第0話〜未来の扉〜
~双葉会総合病院 小児科~
森「異動願い?」
渡「はい。」
森「でも、せっかく小児科の勤務慣れてきたのにいいの?」
渡「えぇ。」
森「異動先は・・・特異体質科ですか?」
渡「はい。確か、冴島先生がいらっしゃる科ですよね?」
森「あぁ。冴島君から申し出があって、2年前くらいかな設立されたのは・・・まさか上が認めるとは思わなかったけど・・・特異体質科だなんて・・・」
渡「特異体質って、冴島先生が以前から研究されていた、特殊な症例の患者さんを診察するんですよね?」
森「渡君は、前々から冴島の話になると楽しそうに話すね?」
渡「冴島先生の、あの威厳ある風格と言うか、硬派な性格・・・惹かれますよねー。」
森「硬派な・・・ね・・・以前はそうだったけど・・・今はちょっと変わっちゃったかな・・・」
渡「え?」
森「いや。とりあえず、これはこっちで処理しとくね。」
渡「はい。受理よろしくおねがいします!」
~数年前~
冴島「以上、私が今までの研究で導きだした超能力の存在を立証するための根拠です。」
森「冴島。いい加減超能力の研究なんて馬鹿げたことやめとけよ。」
冴島「森。お前もわかるだろ?人間の身体には、まだ謎が多い。つまり、超常的な力が眠ってる可能性だって完全に否定はできない。」
森「それは俺だって否定はしないけど、お前回りから何て呼ばれてるか知ってるか?」
冴島「どうでもいい。」
森「お前なぁ。」
冴島「それでも、俺は研究をやめるつもりはないぞ。」
~双葉会総合病院 特異体質科~
渡「(ノック)」
冴島「どうぞー?」
渡「失礼します。」
冴島「えっと・・・どちらさま?かな?」
渡「あの・・・冴島先生でいらっしゃいますよね?」
冴島「そうでーす。なにか?」
渡「そうでーすって・・・あの、私今日からこちらで助手を勤めさせていただく渡祥子と言います。」
冴島「あぁ・・・そう言えば、森くんが確かなんか言ってたねー。」
渡「あの・・・」
冴島「渡くん、コーヒー一杯お願い。」
渡「は、はい。・・・あの、酔ってらっしゃるんですか?」
冴島「え?私お酒飲まないけど?酔ってるように見える?」
渡「・・・いや、あの・・・学会でお見掛けしたイメージと全然違うので・・・」
冴島「あぁ。もしかして、ふざけたやつだなーとか思った?」
渡「いや、そう言うわけじゃないんですけど・・・」
冴島「人って変わるもんだからね。」
渡「え?」
冴島「まぁ気にしない気にしない。」
渡「コーヒーどうぞ・・・」
冴島「ありがとねー。いやーおいちー。」
渡「は?」
冴島「僕ちゃん徹夜明けはコーヒー無いと一日脳が働かないんだよねー。」
渡「僕ちゃんって・・・」
冴島「そういえば渡くんは何故こんな変な科に異動になったでござるか?なんちって。」
渡「いい加減にしてください!!さっきから何なんですか?「おいちー」とか「僕ちゃん」とか「ござる」とか、学会にいらしてた、あの硬派で威厳ある風格はどこにいってしまわれたんですか?大体、この診察室だって散らかり放題だし先生の頭寝癖だらけだし、いい加減にもほどがあります!」
冴島「あー。今、いい加減を2回も言ったねー。しかも二つとも別々の意味だった。すごいなー。」
渡「ふざけてるんですか?」
冴島「真面目だよ?」
渡「私の憧れの冴島先生は・・・もっと威厳があって、カッコよくて・・・そんな肌寒いバカらしい事を言うような人じゃないんです!どうしちゃったんですか!?」
冴島「だからー。性格が変わっちゃったんだってば。」
渡「そんな言い訳じゃ納得できません。」
冴島「言い訳じゃなくてね?・・・渡くん、僕の超能力研究の資料読んだことある?」
渡「ありますけど・・・」
冴島「それにも書いてあったと思うんだけどね?超能力を手に入れた人間は、他の何かを失う。」
渡「それも読みましたよ?それとこれとどう関係があるんですか?」
冴島「だからー、私も失っちゃったんですよ。威厳ある風格を。」
渡「は?意味わかんないです。失うのは超能力を得た人だけでしょ?」
冴島「わかんないかなー?だから、私超能力者なんですよ。」
渡「は?」
冴島「超能力者。」
渡「超能力なんて存在するわけないじゃないですか。」
冴島「ひどいなー。私のファンのくせに私の研究自体は真っ向から否定するんだ。」
渡「いや、その・・・だって、あくまで研究であって・・・」
冴島「つまり、君は私のあの威厳ある風格だけに憧れてて研究にはたいして興味は無かったわけね?」
渡「興味はありましたよ。けど、そんな超能力なんて夢の中の話だと・・・」
冴島「んじゃ実験しましょうか。」
渡「は?」
冴島「今日たしか、市長選挙の投票日だよね。渡くんちゃんと投票してきた?」
渡「してきましたけど。それがなんですか?」
冴島「今日の夜、選挙の結果出るでしょ?立候補者は確か、全部で4人。誰が何票で当選するか予言してみましょうか?」
渡「は?」
冴島「ちょっとそこのペンとって。」
渡「はい・・・」
冴島「んーっと・・・・・・未来の鍵はこの手に・・・」
渡「は?」
冴島「ちょっと待っててねー。すぐ終わるから。・・・はい。これ封筒にいれとくから、一日渡くんが持ってて。」
渡「・・・どうすればいいんですか?」
冴島「どうすればって、私が書き直せないように肌身離さずもっててくれればそれでいいから。そこに書いてある予言が当たれば、信じてくれるでしょ?」
渡「予言予言って・・・予知能力でもあるんですか?」
冴島「んー・・・厳密に言うと、ちょっと違うかなー?」
渡「じゃぁ、どんな力なんですか?」
冴島「それは、選挙の結果が出たら教えてあげる。」
渡「・・・」
冴島「さてと、ちょっとトイレ行ってくるんで留守番よろしく。」
渡「留守番って・・・私診察できないんですけど?」
冴島「大丈夫大丈夫。すぐ帰ってくるから。それにここ滅多に患者さん来ないしさ。じゃーね。」
渡「はぁ・・・ってか、なんでこんなに散らかってるわけ?・・・気分悪くなりそ・・・本も開いて出しっぱなしだし・・・使い終わったらもとの場所に戻せっての・・・カルテもこんなに・・・患者さん・・・滅多に来ないって言ってたくせに・・・すごい量・・・ちょっと失礼して・・・どうせ超能力なんて実在するわけないんだから・・・?「冴島孝徳」・・・先生自分で自分のカルテ書いてるし・・・えっと・・・症状は・・・「理想と結果の一致」・・・ん?どいうこと?・・・」
冴島「ただいまー。」
渡「!!おかえりなさい。・・・」
冴島「あー。カルテ見てたでしょ?」
渡「いえ、ただ片付けようと思って・・・」
冴島「あ、私の力わかっちゃった?」
渡「・・・ちょっと目にはいったというか・・・チラッと。」
冴島「理想と結果の一致。でもそれだけじゃ意味不明でしょ?」
渡「正直・・・それに書類上じゃなんとでも書けるじゃないですか。」
冴島「まぁね。選挙の結果が出たらわかってもらえるよ。」
渡「・・・でも、患者さん滅多に来ないわりにカルテの量が半端じゃないんですけど・・・」
冴島「ここに来るのは、自分が超能力者かもって激しく誤解したようなちょっとおかしな人とか、警察では捜査不可能な科学的に説明できない事件の容疑者たち。」
渡「容疑者?ここ犯罪者が来るんですか?」
冴島「まぁね。県警の方に昔の知り合いがいてね、面倒な事件をこっちに回してくるのよ。困った困った。」
渡「はぁ・・・」
冴島「それから、本物の超能力者。」
渡「今まで、一人でも本物の超能力者が来たことあるんですか?」
冴島「・・・あるよ。・・・あ、電話。・・・はい、冴島。おぉ、郷田くんか。なに?また事件?・・・はいはい。あぁ、わかった。名前は?河村・・・はい。はーい。」
渡「なんですか?」
冴島「詳しくは・・・メールの添付ファイルを見ろってさ。」
渡「は?」
冴島「・・・来た来た。路上で喧嘩があったらしいんだけどね?そのうちの一人が・・・変なんだとさ。・・・再生っと。・・・監視カメラの映像だね・・・」
渡「・・・ただの殴りあいじゃないですか・・・」
冴島「・・・いや、ただじゃないね・・・」
渡「え!?なに?」
冴島「こっちの帽子被った方・・・右手の動きと一緒に、後ろのゴミ箱やらなんやら飛んできてるでしょ・・・念動力かな?」
渡「こんなの、何かのトリックが・・・」
冴島「喧嘩にトリック仕込む必要ある?」
渡「それは・・・」
冴島「ほら、今度はゴミ箱からこぼれた空き缶が全部空中に浮き上がっていく。」
渡「危ない!」
冴島「無茶苦茶だ・・・この子・・・完全に能力に溺れてるね・・・とりあえず、この映像の子、河村っていうらしんだけど、診察しにこっちに向かってるってさ。」
渡「え?」
河村「(ノック)」
冴島「どうぞ。」
河村「ども。」
冴島「えっと・・・どちら様?」
河村「警察のオッサンが、ここに行けとさ。」
冴島「お名前は?」
河村「河村美樹。」
冴島「じゃぁ、君があの監視カメラの。」
渡「女?・・・」
河村「なに?なんか文句ある?」
渡「いえ・・・監視カメラの映像では、男の人に見えたもので・・・男の人と殴りあいしてたし・・・」
河村「悪かったね。殴りあいするのは男ばっかじゃないんだよ。」
渡「すいません。」
冴島「とりあえず、そこ座ってもらえるかな?」
河村「で?なに?私はここでなにすればいいわけ?」
冴島「監視カメラの映像を見ました。」
河村「あっそ。」
冴島「単刀直入に聞きます。あなたは超能力者ですか?」
河村「なに?精神鑑定かなんか?どうでもいいけどさ、逮捕ならとっとと逮捕しろっての。私面倒なの一番嫌いなんだよね。警察連れてかれたかと思ったら今度は病院連れて来られるし、マジ意味不明。」
冴島「喧嘩相手は、あなたとは二度と関わりたくないと被害届を取り下げたそうです。」
河村「ふん。だったら、もうよくない?私用事あんだけど。逮捕しねぇならもう帰ってよくない?」
渡「あなたねぇ、人に怪我させといてなんなの?その態度!」
河村「うぜぇよ!」
冴島「危ない!!」
河村「(舌打ち)あーぁ。はずした。」
渡「なに!?今の?」
冴島「ペンが渡くん目掛けて勝手に飛んできたね・・・君がやったんでしょ?」
河村「だったらなに?」
冴島「君には念動力がある。」
河村「知ってる。悪い?」
冴島「悪くはない。ただ、君はその力に溺れすぎてる。」
河村「は?」
冴島「能力に溺れて、人生を台無しにしますよ?」
河村「台無しなわけないじゃん!この力のお陰でさー私、今チョー幸せなの。なに?超能力者は幸せになっちゃ悪いわけ?」
冴島「どんな風に幸せなんですか?」
河村「どんな風って?決まってんじゃん。私に歯向かっても勝てないって見せつけてやっただけで、みんな面白いくらい私の言うことなんでもきいてくれるようになったわけ。んでムカつく奴はボコボコにしてやってさ、チョー気持ちよくない?」
冴島「ただの自己満足ですね。」
河村「自己マンでもなんでも、幸せの方がいいに決まってんじゃん。」
冴島「超能力はそんな風に使われるべきじゃない。」
河村「能力手にいれたのは私だよ?それをどう使おうが私の勝手でしょ?私に説教するわけ?」
冴島「超能力はある種の才能です。才能を手にいれたからには、それ相応の責任と自覚をもっと持ってください。」
河村「あー、うざ。・・・あ、ハサミ発見。死んでもらおっかなー?」
冴島「可哀想に・・・」
河村「なに?・・・なんなのその目・・・あわれむような目で見てんじゃねーよ!」
冴島「あなたは、力の大きさにのみ込まれた・・・」
河村「・・・んだよ。あー、あほくさ。こんなとこ来る価値ねーし。私帰るわ。」
冴島「・・・はぁ・・・大丈夫?渡くん?」
渡「・・・」
冴島「渡くん?」
渡「え?あ・・・」
冴島「大丈夫?」
渡「はい。」
冴島「・・・これでもまだ、超能力は信じない?」
渡「信じる信じないじゃなくて・・・色々ありすぎて・・・まだ処理しきれてないって言うか・・・」
冴島「ちょっと、過激すぎたね・・・」
渡「・・・」
冴島「顔色悪いよ?・・・少し横になった方がいい。」
渡「すいません・・・」
冴島「・・・能力を手にいれると、何かを失うって話はしたよね?」
渡「はい。」
冴島「彼女は能力を手に入れた代わりに、多分「善悪のボーダーライン」のようなものを失ったんだと思う。もともと、不良的な性格だったように見えなくもなかったけど、善悪のボーダーラインを失って・・・能力に溺れて・・・」
渡「超能力って・・・悲しいことばかりですね・・・」
冴島「そうかもね・・・・・・さてと、そろそろ、選挙速報の時間かな・・・テレビつけるね。」
渡「もう結果出てるじゃないですか・・・」
冴島「・・・んじゃ、私の予言の答え合わせしよっか。」
渡「・・・はい。」
冴島「封筒開けて、私の書いた紙出して?」
渡「はい。」
冴島「んじゃ、答え合わせね。・・・まず、投票者数69120人。」
渡「・・・そんなことまで予言を?・・・投票者数69120人・・・当たってる・・・」
冴島「じゃぁ、次・・・投票率は、58.26%。得票数は、大沢克章672票。岡谷圭15028票。早川宗次郎17945票。当選者は真田権蔵35475票。・・・どう?」
渡「・・・」
冴島「万の位から一の位まで、寸分たがわず当たってるでしょ?」
渡「こんなことって・・・」
冴島「私の力は、未来世界の分岐を自分で操作する力。」
渡「・・・よくわからないんですけど・・・」
冴島「んー・・・じゃ、はい。」
渡「え?ペン立てですか?」
冴島「赤・青・緑3色の色ペンが入ってます。この中からどれか一本好きなの選んでとってくれる?」
渡「・・・はぁ・・・じゃぁ、緑で・・・」
冴島「はい。ストップ。この場合ね、渡くんは3色の中からどの色でも選ぶことができた。この時点で、未来は平行に3つに分岐してるんだ。」
渡「え?」
冴島「1つは渡くんが赤を選んだ場合の未来の世界。2つ目は青を選んだ場合の未来の世界。それから、緑を選んだ場合の未来の世界・・・つまり、現在のことね?」
渡「はぁ・・・」
冴島「世界は常に平行世界に分岐を続けながら時を刻んでる。どんな些細な選択肢でもその選択肢が発生した時点で世界は分岐してるんだよ。極端なことを言えば、渡くんがペンを選ぶ直前に地震が起こるかもしれないし、停電になるかもしれない。電話がかかってきて会話が中断されてたかもしれない。起こり得ることは全て起きて、未来は無数に分岐していく。」
渡「・・・はぁ・・・」
冴島「ちょっと難しかったかな・・・つまり私は、分岐点で好きな平行世界に進む力を持ってる。ちなみに・・・この封筒開けてみて?」
渡「?はい・・・」
冴島「読んでみて。」
渡「「渡くんは緑色を選ぶ」・・・え!?」
冴島「私は、ペン立てを手に取った瞬間に「渡くんが緑のペンを選ぶ平行世界」への扉を開いた。」
渡「扉・・・ですか?」
冴島「分岐点に来るとね、頭の中に無数の別れ道と、その先にそびえる大きな扉が見える。私はその扉をどれでも開けることの出来るマスターキーを持ってるんです。」
渡「・・・じゃぁ、今までのは予言じゃなくて・・・自分の予言通りのことが起きるように世界を自分の方へ引っ張り寄せてたってことですか?」
冴島「まぁ、そういうことかな。」
渡「そんなすごい力なら、もっと有効に使ってくださいよ!世界の紛争を無くしたりとか、貧困を無くしたりとか・・・他にも」
冴島「残念ながら、世界の根幹を揺るがすような大きな未来を操ることは出来ません。影響力の極端に小さい物事にしか干渉できないんです。」
渡「え?・・・でも、選挙だって影響力でかいじゃないですか?」
冴島「だって、今回の選挙・・・結果はわかりきったものだったでしょ?最下位の大沢は裏金疑惑と性格の悪さで支持率かなり低かったし、3位の岡谷は期待値は高いけどまだ若すぎるってことで結構否定的な意見は多かったし、2位の早川も前に市長選で当選した時の支持率の低さがたたってかなり厳しい状態で、今回当選した真田がほぼ当選確実って言われてたよね?」
渡「・・・私・・・政治的なこと難しくて・・・あんまり詳しくは・・・」
冴島「つまり、確定的な未来をひっくり返して最下位の大沢を当選させるってことはできないけど、明らかに当選するってわかってる人の得票数と、残りの人たちの得票数、それと投票率を操作するぐらいなら影響力は極めて少ない。だから私の能力も使えるんだよ。」
渡「・・・なんか、よくわかんないですけど・・・とりあえず、先生の力は・・・信じざるを得ません・・・」
冴島「んま、今日はもう帰っていいよ。色々あって疲れたでしょ?私もそろそろ帰るから。んじゃ、お疲れさまー。」
渡「あ・・・お疲れさまです・・・・・・超能力か・・・・・・え!?電話・・・どうしよ・・・・・・はい。双葉会総合病院・特異体質科です。・・・はい。はい。わかりました。資料のファックスお願いします。・・・・・・」