消えゆく花と華
小さきものに手を添えば
咲く花はとても美しく艶やかなるが
一度水を与える事を忘れれば
その花は種となりて
遠くに飛び立つ事なり
我が手を離れるその時を
離すまいと掴むとき
その花は
もう私に魅せる事のない
後ろ姿しか見ることができぬまま
ただ悲しき涙を流すのみ
きっともう
私は笑うことができぬだろう
咲華散華、死奏冥界
······
いつからだっただろうか
小さな蕾をみつけ
手入れをする毎日が楽しく
その蕾も期待に応えてくれる
それが楽しくて
それが嬉しくて
いつか花開く事を夢見て
蕾に話しかけた
キミはどんな花を咲かせるんだい
蕾は答えなかった
今日は空が青い
ひまわりの様に黄色くなるか
あじさいの様に鮮やかなものか
僕はキミの成長を見たい
······
それは冬のイベント
その蕾は僕と親しく話をするようになっていた
共に仕事をし、共に乗り越え、共に過ごす毎日
僕たちの時間はとても楽しいものだった
そのイベントで隣の席になり
酒を交わす中で
ふと思った
蕾が花を開こうとしている
その花は紅く
その花はまだ儚い
ノドがゴクリと鳴った
今日イベントが終わったらどこかへいかないか
気づけばそんな言葉が出ていた
その瞬間
一気に花が開いたのだ
彼岸花の様に開き
血の如き紅く
しかし細い脚は
僕の懐へと入ってきた
気づけば僕は花を
その手を引いていた
交わる2人
それは情熱の如き紅
僕たちは一線を越えたのだ
花弁を貪り
その反り立つモノを沈み込ませると
花は艶やかな声を出した
それはもう
華であった
·······
それからというもの
時を見ては貪り合い
互いを求めては狂い咲き
果てるまで何度も何度も
このままいつまでも
共にいたい
きっと共にいれるだろう
そんな余裕があったが
僕はいつしか
水を与える事を忘れていた
愛情を与える事を忘れていた
ただ欲望のままに
貪り尽くしていたのだ
·······
季節は冬となり
たくさんの花は散り
一面白い景色になる頃
紅い華は
僕の前から消えていた
いや
種を飛ばしてどこかへ消えていったのだ
残ったのは茎だけ
そこに華は確かに咲いていた
僕は温もりに満たされていたはずなのに
一面の白い景色は
とても冷たくて
どうしようもなく切ない
あの日から
何度も何度も求めた
華がなくなってから
何度も何度も水を与えた
白い景色は
水を簡単に吸い取ってしまう
いつしか
茎さえも飲み込んでしまったそれは
もうどこにあるかさえわからない
すべてを失った僕は
中身のないただの容器
輝きはとうに失い
気づけば誰とも関わりをなくし
あの紅い華に夢中で
散りまでも吸い取られたのかもしれない
パタリと白い景色に倒れた僕は
茎とともに
飲み込まれてしまった
咲華散華、死奏冥界
咲いた華は愛情をもらえぬまま散華し
愛情を与えなかった僕はすべてを失い死を迎え
深々と降る雪の音に倒れ
冥界へと誘う