表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前を呼ばれる駅【夏のホラー2020】  作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
1/3

駅 1

 連日の記録的な高温で体力も精神も極限まで擦り減らし、更に寝苦しい夜が命までも奪いかねないとさえ思えた。


 美鈴はスマホを手に取り怖い話を検索していると、段々と夢中になり時間さえ忘れてしまうほど没頭していた。


 自分の住んでいる地域の心霊体験や霊現象を調べているうちに、ある一つの投稿に釘付けとなったのだ。


「この駅って、私が高校へ通学する時に利用する駅………」


 ネットに投稿されている駅の名や場所は、美鈴がいつも利用する駅である。


 そこには、“名前を呼ばれると……“と意味深な言葉がある。


「名前を呼ばれると“死ぬ“? とかなの?」


 美鈴は色々な言葉を想像してみた。


 言葉の続きの単語は不吉な言葉に違いないのは分かるのだが、おそらく不幸の度合いが違い色々な厄があるのであろう。


 だから、あえて伏字にしたに違いない。


「そういえば、この“上白石駅“って人身事故が多い。ニュースでもよく報道されてるし。この“名前を呼ばれると……“が原因なのかな!?」


 美鈴は背筋に悪寒が走り、慌ててスマホの画面を消した。


 先月は女子高校生が電車に飛び込んで自殺したとニュースで見た。


 その二週間後くらいに二十代の男性会社員が電車に飛び込んで自殺していた。


「偶然、電車の飛び込み自殺が続いただけだよね!? それに、電車に飛び込んで自殺するのはこの駅だけじゃないし。たまたま、私が記憶していた電車事故なだけで霊的な何かの仕業じゃないよね!?」


 美鈴は部屋の電気を消してとりあえず瞼を閉じて寝ることに集中した。


「あー! もう、寝れない! あんなの寝る前に見るんじゃなかった!」


 寝ようとすればするほど、神経が研ぎ澄まされて行くようで全く眠れなかったのだ。


 結局、美鈴は一睡もせず朝を迎えた。


 紺色のブレザーに赤地のタータン・チェックのスカートの学生服に着替えて登校の準備を始めた。


「お母さん! 制服のリボン帯が何処にあるか知らない?」


「だからいつも帰ってきたらすぐに制服はハンガーにかけておきなさいって言ったでしょ! 昨日も脱いだら脱ぎっぱなし! 本当にだらしない! いったい誰に似たのかしら!? ジャケットのポケットの中にはないの?」


「あ、あった! もう時間ないから出るね。 行ってきます」


 美鈴は小言が多い母親に溜息をつきながら、スクールバッグを肩に引っ掛けて慌てて家を飛び出した。


「駅までは十分で着くから、その五分後に来る電車に乗れば間に合うはず」


 美鈴は走りづらいローファーの革靴で必死に駅に向かって走り続けた。


 駅に着き改札口を駆け抜けプラットフォームに辿り着いた。


 これから電車が来るアナウンスがタイミングよく流れると、美鈴は安堵の溜息をついた。


「神崎……」


 美鈴は誰かの声に呼ばれたような気がした。


「き、気のせい!?」


 辺りを見渡しても自分の名を呼びかける人は見当たらなかった。


 電車がプラットフォームへ入ってきたその時である。


「神崎美鈴……」


 再び名前を呼ばれ、後ろを振り返る。


「痛い!」


 振り向きざまに黒い壁に額をぶつけた。


「神崎って相変わらずそそっかしいんだな」


 美鈴は顔を上げるとそこには同級生の石垣裕翔の悪戯っぽい笑みがあった。


 黒い壁だと思ったのは彼の学ランであった。


 人前で名前をフルネームで呼ばれてムッとしていると、背後で電車の扉が開く音がした。


「ほら、さっさと乗らないと学校遅刻するぞ!」


「もう! あんたは遅刻すればいいのよ!」


「神崎、怒ってんのか!?」


「人前で名前を呼ばないでくれる!」


 美鈴は裕翔に名前を呼ばれたことに腹を立てているのか、この駅で名前を呼ぼれることに恐怖している自分に腹を立てているのか分からなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ