浬たち、キャラクターを選ぶ
普通にすごろくを行うのであれば、俺たちが圧倒的に有利だ。条件からして、俺たちのうちの一人がゴールすれば勝利となる。すごろくは「運」がゲーム要素のほとんどを占める。全員が同様にゴールできる可能性があるなら、八子先生が勝つ可能性は六分の一。ポケモンの対戦で一撃必殺技を命中させるよりも低い。
ただ、「うちと遊ぶのだ」と言っただけで、ゲームに勝つのは条件に含まれていない。なんか、とんでもない「裏」が隠れていそうで末恐ろしい。
とはいえ、ロシアンルーレットや賭博覇王伝でやっていそうなゲームを提案されるよりはマシだ。「小学生が考えそうな」という枕詞が引っかかるが、妙なことは書かれていないだろう。ここは、やるしかない。
「どうしたのだ。降りるなら今のうちなのだ」
「俺はやるぜ。ただのすごろくなら十分に勝てる可能性がある」
「そうだよな。すごろくごときに後れを取る俺じゃないぜ」
森野も変な意地を張って参加を表明する。小泉も「やれやれ」と賛同した。
「なんか面白そう。参加する」
淡々と小野塚さんもエントリーする。残るは瑞稀。四人がかりだとしても、確率的に十分勝算はある。なので、不参加でも問題はないのだが、
「私もやります。お力になりたいですし」
前かがみになって宣言してきた。全員参加の報告を受け、八子先生はにやりと笑う。ちなみに、余った玉川さんは不正がないか見守る審判に(強制的に)任命された。「仕事したいのですが」と汗をぬぐっていたが、どんまいだ。
作者の権限というチートスキルが発揮され、主役の犬太郎は八子先生に奪われる。さて、どのキャラを選ぼうか。
「森野はガキ太郎っぽいからこいつでいいよな」
小泉におしつけられ、森野はブルドックの人形を手に取る。悪ガキというならあながち間違ってはいないだろう。
「じゃあ小泉はウツ太郎だな」
「俺って神経質に見られていたのか」
地味にがっかりしている。森野に負けず劣らずのどっしりした肉体をしているが、意外とナイーブなところがあるからな。まあ、妥当なところだろう。
残りはひめことあほ太郎としん太郎。男の俺がひめこを選ぶというのも忍びない。ならば、残るはアホか死んだように眠っている奴か。選択肢がろくでもない奴しか無いぞ。いっそ、ひめこを選ぶか。男の子は仮面ライダー、女の子はプリキュアって謳い文句が非難されたことがあったからな。
俺が悩んでいると、森野が唐突にひめこの人形を取り上げた。
「なんとなくだけどさ、石動さんがひめこでいいんじゃね」
「異議なし」
三体の中では当たり枠であるひめこに選ばれ、瑞稀は困惑している。選ばれるとしたら、小野塚さんが瑞稀のどちらかだと思っていたから不思議ではない。
「むう。私がひめこではダメなのか」
頬を膨らませて小野塚さんが抗議する。そんな彼女の前にダックスフンドが置かれた。
「小野塚さんはどっちかというとあほ太郎だろ」
「異議なし」
「こっちが異議ある」
ごめん、小野塚さん。しっくり来てしまった。なんとなくだけど、あほ太郎とうり二つに思えてくる。なんだろう、普段の行いかな。
一方、瑞稀はひめこにうっとりと見とれていて、心ここにあらずだった。ギャグマンガっぽくデフォルメされているけど、ひめこは割と可愛く描かれているんだよな。ピクシブにひめこの擬人化が載っていたが、滅茶苦茶美人にされていたし。よかったな、瑞稀。
そうなると、俺には余りものが割り当てられる。残るキャラクターって。
「俺、しん太郎かよ」
「いいじゃないか。総理大臣みたいで」
「お前が言っているのは晋三だろ」
「しん」しか合っていないぞ。
「案外そっくりだと思いますよ。性格とか」
「割と冗談にならないからやめろ」
瑞稀よ、フォローしているつもりが逆効果だ。前に、美琴から「将来を考えろ」と叱られているので洒落にならない。
「安心しろ。将来は私が養ってやる」
「その自信はどこから来るんでしょうね」
小野塚さんがサムズアップするが、不安しかなかった。
全員にキャラが行き渡ったので、いよいよゲーム開始だ。じゃんけんの結果、俺が一番手となった。この類のゲームだと実験台にされているみたいであまり嬉しくない。なんていうか、敵の行動パターンを探るために捨て石にされる低レベルモンスターみたいな。
サイコロに細工されているわけでもなく、あくまで百均で売られている安物のようだ。試しに一回振ってみたが違和感はなかった。ならば、勝負はすごろくに書かれているマス目に左右されるか。
手の中で軽く賽を転がし、中央へと放る。出た目は「三」か。可もなく、不可もなくってところだ。しん太郎を三マス先に進めたところ、何やら指令が書かれていた。どれどれ。どんな命令を下されるんだ。
「パンツを忘れた、スタートに戻る」
「小学生かよ!」
小学生にすごろくを作らせたら、十中八九このマス目を作るよな。スタート直後だから実害がないのが幸いだ。
「言ったのだ。小学生が考えそうなすごろくって。言っておくけど、こいつはまだ序の口なのだ」
八子先生が含み笑いをしている通り、本番はこれからだった。