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14.平穏な生活




 ドラゴレインにたどり着いてから、家を与えられてようやく落ち着いたクレアはのんびりと畑に水を撒いていた。薬草・野菜・果物を植えた畑は青々としている。毒草の類はリルローズが来ることからも植えていない。

 やっと訪れた平穏な暮らしに、彼女はようやく母の死と向き合う時間ができた。そのおかげか、表情は少し柔らかくなったようである。



「ご主人!飯だぞ」



 窓からひょっこり顔を出すクロエに「ありがとう、今行くよ」と返すと如雨露を置いた。


 ヒト族を嫌悪する者もいるが、自分達に対して何もしない少女を虐げるほど、この国の人間は彼女に対して思うところはなかった。虐げはしないが、わざわざ関与もしない。その姿勢はクレアにとってとても心地よかった。


 クレアが食堂へ向かうと、久しぶりに見る青年がすでに座っていて目を丸くする。その後ろで複雑そうなリヒトもいて、クレアは首も傾げた。



「第二王子殿下、なぜこちらへ?」



 リヒトはそこそこの頻度で様子を見に来るので気にしていなかった。むしろそれはどうなんだろうとソフィーとクロエは思っていたけれど彼女たちは何も言わなかった。そもそも、クレアの心の壁を取っ払って、鈍い彼女に恋愛をさせる人間でなくてはどっちにしたって良い関係を築いていけるわけはない。どう考えているかわからないリヒトにも、わかりやすく一目合ったその瞬間から目で追っているエリアスにも肩入れするつもりはなかった。

 何より、現在せっかく穏やかに過ごしている主人を煩わせることはないと思っていた。


 だから、奥手なのか中々そばに寄ってこないことに安心していたのだけど。

 白い目で見られていると気づきながらもエリアスは話し出した。



「そろそろ、君が困ったことがないのか聞きにきた。実際に過ごしてみると、意外なところで躓いたりするものだしな」



 その心遣いを嬉しく思ってクレアは素直にお礼を言う。そっと目を逸らしたエリアスの耳が少しだけ赤かった。



「今のところ、特に問題はありません」



 豊穣の魔法の開発や、魔道具、魔法書の開発など、そろそろやりたいことも出てきていた。コルツ王国では生活に関わる魔法はあまり歓迎されておらず、もっぱら戦争に関する攻撃用の魔法が求められた。

 クレアは魔法士から順序を踏んで魔導師になった。そんな彼女に求められたのもそれらの魔法であったけれど、どうにもそういった攻撃魔法は得意ではなくて、研究には関係のない事務仕事などを任されがちだった。そんな魔導師が勇者パーティーに入れられてしまったのだ。心身を病んでしまっても仕方のないことだったかもしれない。



「かつてやりたいと思ったことを少しずつでもさせていただけることを幸運に思っています」


「やりたいことが見つかったのならばよかった」



 リヒトは少しホッとしたように表情を緩めた。

 彼もまた、彼のやりたいことをするために動き出したところだ。きちんと自分で立てるようになった彼女を見て、もう心配いらないと思った。それは少しだけ寂しいが、ヒト族の成長はエルフ族である自分と比べて早いもの。そういうものなのだろう、と自分を納得させた。

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