第2話~友達~
冴島「(いびき)」
渡「先生?・・・先生!!」
冴島「うわ!びっくりした・・・」
渡「また、病院に泊まったんですか?いい加減家に帰って寝てくださいよ・・・」
冴島家に帰るのはめんどうでしょ?どうせ次の日の朝にはこの場所に来ないといけないんだから・・・」
渡「・・・はぁ・・・ああ言えばこう言う・・・まったく・・・ここは先生の部屋じゃないんですから・・・あくまでも診察室ですよ?もっとしっかりしてください!」
冴島「大丈夫大丈夫。」
渡「それにしても・・・百花ちゃんとお母さん・・・大丈夫ですかね?」
冴島「あぁ。一昨日の患者さん?」
<一昨日>
渡「先生。新しい患者さんです。」
冴島「今日は忙しいなー。」
渡「はい。鈴木百花、5才?お子さんですか?はい。・・・はいわかりました。では、お母様はそちらでお願いします。はい。はい。失礼します。」
冴島「子供?」
渡「みたいです。・・・小児科からだったんですけど・・・なんかお母さんがショックで混乱しちゃってるみたいで、小児科でお母さんには待っててもらって子供一人で来るそうです。」
冴島「ショック?」
渡「はぁ。」
鈴木「(ノック)」
冴島「どうぞ?」
鈴木「失礼します。」
渡「こんにちは。お名前は?」
鈴木「鈴木百花、5才です。」
渡「百花ちゃんかー。良くできました。んじゃここに座ってもらえるかなー?」
冴島「さすが渡くん、もと小児科勤務だけはあるね。」
渡「先生。お願いします。」
冴島「はーい。こんにちは。」
鈴木「こんにちは。鈴木百花、5才です!」
冴島「うーん。それ、一応さっききいたよ。」
渡「先生!そういうことは言わなくていいんです!」
冴島「あ、そう?私は冴島と言います。よろしくね?」
鈴木「よろしくお願いします!」
冴島「おー、元気がいいなー。でもちょっとうるさいよ?」
渡「先生!・・・百花ちゃん?なんで病院にきたのかお話できるかな?」
鈴木「うん。百花がねお絵描きしてたらね?お母さんが突然大きい声だしてね?ビックリして病院に来たの。」
冴島「・・・んー。意味不明だなー。・・・」
渡「なんでお母さんは大きい声出しちゃったのかな?」
鈴木「んー。たぶんね、百花の友達が大きすぎてビックリしちゃったんじゃないかなー?」
冴島「チェ・ホンマンと友達なの?すごいねー。」
鈴木「んー?誰それ?」
渡「先生はしばらく黙っててください。・・・お友だちって?」
鈴木「あのね?百花が創ってあげたんだよ?」
冴島「創った!?・・・」
渡「・・・百花ちゃん・・・そのお友だち・・・お姉さんにも紹介してもらえないかな?」
鈴木「いいよー。でも・・・百花のお絵描き帳ね、おうちに置いてきちゃったから取りに帰らないと・・・」
渡「お絵描き帳?・・・お絵描き帳が必要なのかな?・・・先生・・・」
冴島「(咳払い)これ、私のお絵描き帳なんだけど、これ使っていいよ?」
鈴木「いいのー?」
冴島「勿論。はい。お絵描き帳。どうぞ?」
鈴木「やったー!すっごく大きいお絵描き帳だから、たくさんたくさんお友だち紹介するね?」
渡「?・・・う、うん。」
冴島「渡くん・・・」
渡「絵・・・描いてるだけですね・・・」
冴島「・・・子供の考えることはわからない・・・」
渡「大きすぎるお友達って・・・いったいどういう意味でしょうか?・・・」
冴島「・・・巨大化する力でもあるのかもしれないね・・・」
渡「でも、このお絵描きとどう関係が?」
冴島「能力の発動条件の一つなのかもしれません・・・」
渡「・・・でも、普通にお絵描きしてるだけですよ?」
鈴木「できた!」
渡「わー。上手に書けたねー?これなーに?」
鈴木「私の友達。大きい大きいウサギさんだよ!」
渡「大きいウサギ?・・・」
鈴木「紹介するね?友達の「うさちゃん」です!」
渡「え!?・・・えー!??なに??でかっ!」
冴島「これは・・・描画物の具現化・・・」
渡「なにこれ!?絵が・・・本物になった!?」
鈴木「ほらね?大きいでしょ?お母さん、うさちゃんが大きすぎてビックリしちゃったんだろうなー。いい子なのにね?よしよし。」
冴島「まさか・・・こんな能力が存在するとは・・・」
渡「感心してる場合じゃないですよ!・・・うさちゃん・・・どうすればいいんですか!?」
冴島「とりあえず、帰ってもらおう。百花ちゃん?紹介してくれてありがとう。うさちゃんおうちに、帰してあげてくれるかな?」
鈴木「はーい。じゃぁまたねー。ばいばい。うさちゃん。」
冴島「・・・紙の中に戻っていくのか・・・」
渡「これは確かに初めてみたらビックリしちゃうかも・・・」
冴島「・・・ショックで混乱するのもうなずける・・・ちょっとお母さんの様子を見てきます。百花ちゃんの相手しててもらえる?」
渡「はい・・・わかりました。」
<現在>
冴島「お母さんの混乱はすごかったからね・・・娘が変な妖怪にとりつかれたとか、とにかく、なんでもいいから助けてくださいって連呼してばっかりで・・・でも、とにかく百花ちゃんのこと助けたいって気持ちは伝わってきたからね・・・むしろそれしか伝わってこなかったくらい。百花ちゃんはほんとに大切に育てられてるんだろうなー。」
渡「でもまぁ、普通に我が子のこと心配するのは普通なことじゃないですか?」
冴島「まぁ、そうなんだけどね。・・・お絵描きは絶対させないようにとは言っておいたけど・・・そのせいで親子に亀裂が入ったら申し訳ないな・・・」
渡「そうですね・・・」
冴島「あ、新聞新聞・・・まだ読んでなかったんだった。渡くん、その辺に今日の朝刊無い?」
渡「先生?・・・私は先生の召し使いじゃないんですよ?」
冴島「まぁまぁ渡くんの方が朝刊があるはずの場所の近くにいるんだから、お願いしますよー。」
渡「はぁ・・・あ・・・あった・・・はい、朝刊・・・え?」
冴島「なに?どうしたの?かたまっちゃってるよ?」
渡「・・・これ・・・」
冴島「なに?好きなアイドルの熱愛報道でも載っててショックでも受けたの?」
渡「それどころじゃないです・・・「市内在住、鈴木京子35歳、偽造紙幣使用の疑いで逮捕」・・・鈴木京子って・・・百花ちゃんのお母さんですよね?」
冴島「だね・・・百花ちゃんの家に行くよ。いそいでしたくして!」
渡「はい!」
<鈴木家>
冴島「こんにちは。双葉会総合病院の冴島と申します。どなたかいらっしゃいませんか?」
鈴木「こんにちは!」
渡「百花ちゃん!!お母さんは?」
鈴木「お母さんね、知らないおじさん達と一緒にどっか行っちゃったの・・・でもね、すぐ帰ってくるって。」
渡「そっか・・・お父さんは?」
鈴木「百花ね、お父さんいないの。」
渡「そっかそっか・・・ごめんね。」
鈴木「百花ね、ずっと一人で寂しいの。一緒に遊んでくれる?」
渡「うん。遊ぼっか。」
冴島「百花ちゃん。病院から帰ってから、昨日か今日お絵描きしたかな?」
鈴木「したよー!」
渡「したの?」
冴島「・・・どんな絵描いたの?」
鈴木「うんとね、色んな絵描いたの!昨日の朝はね、百花がお絵描きしようとするとお母さんすごく怒ってたんだけどね?お昼になったらお母さん元気になって、百花と一緒にお絵描きしたいって言ってくれたの。」
冴島「百花ちゃん?昨日描いた絵見てもいいかな?」
鈴木「うん!お絵描き帳持ってくるね!」
渡「・・・なるべく絵描かせないようにってお母さんに言ったんですよね?」
冴島「うん。なるべくと言うか、絶対描かせないでって言ったはずなんだけど・・・」
鈴木「はーい!これ!昨日はね、お母さんとたくさんたくさん、お金の一杯ある絵をずっと描いてたんだよ?」
渡「これって!」
冴島「・・・1万円札?・・・それも、こんなにたくさん・・・」
渡「百花ちゃん?・・・なんでお金の絵を描いたの?」
鈴木「お母さんが、どうしても百花と一緒に描きたいって言うから、一緒にたくさん描いたんだよー?」
渡「・・・この絵も、うさちゃんみたいに・・・その、飛び出させたりしたのかな?」
鈴木「うん!お母さんがどうしても百花の絵に触りたいって言うから、出してあげたの!」
渡「飛び出した絵はお母さんが持ってるのかな?」
鈴木「うん!いっぱいいっぱい持ってるよ?」
冴島「・・・これは・・・偽造紙幣の製造だな・・・」
渡「・・・お母さん・・・なんでそんなことを・・・」
冴島「急激な態度の変化・・・ね・・・それが、能力の代償か・・・」
渡「え?」
冴島「私はお母さんと直接話したからよくわかるけど、お母さんはほんとに百花ちゃんのことを大切にしてた。愛情は本物だと思う・・・だったら、絵を描こうなんて言い出すわけがない。・・・昨日の朝は絵を描こうとしたら怒られた。でも昼になったら急にお金の絵を描こうと言い出した。昨日の朝から昼にかけて・・・何かが起きた・・・お母さんの態度が急変した原因は・・・百花ちゃんが能力の代わりに、お母さんからの愛情を失ったから・・・」
渡「そんな!!失うって・・・そんな物までありなんですか?」
冴島「言ったはずだよ。失うものは人によって違うって。・・・百花ちゃんの場合、お母さんの愛情を失った。・・・愛情を失ったお母さんは、絵に描いたお金を具現化させて大金を手に入れることを思い付いた。態度の急変はそれ以外に考えられない。・・・最終的に百花ちゃんは偽造紙幣を製造する道具として利用されて」
渡「やめてください。・・・それ以上ききたくない・・・」
鈴木「お姉ちゃん?なんで泣いてるの?」
渡「泣いてなんかないよ?・・・ねぇ、お姉ちゃんと約束してくれる?」
鈴木「何をー?」
渡「・・・お絵描き帳の中のお友だちを、飛び出させたりしないって約束して?」
鈴木「いやだ。百花の大事な友達だもん!」
渡「百花ちゃん!・・・お願い・・・お願いだから・・・約束して・・・約束してよ!!」
冴島「渡くん!よしなさい。百花ちゃんは何も悪くない。・・・悪いのは・・・」
渡「悪いのはなんですか?悪いのは全部意味のわからない超能力でしょ!?そんなもののために、百花ちゃんは一番大事な物を失ったんですよ?!失って・・・道具にされて・・・こんなの・・・悲しすぎる・・・・・・」
冴島「・・・心配しなくても、どこか親戚の家に引き取られて幸せに生きていけます。そもそも保護者不在で、5才の子供一人じゃ暮らしていけないからね・・・」
渡「・・・私が・・・」
冴島「え?」
渡「私が引き取ります・・・」
冴島「渡くん。気持ちはわかるけど。」
渡「引き取ります!責任を持って!」
冴島「・・・ふぅ・・・親戚の人たちに同意してもらわないとね?」
渡「・・・はい。」
冴島「警察の方には郷田くんに話を通してもらえるように私から頼んどこう・・・」
渡「はい・・・」
冴島「・・・」
渡「百花ちゃん?」
鈴木「なぁに?」
渡「お姉ちゃんと一緒に暮らさない?」
鈴木「お母さんとがいい。」
渡「・・・お母さんはね・・・もう、戻ってこないから・・・」
鈴木「すぐ帰ってくるって言ってたよ?」
渡「・・・もう・・・戻ってこないから・・・」
鈴木「お姉ちゃん?また泣いてるの?」
渡「百花ちゃん?・・・お姉ちゃんのこと・・・嫌い?」
鈴木「ううん。好き!」
渡「私もね、百花ちゃんのこと大好き。ずーっと、ずーっと大好きだから・・・だから・・・」
冴島「はぁ・・・やれやれ・・・世話がやけます・・・今回だけ特別ですよ?・・・未来の鍵は・・・「彼女」の・・・手に・・・」