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地球の原材料  作者: 海那 白
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赤い冊子の秘密

「この赤い冊子は、すべての精霊使いが持っていて、それぞれの精霊使いの精霊使いについての知識がすべて書かれているらしい。新しい知識を得るたびに自然と書かれていく、言ってしまえば魔法のノートみたいなものなの」

 僕が赤い冊子を開くと、昨日見たときにはなかったページが追加され、さっき火菜さんが言ったことが、そっくりそのまま書き足されていた。

 どうやら冗談ではないらしい。彼女は極めて大マジなのだ。

 水樹は、感心した様子で、赤い冊子をまじまじとみていた。火菜さんは喋り続ける。

「そして、他人の赤い冊子を勝手に閲覧することはダメ。というか、やろうとしてもできないようになったるの。だからこうやって精霊使い同士で話し合って、情報を交換し合って、できるだけ多くの情報や知識を集めているの。そうやってこの赤い冊子のページ数を増やして、知識を溜め込んでいくの。

 それと、それぞれの精霊はそれぞれの精霊使いが知っていることしか知らない。火の精霊使いが知らないことは、火の精霊も知らない。火の精霊使いが知ったその瞬間に火の精霊も知ることが出来るらしい。そういうものなの。

 あと、さっき見せたように、この赤い冊子は、情報が現れたら、もしくは現れそうだったら、出てくるの。いつもは、存在していないような感じに、空気に紛れているらしいの。でも、出したいときや見たい時には「出てきて」と念じれば、どんなときにでも出すことが出来るの。

 私が知っている情報はこれだけ。ほかに書いてあることはみんなの冊子にも、書いてあることらしいから」

 火菜さんはそこで一旦言葉を区切り、風香さんに言った。

「風香。風香が知っていたことは風香の口から話して欲しいんだけど」

 風香さんはこくりと頷きつつ、

「分かった」

 と言ってから説明を始めていった。

「精霊というのは、それぞれのものや概念を構成しているもののこと。まあ、一部の精霊は、人間には原子とか分子とかって言われてるらしいけど。でもはっきりとした形がないものもあるから、そういうのと精霊は別けて考え、精霊は精霊というくくりとして考えた欲しいらしい。

 んで、各精霊のひとつひとつにはちゃんとした、人間と同じような意志や思惑、思考回路がある。そしてその意志などを統率している精霊がいて、全ての判断は、その精霊が行っているらしい。

 あと各精霊たちは、遠くでも意志の疎通ができるらしく、その日に見たことや聞いたこと、そこであった出来事などを報告し合っているらしい。そしてその全ては、各精霊の統率者を通してやっているらしい。

 私が知っていることはもう話し終えた。ほかに書いてあることは、みんなの冊子にも書いてあることらしいから。質問等があったらどうぞ」

 水樹は恐る恐る手を挙げつつ、言った。

「あ、あのっ……みんなの……冊子にも書いて……ある、こと……って、な、なん……です、か?」

 風香さんと火菜さんは、「え?そんなことも知らなかったの?」とでも言うように目を見開いて、じっと僕と水樹のことを見つめているようだった。

 知らないに決まっている。

 しばらくして、火菜さんはその答えを教えてくれた。

「みんなの冊子にも書いてあることは主に三つ。

 一つ目は、前置き。〝(なんとか)の精霊使いとは、(なんとか)の精霊を使って、(以下略)を守る人のことです。(以下略)の精霊を使って、(以下略)を守るために全力で戦ってください。〟ということ。

 二つ目は、注意書き。〝(以下略)の精霊を自由自在に操ることができますが、戦中以外でのご使用は控えてください。(以下略)の滅亡に関わる事態となるかもしれません。〟ということ。

 三つ目は、後書き。〝どうかあなたの全力を尽くして(以下略)の精霊たちをお守りください。よろしくお願いします〟ということ」

 僕のとこにも書いてあるのかな。

 僕は赤い冊子を開いて、中を確認した。うむ。全く同じことが書いてある。

 水樹や火菜さん、風香さんのものにもそうやって書いてあるのか。ふむふむ……。

 火菜さんが、

「ふたりのやつに書いてあることを教えてもらえると嬉しいのだけど……どう?教えてくれる?」

 と言ったので、僕は、僕のやつに書いてあることを教えることにした。

 火菜さんも風香さんも教えてくれたんだから、僕も教えてあげなきゃ。

「「はいっ」」

 水樹と、ハモってしまった。

 水樹の方をチラッと見ると、水樹はちょいと手を差し出して、

「星斗が、先」

 と言ったので、僕は、やっと、ようやく、説明ができることになった。

「えと、僕が知っているのは……〝僕たちの存在がこの世から消滅している〟ってことと、〝僕たち以外に精霊使いは、あと一六人くらいいる(精霊使いの数は増えたり減ったいする)〟ってことと、〝精霊使いの種類〟くらいですかね。

 〝僕たちの存在がこの世から消滅している〟ということは、言葉通りの意味なので言うまでもないでしょう。でもあえて言うならば、〝僕たちに関しての記憶やデータが全て消去、または、書き換えられる〟ということだと思います。

 〝僕たち以外に、精霊使いは、あと一二人いる(精霊使いの数は増えたり減ったりする)〟ということに関して、付け加えるとしたら、僕たち含めると、精霊使い全体の人数としては一六人くらいになるんですかね。

 あと〝精霊使いの種類〟なんですけど、僕たち、星、水、風、火の精霊使いの他に、大地、植物、動物、虫、鳥、音、霊、人、記憶、時、言葉、情報の精霊使いがいるそうです。そしてその精霊使いたちも僕たちのように、その精霊を操ることができるらしいです。

 僕が知っていることは以上です。ほかに書いてあることは、みんなの冊子にも書いてあるらしいことと、さっき言われたことくらいです」

 僕は、さっき火菜さんと風香さんが言ったのを真似て僕が持っている赤い冊子を見ながら、そうやって説明してみた。

 僕が話し終えて安堵の息を漏らしていると、

 パチパチパチ

 と、手を叩く音が聞こえてきた。どうやらその拍手は、火菜さんと風香さんからのものらしかった。そして水樹も、火菜さんと風香さんが手を叩いているのに気づき、慌てて拍手をし始めた。

 僕はそこまで拍手されるようなこと、やった覚えないと思うんだけど……。まあいいや。

「水樹も、説明、お願いできる?」

 僕が水樹にそうやって問いかけると、水樹はこくりと頷きつつ、

「分かった」

 と言ってから、ゆっくりと説明を始めた。

「えっと……話、私のところ……には、さっき、ほ、星斗が言った……〝この世から存在が消滅している〟ってこと……に、関して、だけど……〝私たちの次の精霊使い候補の人は、私たちみたいな精霊付きのことを覚えている〟らしい……です。まあ、私たちの……前、の……精霊使い、の人と……関わった……こと、がなきゃ……分から、ない話……では、あるん、です、けど……。

 それと、〝戦いで負ける以外の方法で死ぬことができない〟らしい、です。どんなに……疲れて……いても、どんな、に……傷……だらけ、でも、どんなに、辛く……ても、どんな……に、悲しく……ても……戦い、で……負ける……以外、のこと、では、死ぬ……ことが……でき、ないらし……い、です。逆に、どんな……戦い……でも、負けて、しまうと……コロッ……と、死んで、しまうらしい……です。

 あと、精霊使い、は……各々の……精霊、が……危険、な……状況、に……なったり……する、と……その場所、に……転移される、らしい……です。その際、各々の、武器……も、出てきて……戦い、の際……には、それ……を、使う、こと……が、できる……そう、です。

 私、が……認識……して、いる……ことに、ついては、以上……です。ほか、は……あなたたちが、知って……いる、ものと……同じ……かと、思われ……ます」

 話し終えて水樹はほっとしたのかよく分からないが、さっきより表情が少し明るくなったように見えたから、おそらくは、「無事に自分が知っていることを話すことができて、よかった」とでも思って、安心しているのだろう。

 パチパチパチ

 僕は、もうすでに拍手をし始めている火菜さんと風香さんに合わせて手を叩いた。

 よく頑張ったね。お疲れ、水樹。……って、僕は水樹の父親かよっ。

 火菜さんは様子を見ながら口を開いた。

「教えてくれてありがとうね、ふたりとも。おかげで、私たちが知っていることが増えたよ。本当にありがとう」

 風香さんは、ビシッと敬礼のポーズをして言った。

 「ふたりとも、わしはお主らに感謝するっ」

 僕は反応に困ったので、とりあえず、風香さんに合わせて敬礼をしておくことにした。それを見た水樹は、僕の真似をして敬礼をした。そしてそれを見た火菜さんが笑ったので、僕たちも、全員でお腹をかかえて笑った。どこまでも無邪気に。子供っぽく。

 しばらくして、火菜さんが言った。右手の人差し指を立てて話していたのが少し幼く見えた。

 火菜さんも、こんなとこあるんだな。

「私たちが話したいことはこれで以上だよ。なにか質問とかあったりする?」

 僕は元気よく返事してみせた。

「「はいっ」」

 どうやら、またハモってしまったらしかった。水樹の方を見てみると、両手を前に差し出した「どうぞ」とでも言いたそうなポーズだった。無論、「どうぞ」というような意味合いで、水樹はそのポーズを見せたのだろう。それを見かねた僕は、

「今度は水樹が先っ」

 と言って、少し強引だが、先に言わせることにした。水樹は一瞬、「しょうがないなあ」とでも言いたそうな表情をしたあと、ゆっくりとため息をつき、それから言った。

 やっと言い始めたよ。やっと。

「ひ、火菜さん……と風香……さん、は……どうゆー……関係、なん、です……か?」

 小さくてか細い声だった。さっきもそうだったけど……。そんな水樹の言葉を、火菜さんと風香さんは優しく受け取ってくれた。そして、このように返してくれた。

「ああ、私たちは、一応幼馴染だよ」

「ああっ私たちは、一応幼馴染なんだぞっ。……って、一応なのっ?」

 火菜さんの言葉を真似して言った風香さんは、不安そうな、驚いたような声を上げた。

 ショック……だったのかな?

「ん、一応だよ。こんな奴と幼馴染だなんて、いうだけでも嫌なんだよ。恥ずかしいったらありゃしない」

 火菜さんは顔を赤くして風香さんに向かってヤケクソのように言い放った。まるで、喧嘩でも始めるかのように。すぐさま風香さんが言い返し、概要を付ける。

「ちょっとっ!それひどくない?私たちは、完全なる、れっきとした幼馴染。昔はよく、一緒に遊んでたのっ」

「はあ、なんでこんな奴なんかと幼馴染なんだか」

「ちょっとぉ、それどういう意味っ?」

 そしてため息をつき、呆れつつ、しれっと言い放った火菜さんに、風香さんは軽く起こっているような素振りを見せた。火菜さんは、もうめんどくさくなったのか、話をいきなりそらしてきた。

「で、でっ、星斗くんの方の質問は何っ?」

 変なことに首突っ込むのもアレだし、しょうがなく質問することにした。

「え、えーっとですね、さっきの男の人と火菜さん、風香さんは、ど、どういう関係なんですか?」

 ……っ。くそー……めっちゃ噛んでしまった。僕、超カッコ悪……。

 火菜さんは風香さんと顔を見合わせ、しばらくしてから、こちらに向き直った。その時のふたりの顔は、「まあ、しょうがないか」といいそうな顔をして、こちらをじっと見つめていた。火菜さんが、ゆっくりと口を開いた。

「やっぱり気になっちゃうよね……。いいよ。教えてあげるっ。

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