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ダウンロード彼女  作者: いさら
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Prologue


「また明日ね、ヒロ君。明日は一緒にパンケーキ食べに行こうね!」






 また明日ねと言った幼馴染、柊柚葉が次の日、現れることはなかった。








 第一章 



 「今までありがとう、ひろき君。楽しかったよ」

 黒髪ロングのおとなしそうな見た目の、王道お姉さんキャラの見た目をしたその子は、俺にそう言い残して消えてしまった。いや、無機質なものに変わってしまった。

 そんな彼女が、ひろき君と呼んでいたのはこの俺、各務弘樹。近場の大学に通う大学二年生。母親は俺が若いころに亡くなり、家族は親父と二人きり。その親父も単身赴任で県外で今は暮らしており、実質一人暮らしのようなものである。

 「やっぱお姉さんキャラもわりといいな」

 話は戻るが、さっきのお姉さんは魔法で誰かに姿を変えられてしまったわけでも、俺の夢が覚めてしまったわけでもない。元々、彼女は人間ではなかった。

 ただ、夢が覚めてしまったというのはあながち間違いではないかもしれない。

 なぜならこの子は俺が、『こんな子と彼女みたいにイチャイチャしてみたい』と想像した姿だからだ。けど別に、今の全部が妄想の中での出来事。というわけではない。現実で起きていた、正真正銘のリアルである。

 詳しく説明しよう。これは今、日本で大ブームを巻き起こしているソフトウェア、『ダウンロード彼女』というソフトの力である。

 ダウンロード彼女とは、頭に装着する機械と、それをコードで繋いだ、粘土のようなもので出来たハード。装着者がこんな子がいたら、あんな子といれたら。と想像した姿を忠実に再現することが出来る。

 脳から受け取った情報を粘土のような塊にダウンロードしていき、ダウンロードが完了すると、使用者の想像した見た目や性格、声など奈を忠実に再現した、本物と見分けのつかない、一人の人間が出来上がる。

 「ほんとなら、あの千年に一度の美少女、橋本杏奈とか、ナンバーワンコスプレイヤー、えらことかを彼女にしたいけどなあ」

 想像力が強ければ強いほど、それに近しい人間が出来上がる。ただ、現実に存在する人間と全く一緒にはならず、どれだけしっかりとイメージが出来ても、少し調整された人間が出来上がる。

 サービス開始当初、あまりにも出来過ぎたサービスだったため、日本の健全な男性(特に童貞諸君)がこぞって使い始めた。

 人によって使い方は様々で、多かったのはやはり、オタクたち非リア充で、アニメキャラやアイドルのような女の子をダウンロードしていた。他にも彼女いる男が気分転換で違うタイプの女の子をダウンロードしたり、はたまた孫たちがいないおじいちゃんおばあちゃん達が、孫のような子をダウンロードしたり。本当に多岐にわたって利用されていた。

 ダウンロード彼女の数少ないデメリットの一つとして、性的なことが出来ない。というものがあった。

 ダウンロードした彼女には性器が存在しないのだ。胸にふくらみはある物の、先端は存在せず、綺麗なまるがあるだけ。また、下腹部にも存在せず、まったいらである。

 お尻はある物の、お尻はボタンのようなものになっており、故意に人が触ると反応して、元の無機質な物体に戻ってしまい、一ヵ月は使用が出来なくなるという徹底っぷり。

 それでも、性交が出来なくてもこの子と一生二人でいるんだ。という純粋ボーイが一定数おり、ダウンロードした彼女と結婚するという事例が続出した。

 少子高齢化をさらに加速させることとなったダウンロード彼女に、政府からとある制限が課せられた。それは、『ダウンロードした彼女は、最長でも一週間で消えてしまい、二度と同じ彼女がダウンロードされることはない』という物であった。

 「あのお姉さんもいいと思ったんだけどなあ」

 どれだけ自分の好みの子がダウンロードされたとしても、一週間もたてば消えてしまうし、もう絶対に会うことが出来ない。

 たとえ本物の人でなかったとしても、大切な人間を失ってしまうその苦しみは、俺には痛いほどわかる。

 だからだろう、このサービスのユーザーが、そして俺も、自分の本当に好きなタイプとは少し外した彼女をダウンロードする事が少なくはなかった。

 そうしないと心がもたないから。大切な人間がいなくなる苦しみを、すぐに拭うことなど出来るはずもない。かつての俺がそうだったように。

 「さあ次はどんな女の子をダウンロードしようか」

 俺は頭に機械を装着してベッドに横になった。

 幸いにも今は大学が夏休みのため、ダウンロード彼女でまた遊んでいられるのだ。

 機械を装着後ダウンロードを開始し、一定時間ダウンロードする彼女の事を頭に浮かべる。そしてデータの読み取りが完了すると、ピーという音がする。その後機械は装着したまま就寝する。使用者が就寝中に粘土のような物体が、人の形に変わっていき、使用者が起きたタイミングで、人になったそれが声をかけてくれるのだ、『おはよう』と。

 「あの頭の機械外す瞬間がドキドキなんだよな、どんなかわいい子が目の前にいるのかって」

 俺がこんなにダウンロード彼女にはまった、というよりのめりこんでしまったのにはきっかけがある。まったく思い出したくないトラウマだ。

 俺には昔、幼馴染がいた。小さいころからずっと一緒にいた大好きな女の子だ。大学生になっても同じ学校に通い、本当に毎日一緒にいた。

 あの日までは――

 大学一年生の夏、俺の幼馴染、柊柚葉は交通事故によって亡くなった。柚葉が帰り道に信号を渡っていた時、手前で止まるはずのトラックが、ブレーキをかけることなく、彼女めがけて突っ込んできた。原因はトラック運転手の居眠り運転。

 ずっと一緒にいれると思っていた。この幸せが続いていくと思っていた。

 だからこそ、自分の思いを伝えることはせずにいた。もしかしたらこの関係が変わってしまうかもって怖かったから。

 けど彼女は、なんの前触れもなく、この世界からいなくなってしまった。俺を残して。

 なぜ彼女なのか。彼女は悪いことなど、何もしていない。母親が死んでしまったさみしさを、埋めてくれたのはあの子なのに。あんなにも優しい彼女が死んでいい理由などどこにもない。

 彼女にありがとうをもっと伝えたかった。彼女のためにしてあげたいことがいっぱいあった。彼女に、好きだと、ちゃんと伝えたかった。

 もう一度だけでも会いたい。そして、ちゃんと自分の気持ちをすべて伝えたい……


 そうして俺は、ダウンロード彼女に手を出した。ただの現実逃避。そんなことは分かってはいる。けど、そうでもしないと俺の心がもたないのだ。

 俺が昔の事を思い出し、辛くなってきたせいか、すごく眠くなってきた。

 この眠気に身を任せ、夢の世界へと潜っていく。

 「そういえば…… だうんろー、ど……」

 今日はもう眠りにつこう、明日にでもダウンロードすればいい。今はもう、このまま眠るだけで……








『ピィ―――――――』


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