第3話~愛を忘れた花嫁~
冴島「お花屋さんっていい匂いするよねー。」
渡「まぁ、花がいっぱいありますから・・・」
冴島「そういえば百花ちゃん元気?」
渡「元気すぎて困るくらい。今の時間は幼稚園に行ってますから、きっと友達と楽しく遊んでますよ。」
冴島「そう・・・百花ちゃんのお母さんね・・・精神鑑定で異常が見られて、精神病院の方に入ることになったみたいだよ。」
渡「そうですか・・・たった一人の超能力が目覚めただけで・・・人の人生まで・・・そんなに大きく左右してしまうんですね・・・」
冴島「・・・百花ちゃん・・・責任もってまもってあげなさいね?」
渡「当然です。」
冴島「で・・・なんで私は花屋さんにいるわけ?」
渡「なにいってるんですか?先生が、病室に花飾りたいから着いてきてって言ったんじゃないですか!?」
冴島「そうだったっけ?」
渡「・・・その歳でボケでも始まったんですか?」
冴島「私元々忘れっぽいから。」
渡「はぁ・・・そうですか・・・さっさと買って帰りましょう。・・・なんなら店員さんにでも選んでもらいます?」
冴島「それでもいいかな。」
渡「えっと・・・店員さんは・・・!?」
冴島「渡くん・・・またかたまってますよ?最近よくかたまるね・・・流行りなの?」
渡「あの・・・先生・・・枯れた植物が・・・一瞬で生き返る方法ってご存知ですか?」
冴島「なに?枯れたって・・・渡くん自分のこと言ってるの?」
渡「私、まだ20代なんですけど・・・枯れてるとかデリカシー無さすぎますよ先生・・・って冗談言ってる場合じゃないです!・・・あの店員さん・・・植物を生き返らせてるんですけど・・・」
冴島「えー?どの人?」
渡「あの人です。ピンクのエプロンつけた茶髪の女の人!」
冴島「・・・花の手入れしてるだけじゃない?」
渡「・・・違います。・・・手前の鉢の花、枯れて変色してますよね?多分あれも生き返らせると思いますから見ててください!」
冴島「・・・んー・・・にしても綺麗な人だね・・・背も高いしモデルさんみたい。」
渡「・・・先生。着眼点変えていただけますか?」
冴島「はいはい。」
渡「ほら!枯れた鉢持ち上げましたよ!」
冴島「これから処分するんじゃないのー?」
渡「違いますよ!・・・花に右手をかざして・・・目をつぶって・・・」
冴島「おぉ!・・・花が生き返った!?」
渡「あれって・・・」
冴島「植物への干渉か・・・ちょっと話を聞いてみようかな。」
渡「あ!ちょっと先生!」
冴島「すいません。」
植木「はい?」
冴島「枯れた花を・・・生き返らせることができるんですか?」
植木「え?あの・・・失礼ですがどちら様です?」
冴島「私、双葉会総合病院の特異体質科と言うところに勤務する、医者で超能力の研究家の冴島孝徳です。・・・あ、これ名刺です。」
渡「私は先生の助手の渡祥子と申します。」
植木「総合病院のお医者さんですか・・・あの・・・ここじゃなんですから、奥にどうぞ。お茶お出しします。」
渡「失礼します。・・・うわー。花屋の奥はご自宅になってたんですねー。素敵な部屋。」
植木「ありがとうございます。私、植木春花と言います。自己紹介が遅れてすいません。」
冴島「いえいえ。かまいませんよ。・・・ところで・・・見た限り、さっきのは植物に干渉する能力のようですが?」
植木「・・・えぇ。ああやって枯れてしまった花を生きかえらせてあげてるんですよ。お茶です。どうぞ。お菓子も大したもんありませんけどよかったら。」
冴島「ありがとうございます。能力のコントロールも完璧なようですね?」
植木「いえいえ。そんなこと無いですよ。あの・・・超能力の研究家さんでいらっしゃるんですよね?」
冴島「えぇ。そうですが。」
植木「・・・この力を私が授かったのって・・・何か意味があるんでしょうか?」
冴島「?・・・超能力と言うのは、地球上の人間誰しもが確実に持っているものです。ただ、それを使えるかどうか、気付けるかどうか。あるのはその違いだけです。ある種では、才能や特技なんかと似たものですから・・・あなたに偶然、その才能が眠っていた・・・と言うだけですよ。」
植木「誰もが持っている・・・力ですか。」
冴島「植木さんは超能力を手に入れた事を、どう思いますか?」
植木「・・・初めはすごく驚きましたけど、でも正直すごく嬉しかったです。私、花が大好きなんですけど、花って結構短命で・・・繊細で・・・些細なことですぐに枯れたり、しおれたりしちゃうんですよね。なんとか生き続けさせてあげたいって思うんですけど、昔の私には何も出来なくて・・・無力な自分が嫌でした。助けてあげることもできないのに、ただ花を咲かせて、売って・・・枯れたら処分して・・・辛かったです・・・」
冴島「植物ですから、しかたありませんよ。」
植木「でも今は、私のこの能力で大好きな花を何度でも元気にしてあげられるし、生き続けさせてあげることだってできる。・・・だから、私はこの能力大好きです。・・・」
冴島「そうですか。能力を受け入れて立派な行いに使ってらっしゃるんですね。」
植木「立派かどうかはわかりませんけどね。」
渡「あー。このツーショットの写真の人、恋人ですかー?」
植木「え?・・・あぁ。友達で共同経営者の橘竜くんです。」
渡「友達・・・ですか?」
植木「今は、ですけどね。」
冴島「というと?」
植木「彼と婚約してたんです。」
渡「婚約?」
植木「私、子供の頃から幸せな花嫁さんに憧れてて、早く結婚したいなーって、ずっと思ってたんですけど、なんだか急に結婚することに意味を感じなくなって、婚約破棄したんです。」
渡「破棄したんですか!?そんなー。彼のこと嫌いになっちゃったんですか?」
植木「そういうわけでも無いんですけど、・・・なんででしょう?・・・愛とか恋とか・・・結婚とか・・・なんかどうでもよくなっちゃったんですよね・・・」
渡「どうでもいいって・・・嫌いになったわけでもないのに、どうして!?」
植木「・・・それが自分でも全くわからないんですけど・・・」
渡「マリッジブルーとか、一時の感情で決めちゃったとかじゃないんですか??」
植木「いいえ・・・そういうわけでもないんですよ。・・・誰かのこと好きとか・・・そう言う気持ち・・・どんなのだったか、知ってるはずなのに・・・思い出せないんですよね・・・」
渡「そんなの・・・辛くないですか?」
植木「いえ。竜くんとは、今でも共同経営者として仲良くさせてもらっていますし・・・今後も多分結婚したいって感じること、無いと思います。」
冴島「急激な内面の変化・・・能力の代償ですね・・・」
植木「え?」
冴島「超能力を手に入れた人は、必ずと言っていいほど、その代償として何かを失っているんです。・・・それは、性格的な部分であったり、なにか大切にしていた物や事・・・人それぞれに違いはありますけどね・・・」
植木「そうなんですか?・・・でも、私は特に何も失ってませんよ?」
冴島「・・・植木さん・・・今、幸せですか?」
植木「えぇ。とっても。」
橘「こんにちはー。」
植木「あぁ竜くん。いらっしゃい。」
橘「えっと・・・」
植木「こちら友達の冴島さんと渡さん。」
橘「そうなんだ。初めまして。橘竜と言います。」
冴島「初めまして。」
渡「初めまして・・・」
橘「あ、春花。これ、この前頼まれてたやつ。」
植木「ふふ。ありがとう。」
渡「?」
植木「?これ?ブレスレッド。ちょっと壊しちゃって、竜くん手先器用だからなおしてもらってたの。」
渡「そうなんですか・・・」
橘「春花。また店番そっちのけだったろ?」
植木「あ、ごめんごめん。そろそろ店の方に出ないとね・・・」
橘「はぁ・・・お前は毎度毎度・・・」
植木「はいはい。お説教は後で聞くわ。」
渡「あの、じゃぁそろそろ私たちも失礼しますね?」
植木「あ、別に気になさらず。お茶とお菓子まだ残ってますし、ごゆっくりどうぞ。何かあったら竜くんになんなりとお申し付けください。」
橘「春花!お前なぁ。」
冴島「では、お言葉に甘えて。」
植木「じゃ。」
橘「まったく・・・」
渡「あの・・・植木さんと・・・婚約なさってたんですよね?」
橘「え?・・・まぁ、はい。破棄されちゃいましたけどね。」
渡「なにかあったんですか?」
橘「いえ、何もないですよ?・・・春花の気持ちが変わってしまったんじゃないんでしょうか?一ヶ月前、突然結婚はしないって言い出して、婚約指輪返してきたんです・・・」
渡「・・・それで・・・いいんですか?」
橘「婚約破棄はされちゃいましたけど、今でもこうして家行き来して仲良く付き合ってますし、・・・またそのうちプロポーズしちゃおうかな?なんて考えてます。・・・実は今日・・・俺達二人の結婚披露宴をするはずだった日なんですよね。」
渡「今日だったんですか・・・」
橘「あ・・・すいませんこんな話。」
冴島「橘さんは・・・今、幸せですか?」
橘「え?・・・まぁ幸せですよ。結婚は白紙に戻っちゃいましたけど、こうして好きな人の近くで生きていけてますから。」
冴島「・・・私が・・・もっと早くあなた方二人に出会っていたら・・・私は、あなた達を、別の未来に導いてあげられていたかもしれません・・・ごめんなさい・・・」
橘「え?そんな、よくわからないですけど謝らないでください。」
渡「先生・・・」
冴島「ごめんなさい・・・そろそろ、失礼します。ごちそうさまでした。」
橘「あ、はい。」
渡「お邪魔しました。」
渡「先生・・・植木さんの能力の代償って・・・愛情ですか?」
冴島「・・・結婚願望か、あるいは・・・愛情ですかね。」
渡「百花ちゃんの時と同じですね・・・」
冴島「厳密には違うよ。・・・植木さんが失ったのは「与える愛情」。だから、人を愛すること自体を理解できなくなってしまった。」
渡「けど、二人とも幸せそうでよかったです。」
冴島「えぇ・・・でも、ほんとにこれでいいんでしょうか?」
渡「え?」
冴島「・・私は・・・こんな力があるのに、人一人救えない・・・百花ちゃんも、百花ちゃんのお母さんも・・・植木さんも、橘くんも・・・誰も救えない・・・」
渡「・・・先生・・・じゃぁ百花ちゃんの能力も、植木さんの能力も、全部無かったことにして、失ったものも全部取り戻せる未来に連れてってくださいよ。」
冴島「・・・能力を消すことは・・・できないんです・・・」
渡「んー。・・・まぁそうですよね・・・なんとなくわかってましたけど。もし、できるなら、もうやってますもんね?」
冴島「えぇ。・・・・・・私が特異体質科を設立して間もない頃、一人の少女が訪ねてきました・・・その子は、心で「ムカつく」と一瞬でも感じてしまった人を死に追いやってしまう、と言う能力を持っていたんですが、彼女は自分を「死神」と表現して、能力を消して欲しいと泣きながら必死に頼んできたんです。・・・私は、「彼女が能力を失う未来」への分岐の扉を開けようとしましたが・・・開けられなかった・・・私の持つ鍵では、その扉は開けられなかったんです。・・・他の扉は開けられるのに・・・一人の少女の能力を消すのは、世界を揺るがすほどの大きな影響力は持っていないはずなのに・・・どうしても、開けられなかったんです。・・・それでも私は、なんども分岐の扉を開けようと試みました・・・でも無理だった・・・」
渡「先生・・・」
冴島「目覚めてしまった能力は、もう消すことは出来ないんです。・・・能力を受け入れて、共に生きていくしか方法はない・・・結局彼女は自分の持つ能力を呪って、自殺してしまいました。・・・私は、助けられなかったんです・・・いや、これからも誰も助けることなんて出来ない。未来を操る力があったって・・・なんの役にも立たないんですよ・・・」
渡「先生・・・前に言ってたじゃないですか?・・・「現実は受け入れなければならない。逃げていても・・・いつかは向き合わなければならないときが来る。」って。超能力者になった自分と向き合う心の強さが大切なんですよね?先生は、まだ現実を受け入れて、向き合えてなかったんですね・・・」
冴島「・・・そう言えば、そんなことを偉そうに言ってましたね・・・でも、いつも思います。この人が能力に目覚める前に出会えていれば、能力とは無縁の人生を歩める未来に導いてあげられたのにって・・・私、偉そうなこと・・・言えた立場じゃ・・・無かったんですね・・・」
渡「さっきの橘さんに言ったこと・・・「違う未来に導いてあげられたかも」って・・・植木さんが能力に目覚めずに、愛情も失わずに、無事に結婚してた未来ですか?」
冴島「・・・えぇ。」
渡「そりゃあ結婚できてたら最高でしょうけど、でも過ぎてしまった過去はどうしようもないじゃないですか?・・・私、百花ちゃんと一緒に暮らしてて思います。百花ちゃんはお母さんの愛情を失ってしまったかもしれない・・・けど、それでも時間は進むんです。いつまでも悲しみながら過ごしてたら・・・時間の無駄なんですよ。もちろん、失ってよかったなんて言ってるんじゃないんです!忘れてしまおうって言ってるわけでもないんです。・・・ただ、過去に縛られる時間があるなら・・・私は百花ちゃんと、これから沢山思い出作っていきたいなって・・・過去に生きるより、未来に生きようって思ったんです。」
冴島「過去より・・・未来・・・」
渡「先生の能力、「未来を操る力」でしょ?だったら先生も、過去に生きずに、未来に生きましょうよ?」
冴島「・・・ありがとう。・・・まさか渡くんに励まされることになるとは思いもしませんでした。やっぱり、未来と言うのは何が起こるか見当もつかない。平行世界は、私が思っているより遥かに多く存在しているのかもしれませんね。」
渡「さ。先生!明日は休診日ですよー!診察室掃除して、今日はとっとと帰りましょう!」
冴島「変な理由をつけて、早めに帰ろうとしても無駄ですよ。」