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小野塚、魔王と戦う

 瑞稀が敵前逃亡したことで、生存者は俺と小野塚さんの二人だけとなってしまった。小野塚さんの進行方向には無理難題のオンパレード。回避するには四を出すしかない。一マスずれると「全裸で踊る」という犯罪臭しかしない命令が待っている。小学生が作っただけあって見境ないな。森野が必死で五を出すように祈っていたところ、小野塚さんに思い切りわき腹を蹴られていた。


 おまじないかもしれないが、小野塚さんは右手を掲げて軽く握る。招き猫ポーズはお気に入りなのか。そして、左手で賽を投げた。「五」をコールしていた森野に本気の蹴りがお見舞いされ、同時にサイコロが止まる。


 出目は「四」だった。内心、惜しいと思ったが、彼女の蹴りの威力は半端ないから直撃はご免被りたい。だって、壁走りができるんだぜ。ライダーキックといい勝負なのは想像に難くないだろ。


 しかも、この一投で小野塚さんはゴール圏内を捉えた。もしも、次に「六」を出せばゲームクリアとなる。俺も負けてられないな。このターンでは無理だけど、どうにか凌ぐことができれば次のターンで俺もゴールできる可能性が生まれるのだ。俺は勢いよくサイコロを投げる。出目は六。小野塚さんを追い越したうえ、「全裸で踊る」という全員が損しかしない指令を回避できてラッキー。そう思ったのもつかの間だった。


「パンツを忘れた。スタートに戻る」


「お前、スタート直後に取りに戻ったんじゃねえのか!」

 ゴール直前までノーパンに気が付かないってどんだけ愚鈍なんだよ。むしろ、もう少しでゴールできるんだから、パンツぐらい我慢しろ。ゲーム終盤でスタートに戻されると挽回は不可能。ワープを使うと森野と同じ轍を踏みそうだし、俺もまた実質上の脱落となってしまうのであった。


 続く八子先生は未だにデスタムーアを倒せず、運命の小野塚さんのターン。「六」を出せばクリアという局面で、難なく「六」を出す。すんなりクリアされるかと思いきや、最後の最後にとんでもないトラップが仕掛けられていた。

「簡単にゴールはさせないのだ。最後のマス目をちゃんと見るのだ」

 ゴールの一マス前のひときわ大きなマス目。魔王と思わしき怪物が無駄に高い画力で描かれている。腐っても漫画家ということか。イラストはさておき、最初に悪魔のような文言が添えられていた。


「全員ここで止まれ。ここにきて強制停止マスかよ」

 スゴロクにおいて最大の難敵。それが強制停止だ。どんなにリードしていても、このマスに書かれているお題をクリアできなければ一向に先へ進めない。サイコロの出目で回避しようとしても、絶対に止められるので、小野塚さんとて従うしかないのだ。


 よもや、強制停止マスを使って全裸踊りを強制しているのではないよな。睨みつけると、「うちはそこまで鬼畜ではないのだ」とあっけらかんと躱された。全裸踊りを強制する魔王とか嫌すぎるから勘弁願いたい。


 では、肝心の指令はというと、最後にふさわしくかなりの鬼難易度だった。

「近所の田中さんが勝負をしかけてきた! サイコロを六回振って一から六の数字を一回ずつ出せ。失敗したら死ぬ」


 ラスボスはお前かよ! 近所に魔王が住んでいるなんて、ラノベの世界だけにしてもらいたい。

 そして、指令も無茶ぶりだった。成功確率どのくらいだ。数学のテストで出そうな問題だぞ。シャドバで開闢の預言者を直接召喚しようとしてるんじゃないんだからさ。


 小野塚さんが失敗したらゲームは泥沼化するのは明白だった。固唾をのんで彼女の動向を見守る。

 まずは第一投。出目は三。「一から順番に出せ」という条件はないので、一投目は必ずクリアとなる。半面、後半になるにつれ成功確率は劇的に下がっていく。二回目は六、三回目は二だったが、ここから先は失敗してもおかしくない領域だ。


 四回目からは慎重に手の内で念入りにサイコロを転がしてから投擲する。机の端から端まで転がっていったが、出目は一。あとは四と五を出せばクリアだ。


 おそらく、残り二投が最大の難関だ。どうにか落ち着きを取り戻してお花摘みから戻ってきた瑞稀も合流し、一心不乱に祈る。さあ、どうなるか。執拗にサイコロを振り、えいやと転がす。


 出目は五。途端に、森野と小泉が大きな歓声を上げた。既にハイタッチをしていてクリアしたかのような盛り上がりだが、油断は禁物。むしろ、最後の一投が最も難易度が高い。八子先生が苦労して倒したデスタムーアを一撃必殺しろと強要されているみたいなものだ。


「すげーぞ、あほ太郎。もう少しでクリアじゃん」

「ここまで来たらクリアしろよ、あほ太郎」

「キャラクター名で呼ばないでほしい」

 小野塚さんの緊張感に満ちた顔付きとは裏腹に、分身であるソフビはアホ面を晒している。果たして、勇者あほ太郎は魔王を討伐できるのか。深呼吸して、最後の一投に臨む。


 投げる前にお決まりの猫ポーズを取る。おまじないなのかな。四投目と五投目の溜めも長かったが、今回は念入りにサイコロを転がしていた。俺たちも手を合わせて賽の行方を祈る。四だ。四が出てくれ。これまでの人生の中でこの時以上に「四」が出てほしいと思ったことはない。


 転がしている間に小野塚さんは目を閉じる。その様は神社の加持祈祷を彷彿させた。そして、開眼と同時にサイコロは彼女の手から放たれた。

 奇しくも落下地点は近所の田中さんの金の玉。そこから顔面へと転がっていく。魔王を一刀両断したサイコロはゴールまで到達し、ど真ん中で停止した。出目はどうなった。その場の全員の視線がサイコロに集中する。


 出た目は……四だ。

「よっしゃ、クリアだ!」

 達成した当人以上に男連中が盛り上がる。森野は全員とハイタッチを交わしており、ノリが完全に部活だ。小泉まで同調しているから、喜びもひとしおである。


 偉業を達成した小野塚さんはどや顔でふんぞり返っていた。今回に限っては、仰々しい態度を取る資格がある。究極の運ゲーを制するとは、なかなかできるものではない。

ちょっと分かりにくいパロネタ解説

開闢の預言者:シャドウバースのレジェンドレアカード。コスト1~10までのカードを1枚ずつプレイするとデッキから直接召喚できる。召喚するのは難しいが、高い除去耐性と相手を一撃で倒せる攻撃力を兼ね備えたフィニッシャーである。

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