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瑞稀、公開処刑される

 二人の脱落者を出した双六も終盤戦にさしかかろうとしている。ようやくデスタムーアを倒した八子先生。息まいてサイコロを振ったのだが、

「デスタムーアは第二形態に進化した。サイコロを二回振って、どちらも六が出ないと進めない。無理ゲーすぎるのだ」

 文句を垂れ流していますけど、あなたが製作者ですよね。原作通りなら、そいつはもう一段階変身できたはず。六分の一の確率ですら達成できなかった彼女が突破できるとは思えず、ここで敗退が濃厚となった。


 半分脱落するという地獄の様相を呈しているが、次なる牙は瑞稀に襲い掛かった。後半は森野を倒した無理難題のオンパレードである。俺とて、「東京特許許可局に赤巻紙青巻紙黄巻紙を取りに行った庭に二羽いる鶏」という早口言葉をどうにかクリアしたばかりだ。日常系の中で異能バトルするアニメでヒロインがまくしたてた長セリフを全暗記して活舌を鍛えたのが功を奏した。


 現在最下位に甘んじている瑞稀のターン。サイコロで六を出し、俺の二つ先のマスへと到達する。ドベを免れたことで優越感に浸っていたようだが、すぐにほほをひきつらせた。次第に顔色が紅潮していく。どうした。どんな命令が下されたんだ。八子先生がにやにやしているのが不気味だ。


 彼女が止まったマスを確認し、俺は絶句した。こいつは鼻から牛乳を出すよりも酷かもしれない。下手をしたら、すべてのマスの中で一番凶悪かも。マス目にはこう書かれていたのだ。


「みんなの前で好きな人は誰か告白する」


 森野と小泉が同時に聞き耳を立てる。小学生でもこの手の話題はするだろうが、やるとしても同性同士の集まりに限られる。男女が混合しているこの状況で発表するなど、すぐそばにある地雷を踏めと強要されているようなものだ。


「ほら、早く言うのだ。高校生だから、好きな人の一人や二人はいるだろ」

 デスタムーアを倒せなくてムキになっているのか、八子先生が煽ってくる。俺たちより十以上年が離れているはずなのに、最も大人げないぞ。

「もちろん、アニメキャラとか芸能人の名前を出すのはダメなのだ」

 退路まで塞ぎやがった。誰かの名前を言いかけたが口をつむったのは、逃げ道を使おうとしたからだろう。俺が「俺の嫁は花園華」と答えるのがダメとしたらどうするんだよ。俺の嫁は彼女以外に考えられないぞ。


 好奇の視線にさらされ、裾を握っている腕が小刻みに震えている。ビーレンジャーショーの時も同じだったが、瑞稀は衆目に晒されることが苦手だ。その割に、自作小説をネットで公開しているが、自らが大舞台で矢面に立つのは別の話だろう。


 助け舟を出してやるか。そう思ったのだが、同時に気にもなっていた。瑞稀が好きな異性。一体どんな人物なのか。好奇心から相貌を崩す俺は鬼畜だ。


 そんな俺を諫めようとしているのか、鋭い視線が突き刺さった。どこから発せられたのかは見当もつかない。一瞬、強烈な視線が刺さり、すぐに平常に戻るというルーティンがなされているのだ。前にも似たようなことがあったよな。本当に誰の仕業なんだ。


「さあ、どうするのだ。なんなら、特徴だけでもいいのだ」

「えっと、ま、まっすぐな人で……」

 まっすぐな人? 背がひょろ長いという意味か。一番の長身は森野だが、ガタイがいいからひょろ長いとはまた違う。あるいは、背丈のことではないかもしれない。


 せわしなく、部屋全体を見渡さんと首を動かす瑞稀。もはや臨界点に達しているのは明らかだ。

「お、お……」

 ついに、具体的な単語が挙げられる。「お」で名前が始まる人物。俺たちの中で該当するのは。


 小野塚輝夜。え、まさか、な。瑞稀にそっちの趣味があるとは。ゆりゆららららゆるゆり大事件だよ。

「お、お、は」

 は!? 「おっはー」だと人名ではなく挨拶になるぞ。オハ・ヨーさんとかいう未知の外国人でもいるのか。


 そして、意を決したのか一気にまくし立てた。

「お花を摘みに行ってきまーす!」

 椅子を蹴り飛ばし、脱兎の勢いで部屋から退出していった。結局、誰だったんだ。瑞稀の意中の相手は。


 追いかけようとしたが、「やりすぎたのだ。しばらく一人にさせておく方がいいのだ」といつになく真剣に八子先生に諭された。十年以上年が離れている先輩の助言だから、一応従っておこう。元凶はあんたですけどね。

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