のところ恵みをもたらす金の卵だ。聖女よりも聖女らしい。癒しと結界も大切であろうが、それが一つの国の、しかも貴族にしか適用されないのであれば何の利益にもなりはしない。

 どんな方法であっても国に居てくれるのであればありがたいし、離れる原因になるのであれば弟の方をある程度コントロールしなければいけないだろうか。

 母親に似た笑顔でそんなことを考える。けれど、その外見は清楚な雰囲気のある美形なので何を考えているのかなんて多くの者は気づきすらしない。



「とりあえず、爵位でも与えておく?」


「であれば、相応の言い訳は必要かと。彼女はそういうのは興味がなさそうですし」


「そうよねぇ」



 良くも悪くもクレアには欲が見えない。あらゆるものを諦めているともいう。だからこそ何かを渡す時にある程度理由をつけなくてはいけない。

 アレーディアでいうと、作物を渡すときは「寒さに弱いらしく」とか「この辺りでなんとか作りたい」とか相談をするという形で受け取らせている。結果的に多少育てやすく品種改良して返ってくるが、基本的には彼女が欲しいと言ったものを融通しているだけだ。ただ与えるだけであると断られるのを知っているので慎重に言い訳を考えなくてはならない。


 そういえば、とアレーディアは思い出す。リヒトという名のエルフ族の青年が妹を探すために離れたようであった。



「警護も増やした方がいいな」



 リヒトは攻撃に特化したタイプではなかったけれど、腕のいい魔法士だった。それはエルフのほとんどがそうであるのだけれど。その彼が離れたのであれば多少身の回りを固めないといけないのはセキュリティ上仕方のないことだった。たとえクレア本人が魔王と張り合う魔導師であっても。

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