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第7話~実習生は完璧人間~

冴島「渡くん?」

渡「はい?」

冴島「言うのが遅くなって悪いんだけど・・・」

渡「なんですか?」

冴島「今日から大学の実習生がくることになってるから。」

渡「はー??今日から?なんでそういうこと直前に言うんですか!?」

冴島「だから、謝ったじゃない・・・」

渡「・・・謝ればなんでも許されると思わないでください。」

冴島「え?なんでも許されるんじゃないの?」

渡「許されません!!・・・この際だから言わせていただきますが、いつぞやのお昼ご飯代。先生が財布忘れたって言って立て替えてあげたお金・・・未だに返してもらってないんですが?」

冴島「えー。忘れて風化させようと思ってたのに・・・」

渡「風化なんてさせません!・・・これ、契約書!先生の書いたサインですよ!」

冴島「んー・・・こんなの書いたかな?」

渡「なんなら筆跡鑑定でもします?・・・払わないなら・・・出るとこ出ますよ?」

冴島「出るとこってどこ?」

渡「法廷です!!」

冴島「そんな、渡くんってば大袈裟だな。たかが380円でしょ?すぐ払うからさ。」

渡「んじゃ、今この場で即刻払ってください!」

冴島「んー・・・今月私の財布かなり厳しいんだよね・・・だから、もう少し待って?」

渡「嫌です!!」

冴島「そんなこと言わないでさー。」

ユータ「こんちは!」

渡「あ!ユータ!丁度よかった、先生のカバンから財布探して!」

冴島「そんなことしても無駄だよ。残念ながら、今日は財布家に忘れて来たからね。」

渡「はー?財布忘れてくるとか社会人にあるまじき行為です!もし、緊急で金が必要になったらどうするつもりですか?」

冴島「そりゃぁ、渡くんに借りるに決まってるでしょ?」

渡「・・・先生だけには二度と貸しませんから。他あたってください。」

冴島「そんなー。冷たいねー。冷酷・残酷・酷すぎるよ・・・」

渡「んで、ユータは何しに来たの?」

ユータ「あぁ。これこれ。郵便来たから届けようと思って。」

渡「え?これくらい帰ってから自分で見るからよかったのに・・・」

ユータ「それが・・・祥子が絶対喜ぶ葉書が一枚混ざってんだよ。」

渡「ん?・・・喜ぶって?」

ユータ「見ればわかる。」

渡「・・・え!?ちょっと待ってちょっと待って!!うそ!?・・・綿來ミラ主演月9ドラマのエキストラ出演のお願い!?!?」

ユータ「前に祥子が応募してただろ?選ばれたんだよ!!おめでと!!」

渡「うそうそ!!マジですか!?ほんとに!?やったー!ミラちゃんに会える!!」

ユータ「けどさ、条件があるみたいだぞ?」

渡「え?」

ユータ「赤文字のとこ読んでみな?」

渡「・・・渡さんの他にもう1名お連れ願います・・・うそ・・・え?じゃぁなに?もう一人連れて行けなかったら、参加できないってこと?」

ユータ「みたいだぞ?」

渡「・・・もう一人・・・誰かいないかな・・・百花行かないかな?」

ユータ「いや、年齢制限あるみたい・・・青文字のとこに書いてある。」

渡「え?・・・ただし20歳から40歳・・・そんなー・・・」

ユータ「あ!大樹兄さんに頼んでみようか?」

渡「え?・・・いや、ダメ!・・・だって、撮影中にさ「ミラちゃーん」なんて大声で騒いでるとこなんて恥ずかしくて見られたくないもん・・・」

ユータ「?そうか?」

冴島「やはり江藤くんのこと・・・」

渡「先生?今、どちらが上の立場かわかってます?」

冴島「おー、恐い恐い・・・」

渡「ん?上の立場?・・・先生。このエキストラ出演・・・一緒に来てください。っていうか来い!」

ユータ「祥子?」

冴島「命令ですか?」

渡「私がその気になれば、契約不履行で先生を訴えることだってできるんですよ?・・・でも、できればそんなことはしたくない・・・この際、380円のことはきれいさっぱり忘れてあげましょう。」

冴島「いやー。さすが渡くん!」

渡「ただし!一緒にエキストラの撮影に行ってくれることが条件です。」

冴島「え・・・」

渡「おーほっほっほ!さぁ選びなさい?契約違反のおっさんになるか、月9出演の男になるか!私はどちらでもかまいませんよ?」

冴島「んじゃ、契約違反のおっさんでいいよ。」

渡「お願いします!!!お願いしますから!一緒に来てくださいよー!!380円ちゃらでいいですから。ってかむしろ、私が出演料お支払しますからー!」

ユータ「おっちゃん。俺からも頼むよ。祥子、綿來ミラの大ファンなんだって。会わせてやってくれ。」

冴島「冗談ですよ。ついていきます。」

渡「先生ー!!」

冴島「その代わり、380円は払いませんので・・・」

渡「結構です結構です!ミラちゃんに会えるなら380円くらいどうってことありません!」

冴島「・・・それはそうと、そろそろ実習生来ますよ?」

渡「あ。そうでしたね。んじゃ、エキストラ出演の話お願いしますね。」

冴島「はいはい。ユータ君も、驚かせたら悪いですし、とりあえず今日は帰っていてください。」

ユータ「んま、おっさんのお陰で祥子も喜んでるし、命令に従いますか。」

冴島「命令と言うかお願いなんですけどね・・・」

ユータ「んじゃ、俺帰るなー?」

渡「うん。わざわざありがとねー。」

冴島「さてと・・・実習生に・・・何をさせてあげればいいものか・・・」

渡「え・・・なにも計画してないんですか?」

冴島「えぇ。」

渡「はぁ・・・毎度ながら先生・・・もっとしっかりしてください・・・せっかく実習に来て何も得るものなかったら、あまりにも可哀想です。」

冴島「では、見学と言うのはどうです?見学は、見て学ぶと書きます。見るだけで勉強になるんですから最高でしょう!」

渡「・・・それじゃ実習になりませんよ・・・」

冴島「・・・んま、なんか適当にカルテの書き方でも教えてあげますかね?」

渡「・・・はぁ実習生が可哀想・・・」

沢田「(ノック)」

冴島「どうぞ?」

沢田「失礼します。」

渡「あ。実習生さん?」

沢田「はい!今日から3日間お世話になります!沢田琴乃です!よろしくお願いします。」

渡「よろしく。私は看護師の渡祥子です。」

冴島「冴島孝徳です。よろしくね。」

沢田「はい!先生は、超能力の研究をなさってるんですよね?」

冴島「まぁ、今はちょっとお休み中だけど・・・」

沢田「先生の講演、よく拝聴させていただいてました。」

冴島「え?あぁ・・・」

沢田「最近はあまり講演なさってないみたいですけど、なにかあったんですか?」

冴島「いえ。ただ、ここの科の仕事が忙しくてね。」

沢田「へぇ・・・この特異体質科って、超能力者さんがいらっしゃるんですよね?すごいなー。私もぜひ超能力者の方にお会いしてみたいです!」

冴島「・・・そう。でも、まぁ滅多に来ないから・・・」

渡「あ、とりあえず荷物ここに置いていいよ?」

沢田「あ。ありがとうございます。」

冴島「すいませんね。散らかってて・・・」

渡「片付けても片付けても先生が散らかすんです・・・」

沢田「意外です。講演の時はしっかり者のイメージだったんですけど。」

冴島「そうですか?・・・」

沢田「えぇ。私が初めて先生の講演観に行かせていただいたのは4年前の5月16日の雨の日だったんですが、講演中先生話ながら手元の資料を最初の30分間のうちに合計13回も、こうトントンって整頓してたんですよ。私それ見てきっとすごい几帳面な人なんだろうなーって思ってたんです。・・・だから、すっごい意外です。」

渡「日付まで覚えてるんだ?・・・しかも、回数まで覚えてるなんて・・・すごいね。」

沢田「私、記憶力だけは良くて・・・なんか色々覚えちゃうんですよね・・・」

渡「すごいなー・・・記憶力よかったらテストとかも楽勝でしょ?」

沢田「まぁ、はい。・・・教科書とか一回読んだだけでどこに何が書いてあるか全部覚えちゃって・・・でもそれって反則みたいで・・・ちょっと申し訳ないって言うか・・・」

渡「そんなことないよ。記憶力がいいんだから、それは自分の武器にしていかなきゃ。沢田さんはやっぱり、将来お医者さん目指してるの?」

沢田「医者になって一人でも多くの人手術して助けたいなって・・・」

渡「そっか。手術ねー。こわくない?」

沢田「・・・私子供の頃、病気で手術したんです・・・手術するってきいてから、眠れないくらいこわくて・・・けどそれを見た私の担当の先生が毎日ずーっと一緒にいてくれて・・・手術の直前には、こわいとか心配とか全部なくなってたんです。毎日一緒にいてくれたこの先生が私を助けてくれるんだって思ったら、全然心配じゃなくなってました。むしろ全部先生に任せて、私は目つぶってるだけでいいって思ったらすごい楽でした。」

渡「いい先生だね。」

沢田「私も、手術の恐さとか心配・・・そういうの全部取り除いてあげられるような・・・そんな医者になりたいんです。」

冴島「素敵な話ですね。私もぜひ、そんな医者になりたかったものです・・・全ての人を救える医者に・・・」

渡「先生・・・」

沢田「先生も十分すぎるくらい立派な、素敵なお医者さんですよ!」

冴島「・・・ありがとうございます。」

渡「さて、ちょっと片付けするから手伝って貰おうかな?」

沢田「はい!喜んで!」

渡「じゃ沢田さんこの辺の本お願い。」

沢田「はい!」

渡「私は床の掃き掃除するから。」

冴島「いやー。手間をかけさせてしまってすいませんね。」

渡「まったくです!少しはきれいに部屋を使ってください。」

沢田「仲がよろしいんですね?」

渡「全然。先生がしっかりしてくれないから、私がいつも迷惑こうむってるだけだよ。」

沢田「ここで働けたら、楽しそうだな・・・」

冴島「医者になってぜひこの病院に来てください。」

沢田「はい!がんばります。」

渡「その時はよろしくね?」

沢田「はい。よろしくお願いします!」

渡「さ、片付け片付け。」

冴島「渡くん。この資料神経内科の前原先生のとこに持ってってくれる?」

渡「自分で持ってってくださいよ・・・どうせ暇なくせに・・・」

沢田「私持っていきましょうか?」

渡「え?いいよいいよ。それに、うちの病院広すぎて神経内科の場所とかまだわかんないでしょ?」

沢田「大丈夫ですよ。全部場所記憶してます。1階で案内図見ましたし。」

渡「けど・・・」

沢田「たしか、入り口入ってすぐの、受け付けから真っ直ぐ進んで右に曲がったら、売店・自販機があって、左に行ったら放射線科の奥にMRI・CT・レントゲン室と心電図の部屋。受付の前の階段から上ったらリハビリ室があって、売店の前のエレベーターから2階に上がって右側に採血室と脳神経外科・神経内科。その奥にトイレがあってそこは検尿室になってたはずです。その隣に泌尿器科、エレベーターからおりて左に行くと皮膚科・眼科・耳鼻科があって3階でエレベーターおりて右に行くと産婦人科・小児科・整形外科で左に行くと麻酔科と精神科、そして特異体質科がある。4階は新生児室で、別館の3階は病室ですよね?」

冴島「・・・」

渡「・・・すごい」

沢田「え?」

渡「私なんて、全部場所覚えるのに2か月はかかったのに・・・それをたった一日で?」

沢田「なんか案内図見たら覚えちゃって・・・2階の神経内科の前原先生に持っていけばいいんですよね?」

渡「けど、さすがに前原先生の顔はわかんないでしょ?」

沢田「いえ、この部屋に来るまでにそこの廊下で小児科の森先生と売店のところで放射線科の秋山先生と、エレベーターの中で前原先生と出会ったので顔わかりますよ。」

渡「担当の科までよくわかるね・・・」

沢田「だって、名札に全部書いてあるじゃないですか。」

渡「にしても、名札じっと見てたの?」

沢田「いえ、とくに・・・目に入っただけですよ。」

冴島「とんでもない記憶力ですね・・・」

沢田「ありがとうございます。」

冴島「そういうことなら、沢田さんに頼もうかな?」

沢田「はい。じゃ渡してきますね。」

渡「いってらっしゃーい。・・・いやー。あの記憶力・・・羨ましいなー。」

冴島「・・・普通じゃないですね・・・」

渡「え?」

冴島「ユータ君がいればよかったんですが・・・」

渡「?超能力関係ですか?」

冴島「えぇ。あれは、ただの天才ではないでしょうね・・・」

渡「ユータ呼びましょうか?」

冴島「いえ。明日でいいですよ。ユータ君と一緒に来てください。」

渡「わかりました。」

冴島「・・・試してみますか・・・」

渡「え?」

沢田「戻りました。」

冴島「はやかったですね?」

沢田「はい。丁度麻酔科に用があったそうで、エレベーターの前にいらっしゃったので渡しておきました。」

冴島「ありがとうございました。」

沢田「いえいえ。こんなことでよければなんでも手伝いますんで。」

冴島「・・・あ・・・しまった・・・」

渡「先生?どうかしました?」

冴島「いえ。さっきの資料に、参考文献の本の名前とページ数が書いてあったんですが・・・それを自分用にメモしておくのを忘れました・・・」

沢田「あ、それってもしかして一番上になってた資料の56行目と81行目の「神経と運動・第2版」31ページと「脊髄損傷」142ページのことじゃないですか?」

冴島「あぁ。そうですそうです。さすがは記憶力抜群の天才ですね。助かりました。」

渡「ほんとにすごい記憶力だね・・・」

沢田「いえいえ。」

冴島「おや?電話だ・・・はい?おぉ、前原くん。資料とどいたかい?・・・あぁ。今日から来た実習生の子だよ。・・・え?・・・はいはい。里中さんね?わかりました。はーい。」

渡「先生?」

冴島「二人とも。患者さんだよ。神経内科からで・・・もしかすると超能力かもしれない。」

沢田「超能力者さんですか!?」

冴島「沢田くん。好奇心があることはいいことですが、君が実習生であることは患者さんにとっては関係のないことです。この病院の一職員として節度ある行動を頼みますよ。」

沢田「あ・・・はい。すいません。」

冴島「渡くん・・・扉開けて?」

渡「え?なんで・・・」

冴島「いいから。」

渡「はぁ・・・」

沢田「え!?誰!?」

里中「・・・すいません・・・」

冴島「どうぞ、入ってください。」

里中「失礼します・・・」

沢田「なんでドアの前につっ立ってたんですか?」

里中「ごめんなさい・・・私・・・こわくて・・・自分が・・・恐いんです。」

渡「大丈夫ですから。こちらへ・・・」

冴島「里中梨香さんですね?」

里中「はい・・・」

冴島「大体の話は、前原先生からうかがいました。・・・力の加減ができない・・・と。」

里中「はい。・・・触るもの・・・全部壊してしまって・・・扉を開けるのも・・・こわくて・・・何も触りたくない・・・」

冴島「お仕事は?」

里中「ガラス細工をしてたんですけど・・・体がおかしくなってから、作品に触れる度に割ってしまって・・・ガラス全く触れなくなって・・・師匠に・・・破門されました・・・もう、どうしていいかわからなくて・・・」

冴島「・・・そうですか・・・」

里中「・・・私なんの病気なんですか?」

冴島「・・・筋肉のコントロールが上手くできていないようなので・・・神経の方で何か異常がある可能性もありますが、前原先生によると神経に異常はないとのことでしたので、病気ではありません。命に関わることも無いと思いますので安心してください。」

里中「・・・病気じゃなかったら・・・なんなんですか?」

冴島「・・・里中さん・・・この特異体質科では、超能力者に対する医療行為を・・・というより、多くはカウンセリングの様なものですが」

里中「超能力?」

冴島「・・・信じがたいかもしれませんが、超能力というのは実在します。」

里中「・・・私の頭がおかしいと思ってるんでしょう?・・・だからそんな意味のわからないことを言って・・・私を試そうとしてるんでしょ?・・・そうよ・・・そうに決まってる・・・」

冴島「違います。・・・渡くん・・・やむを得ませんね・・・不本意ですが・・・ユータ君の力と存在を借りる他ありません・・・」

渡「わかりました・・・家に電話してみますけど・・・来るかどうか・・・」

冴島「・・・未来の鍵はこの手に・・・」

里中「なに書いてるんですか?」

冴島「この紙は・・・渡くんが持っていてください。」

渡「はい。」

冴島「ここにトランプがあります。裏の絵柄が青の物と赤の物・・・2セットを混ぜます・・・一枚・・・どれでもいいです。選んでください・・・」

里中「・・・あの・・・」

冴島「あぁ。手にとらなくても指差していただくだけで結構ですよ・・・」

里中「・・・これ・・・」

冴島「では、これで・・・裏の絵柄は赤、そしてこのカードは・・・ハートの8。渡くん?」

渡「これは先程先生が書いた紙です・・・里中さんは赤いトランプのハートの8を選ぶ。と書かれています。」

里中「え?・・・なに・・・・それ・・・そんなのなにかトリックが・・・ただの手品じゃない!」

冴島「いえ。手品ではありません。私の超能力です。」

沢田「うそ・・・マジ?」

冴島「トランプは1から13、マークは4種類。そして、それが青と赤2組あった。そのなかから、あなたが赤い組のハートの8を選ぶ確率は・・・2704分の1です。これは偶然でもなければ手品でもない。超能力です。」

沢田「すごい・・・」

里中「・・・なにが・・・起こってるのかわからないんだけど・・・」

ユータ「よっ!祥子、なんか用か?」

渡「あぁ、ユータ。」

沢田「ひっ!・・・なに?」

渡「うちのインコのユータです。」

ユータ「ども。・・・人多いな・・・俺来て大丈夫なのか?」

冴島「ユータくんの出番ですから。」

ユータ「能力の分析か?」

冴島「それももちろんですが・・・」

里中「なんなの?・・・その鳥・・・」

ユータ「俺も超能力があるんだよ。」

沢田「うそ・・・」

里中「インコが・・・こんなにペラペラ喋れるものなの?」

冴島「この世には信じられないようなことがたくさんあります。この子は鳥ですが人間の言葉を理解し文字も読める。一種の特殊能力を持っています。」

渡「里中さん。あなたのその力は、超能力の一種であると思われます。」

冴島「常人を越えた力。・・・能力が発現したばかりでコントロールが上手くできないかもしれませんが・・・ゆっくり、時間をかけて自分の能力と向き合うことで次第にコントロールできるようになりますから、安心してください。」

里中「・・・超能力?私が?」

冴島「・・・少し外に出ましょうか?」


<駐車場>

冴島「里中さん。・・・これは私の車なんですが・・・持ち上げてみていただけますか?」

里中「え?」

冴島「今は力を思いっきり使える環境があった方がいいと思いまして。」

沢田「・・・車を持ち上げるなんて・・・そんなことがほんとに?」

ユータ「できるさ。それがあの人の能力だからね。」

沢田「・・・君も・・・不思議だね・・・」

渡「ユータは天才だから。」

ユータ「おう。」

里中「ほっ!・・・」

冴島「楽々ですね・・・どんな物にも加減があります。車を持ち上げたまま、力を抜いていってみてください。」

里中「・・・」

冴島「車を支えるのに必要最小限の力で支えるんです。その感覚をつかんでください。」

里中「・・・無理です・・・力抜こうとしても・・・余計に力が入ってしまう・・・」

冴島「・・・能力を受け入れる方が先ですかね・・・」

沢田「なに!?今の音!」

渡「交通事故?・・・」

冴島「・・・行きますよ!」


<病院前事故現場>

冴島「・・・これは・・・大変な事故だ・・・病院が間近なのが不幸中の幸いですか・・・」

渡「先生!向こうの車・・・男の人が下敷きになってます!」

冴島「!・・・車をどかさないと・・・」

ユータ「おっちゃんの力じゃ車なんて持ち上げれねぇよ。」

冴島「・・・目の前に病院があるんです・・・運べばすぐに助けられる・・・車をどかす作業を待っていては・・・助けられるものも助けられなくなるかもしれないんですよ!!」

渡「先生!私も手伝います!!」

ユータ「適材適所。役割は正しく割り振らねぇと、どんな努力もただの無駄だ。」

沢田「適材適所?・・・あ・・・そうか・・・里中さん!」

里中「なに?」

沢田「あの車をどけて、男性を助けられるのは、あなたしかいません!」

里中「・・・でも・・・」

沢田「救いましょう。命を。・・・ほら!迷ってる時間はありませんよ!」

里中「・・・えぇ。」

渡「里中さん?」

里中「・・・私が車を持ち上げます。その間にこの人を安全なところへ。」

冴島「お願いします!」

里中「これが・・・私の力!!」

渡「先生!」

冴島「はい!」

渡「沢田さん!病院内まで運ぶから手伝って!」

沢田「はい!」

冴島「・・・里中さん。ありがとうございました。助かりました。」

里中「・・・私にできることなら・・・」

冴島「あなたにしか、できないことです。・・・あなたの力で一人の命が救われました。感謝します。」

ユータ「やるねー。あんた」

里中「役に立てた?・・・」

冴島「力を恐れないでください。」

里中「え?」

冴島「あなたの力は・・・あなた自身を苦しめるために生まれたわけじゃない。・・・だから苦しまないでください。」

里中「・・・今の私にあった仕事・・・ありますかね・・・」

冴島「ありますよ。たくさん・・・あります。」


<病室>

冴島「事故の男性どうなりました?」

渡「処置が早かったお陰でなんとか大丈夫だったみたいです。里中さんのお陰ですね。」

沢田「そういえば・・・里中さんは?」

冴島「帰られましたよ。」

渡「え?」

沢田「もう大丈夫なんですか?」

ユータ「とりあえず、下の位は脱したからな。」

冴島「まぁ、そうですね・・・しかし道のりはまだ長そうですが・・・にしても、沢田くんのアシストかなりよかったですよ?」

渡「あのポジション・・・今までは私だったんだけどな・・・」

沢田「なんのことですか?」

冴島「車どけるように里中さんの背中押してたじゃないですか?」

沢田「あぁ・・・いえ。私なんてそんな。なにもしてないですよ・・・ユータくんの言葉で・・・」

渡「?ユータ何て言ったの?」

ユータ「ん?適材適所って言っただけ。」

冴島「なるほどね。」

沢田「それに私、正直超能力見てすげーとか思ってただけですし・・・・・・そういえば・・・結局君は何者?」

ユータ「だから、俺はただの天才インコ。」

冴島「色々とばたばたしてすみませんでした・・・明日にしようとも思ったのですが・・・沢田さん・・・あなたにも話があります。」

沢田「なんですか?」

冴島「超能力は信じますか?」

沢田「信じるもなにも・・・今日目の当たりにして・・・」

冴島「あなたも超能力者です。」

沢田「え・・・」

冴島「ですよね?ユータくん?」

ユータ「あぁ。瞬間記憶能力。一度見たものは二度と忘れない。それに、意識して覚えようとしなくても勝手に頭の中に残ってしまう。・・・しかも、それは絶対に忘れることができない。」

冴島「病院の案内図も一回見ただけで完璧に覚える。そして、一度すれ違っただけの医者の名前や所属、なんでもない資料の文章の一部などを事細かに覚えていたのは、例えそれを注意して見ていなかったとしても、視界に入った時点でそれを完璧に記憶してしまうからです。」

ユータ「瞬間記憶はもっと成長すれば体にも記憶させることができる。」

沢田「体に記憶?」

ユータ「簡単に言えばテレビで一回見た格闘技の技や、ダンスの振り付け。そういうのを全部一瞬で覚えて、しかもそれと全く同じ動きをすることができる。」

沢田「すごい!」

渡「沢田さん、結構冷静ね・・・」

冴島「自分の能力に肯定的なんですね?」

沢田「はい。私、この記憶力が一番の自慢ですから。」

冴島「そうですか・・・ただ、超能力を手に入れると、代償として何かを失います。・・・里中さんの場合だと、ガラス細工という職業を失ってしまったようですが。・・・沢田さんは心当たりありますか?」

沢田「・・・特にないですけど?・・・物心ついた頃から記憶力よくて・・・生まれつきって感じなんですよね。だから、違和感もないし私の一部って感じです。それに、なにか失ったとしても・・・自慢の記憶力失うより全然ましですから。」

冴島「・・・そうですか・・・」

沢田「この記憶力で・・・私絶対医者になります!ちょっとずるいって思われるかもしれないけど、けどこれが私に与えられた才能ならちゃんと活かします。」

冴島「そうですか。・・・応援してますよ。」

沢田「ありがとうございます!」

渡「がんばってね。」

沢田「はい。」

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