始めさせられた、僕の物語
始まりは、とても静かだった。静かすぎるくらい、静かだった。そして、暗かった。一〇歳(小学四年生)の少年の部屋には、学習机の上にある灯りだけが、暗闇の中、寂しそうに灯っていた。そこから醸し出される微妙な緊張感、故に彼は感じとった。
「僕、何か忘れているような……」
そう言って、僕はほんの数十秒間考えてから、ようやく思い出した。
「そうだった。今日の二二時から、流星群が見られるんだった」
確かめるように僕は呟いた。そして僕は、「今、何時だっけ?」と思って慌てて時計を見ると、二一時五九分だった。僕はそれまで読んでいた星に関する本を閉じ、机の上に置く。机の横にある、窓に向かって置かれた望遠鏡へと目をやると、ちょうど星たちが流れ始めているところだった。僕は安堵の息をつき、じっと、望遠鏡の向こう側にある、地球に降り注ぐように落ちていく星たちを見ていた。僕は、無意識に呟いた。
「綺麗……」
こちらからでは青白く見える星たちの中に、ひとつだけ、他の星よりもスピードの遅い、赤く光るものがあった。
「なんだろう、あれ」
しばらくして、その赤いものがこちらに、僕の法に迫ってきている気がした。それは見間違いだと信じていたかったが、紛いもない事実のようだった。刻々と近づいて来る、その、赤く光る謎の物体は、とてつもない速さで、僕に向かって飛んでくる。僕は、「せめて……」という思いで、目を固く瞑り、身構えた。しばらくして、
バリイィィィィイン
という凄まじい音とともに入ってきた赤い物体は、その勢いで向かい側の僕の僕の部屋のドアに激突し、意外にも、その赤い物体は粉々に割れてしまった。
なんなんだよ、これは。
そして薄赤い光の中から出てきたのは、中高生くらいの、見知らぬ美少女だった。
ぼ、僕の頭、壊れちゃったのかな。
その少女は、身勝手に、僕に向かって語り始めた。
「ジャジャジャジャーンッ!やあ。はじめまして!突然ですが君に大、大、大ニュースがあるんだ。それはね、君が……ち、ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」
僕は内心で舌打ちし、しょうがなく言ってやった。
「はいはい、聞いてますよ」
彼女は少し苛立った様子を見せた。
「いい?それ、ちゃんと人の話を聞いてないという証拠だから。バレてるからね」
それを聞いて僕は、舌打ちをしてみせた。半分は本心、半分はわざとで。
そして彼女は言い直した。
「えー、コホン。突然ですが君に、大ニュースがあります。それは、君が……君が、この本を見れば分かります」
彼女はいきなりめんどくさくなったのか、小さな一冊の冊子を取り出し、僕に押し付けてきた。
「私が言いたいことは全部それに書いてあるから。そんじゃ」
そう言って彼女は、薄赤い光に包まれて、あっけなく消えていった。
僕は、開いた口が塞がらなかった。ほんの一瞬の出来事で、なにがなんなのか、あいつが何者なのかまで、全く理解できる瞬間がなかった。一瞬にしてあいつは現れ、一瞬にしてあいつは消えていった。
しばらくして僕は、先程まで着ていた服とは違う、見たこともないような服に包まれていることに、ようやく気がついた。僕は、そのまましばらく、あっけらかんとしていた。
それからは、赤い物体から出てきた名前も知らない美少女からもらった、「私が言いたいことは全部これに書いてあるから」と言われて押し付けられた、謎で謎で謎すぎる、濃い赤色の、こんな僕でも片手に収まるくらいの大きさの、表面がざらざらとした、謎の謎の謎の冊子を、ドキドキしながら、恐る恐る開いた冊子をこれでもかというほど吟味し吟味し吟味し続けた挙句の果てには、「全く理解ができん」と言いつつも精一杯理解しようと努力するのを努力し続けていた。その内容を、僕が頑張ってまとめようと努力した痕跡がこちらだ。
A 精霊使い(星)とは
星の精霊を使って星を守る人のことです。星の精霊を使って、星たちを守るために、全力で戦って ください。
1 あなたの存在はこの世から消滅しています。そのことを前提に、これからは行動していきましょ う。
2 星の精霊を自由に操ることができますが、星の滅亡に関わる事態になることはお控えください。
3 あなた以外にも、一六人の精霊使いがいます。その人たちと協力して生活したり戦ったりすると良 いでしょう。(尚、精霊使いの数は増減することがあります)
B 精霊使いの種類
・星の精霊使い
・大地の精霊使い
・水の精霊使い
・風の精霊使い
・虫の精霊使い
・植物の精霊使い
・動物の精霊使い
・鳥の精霊使い
・音の精霊使い
・霊の精霊使い
・火の精霊使い
・人の精霊使い
・言葉の精霊使い
・時の精霊使い
・記憶の精霊使い
・情報の精霊使い
どうか、あなたの全力を尽くして、星たちをお守りください。よろしくお願いします。
……よろしくねーよ。
これでも僕はがんばった方なんだ。みんな俺に感謝しなよ。ドヤ。
うん。これはたぶん、悪い夢だ。少し眠って起きたら、きっと元通りなんだ。明日もいつもどおりにお母さんに起こされ、学校に行って、友達と他愛もない会話をして、笑って、いつものように授業を受けて、「はあ、疲れた……」と言って帰って、飯でも食って風呂にでも入って寝るんだ。よくある、男子小学生のありきたりな日々だけど、それでも僕は、こんな日常が好きだったんだ。大好きだったんだ。
今は……少し疲れているんだ。早く寝て、何もかもを忘れてしまおう。
僕はさっさとベッドに潜り込み、さっさと寝てしまうことにした。
うむ、これが一番いい。