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元勇者、婚活する。

掲載日:2019/04/04



……結婚しよう。

そう、思った。

魔王を倒して十年。

共に魔王と戦った重戦士ガイと魔法使いのユンが凱旋パーティーの時に婚約を発表。

その二ヶ月後に結婚。

素直に祝福した二十代前半の俺。

その二年後、共に魔王と戦った回復士セルと女騎士エミーが結婚。

素直に祝福した俺。

そしてその二年後、共に魔王と戦った盗賊ヤオと暗殺者のキーが結婚していた。

いや、事後報告じゃなくて!

これは複雑であった。

いや、まあ、素直に祝福したけれど。

そして、唯一未婚であったファオート王国王女ルーナが婚約者と結婚。

同時に女王として即位。

手放しで祝福した。


が、しかし。

そのパーティーで昔の仲間たちが集まり、現状を聞いて唖然とした。



「ええ? 四人目⁉︎ おいおい、随分頑張ったじゃないかガイ、ユン」

「へへ、ユンが可愛いから……」

「お前のところも一人目か。しかしヤオとキーがねぇ〜」

「ほんとほんと、旅の時は全然そんなそぶりなかったじゃない!」

「ま、まあな」

「こいつってば突然転がり込んできて、お酒飲みながら結婚しろって命令してきたんだよ」

「セルとエミーのうちはどうなの?」

「ああ、忙しいけど家に帰るとエミーと娘たちが迎えてくれて……一瞬で疲れが吹き飛ぶよ」

「も、もうセル……そういう言い方はやめてくれ……」


わいわい、わいわい。


「そうだ、ユン、相談なんだが……」

「なに?」

「うちの子最近好き嫌いが出てきて……」

「ああ、あるわよね。うちの子はガイが自分の苦手なものを食べて見せてくれて、すっかり好き嫌いがなくなったわ。四人もいるから上の子が面倒を見てくれるし」

「ねえ、あたし初めて産むんだけど……気をつける事ってどんな事があるの?」

「あ、ああ、俺も父親としてどんな事が必要なのか教えてほしい」

「おお、ヤオが父親らしい事を!」

「そうだな、私は出来るだけ妻の願いをしつこいくらい聞くな。エミーは意地っ張りだから聞き出すのに苦労する」

「なるほど」


和気藹々。


「…………」

「あら、一人でなにをしているの? 勇者エイス」

「あ、ああ、ルーナ、久しぶり! 結婚と即位おめでとう」

「ありがとう。そうだ、夫を紹介致しますわ。リック」

「お初にお目にかかります、勇者エイス様」

「初めまして」

「どう? 素敵な人でしょう? 小さな頃に婚約して、ようやくなの。……長かったわね……」

「ああ……ようやく、君と……ルーナ」

「…………」


見つめ合う二人。

いや、ルーナに幼馴染の婚約者がいるのは、知っていたけれど。


「………………」


ぽつんこ。

勇者エイスは、その時気付いてしまった。


(…………俺、残ってね?)


という事実に。




その日からエイスは結婚を意識し始めた。

し始めたつもりである。

とりあえず結婚とは、自然に好きな人が出来て、自然に恋人が出来て、自然に結婚に繋がるのだと……その時は思っていた、当時は。

そんなふらふらした感覚の中、勇者の称号を持った冒険者として引き続き魔王が置き土産のモンスターたちを狩る。狩る。狩りまくる。

そんな生活を続けていたら――――魔王を倒して十年経っていた。

恋人はおろか、好きな相手すら見つからない。



「え? ウールとシシリーが結婚⁉︎」

「ええ、おめでたいですよね」


ある日、またクエストを受けに冒険者ギルドへ行くと最近よく一緒にパーティーを組んでいた若い二人の冒険者が結婚したと受付嬢ソニアに聞かされた。

目が、点になる。

いや、まあ、仲が良いのは、気付いていたが。


「エイス様はご結婚されないんですか?」

「…………」


ソニアはちょっとした好奇心だったのだろう。

しかし、エイスはその言葉に喉と胸が詰まった。

カシャン、と愛剣を床に落とす。

驚くソニア。

エイスは天井を仰ぎ見た。


…………結婚しよう。


やけに喉が渇く。

このままでは―――一生結婚出来ない気がする。


「ソニアさん」

「は、はい?」

「結婚するのってまずなにから始めたら良いんですかね……」

「…………。恋人を作るところからじゃないですかね?」

「恋人って、どうやって作るんですかね……?」

「…………。ま、町の男女紹介所に登録してみてはいかがですか?」

「男女紹介所?」

「ええ」


ソニアさんがなにやら紙を一枚取り出した。

そこには『恋人が欲しい男女必見! 男女紹介所!』と書いてある。


「こ、これは⁉︎」

「文字通り男女紹介所です。登録すると出会いが欲しい……恋人が欲しい男女が好みの異性を紹介してもらえます」

「な、なんと! そんな施設が⁉︎」

「エイス様……貴方まさか……婚活をご所望ですか⁉︎」

「⁉︎ こ、婚活?」

「結婚の為に活動する事を略して婚活と言うのですわ! 実はわたくし、最近友人たちがあまりにも結婚しないのでこの『男女紹介所』開設するのに一役買いましたの」

「⁉︎」

「つまり! わたくしは創設者!」

「そ、創設者!」


……よく分からないが、なんかすごい!


「かくいう私も恋人募集中の身でございます!」

「お、おお!」


なんかよく分からないが、すごい!


「まだ手探りですが、お互い理想の相手と結婚出来るように頑張りましょう勇者様! それでは早速こちらの会員登録書類に必要事項を明記して下さい」

「え? あ、ああ!」


よく分からないまま個人情報を記入していく勇者エイス。

それを確認してから、ふむふむ、と頷くソニア。


「好みのタイプは優しい人……ですか。いけませんこれは、書き直して下さい」

「え? なぜだ?」

「婚活先輩から婚活初心者へのワンポイントアドバイスそのいちー!」

「⁉︎」


大声で立ち上がるソニアに、紙を顔面の前に突き出される。

とりあえず大声に驚いて後退りするエイス。


「そんな誰にでも当てはまるふわっとしたタイプ設定では絞り込めません! もっとこう、具体的に! 容姿の好みでも構いませんし、相手に望む事を書いても良い。そうですね、例えば料理の腕に自信があるとか、同じ趣味がいいとか!」

「そ、そういうものなのか……」

「そしてワンポイントアドバイスそのにー!」

「⁉︎」


顔の前に出されていた書類を受け取ろうとしたら、ひょいと掲げられた。

ええ……? なんで……?

呆気にとられるエイス。

そんなエイスに、ソニアの人差し指が突きつけられる。


「趣味の欄に! 特になし、とはこれいかに!」

「…………。お、俺は無趣味……」

「今すぐ趣味を見つけてきて下さい」

「な、なぜ⁉︎」

「その方が出会いの幅が広がるからですわ。無趣味、なんて相手からどう思われると思います? いえ、そもそも、エイス様なら無趣味の女性に会いたいと思いますか?」

「…………。……、……え、ええと」

「そう! そのように普通、戸惑われます!」

「っ」


ビシッと言われて、んぐっと詰まる。

正論が突き刺さる。


「特技欄の『剣』はまあ、勇者様ですから良いとしましょう。ええ、まあ、本来なら、エイス様ほどの功績のある方、女は放っておきません。どれほど無骨でデリカシーがなくとも地位や名誉、あと何より報奨金目当ての女がエイス様に群がっていてもおかしくありませんでした。しかし! それらの餌食にならなかったエイス様……そしてここまできてしまった。これは、異常事態です」

「い、異常事態⁉︎」

「エイス様は、間違いなく事故物件! 相当ヤバめな問題を抱えていると見ました!」

「⁉︎」


よく分からないがとてつもなく酷い事を言われている気がする。

よく、分からないが。


「……ところでソニアさんはいつもはそんなに言動が大きくないのに急にどうし……」

「結婚適齢期で焦ってるからですよ!」

「……すまない」

「エイス様も焦って下さい! 良い物件は次々売れていきます! 残り物はやばいもの! 早く結婚しないと!」

「は、はあ……」


彼女にこんな一面があったとは……?


「さあ! まずは登録書類を書き直して下さい! まずは好みのタイプをもっと具体的に!」

「は、はい……!」








こうして勇者エイスの婚活が始まった。

これは彼が無事に結婚に至るまでの、長きに渡る戦いの記録である。

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