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八子先生、条件を提示する

「先生。僕です、玉川です」

「サブちゃんか。原稿ならまだできてないのだ。あと、お酒も間に合っているのだ」

「僕は三河屋じゃないと何度言ったら分かるんですか。原稿ができていないのもそれはそれで問題ですし」

 既に玉川さんはこれまでの数倍もの汗を流している。じっとしていられないのか、しゃべっている間も八子先生はくるくると踊りまわっていた。


「いっぱいちびっこがいるのだ。隠し子か?」

「違いますって」

 高校生五人が隠し子って、家庭に闇がありすぎるぞ。俺は心の中でツッコみを入れるのが精いっぱいで、他の面子は完全に固まっていた。


「彼らは高校の職場見学の一環として、漫画家の仕事を見学したいそうです」

「うちの仕事は見学しても参考にならないのだ」

 いきなりどうしようもないことを断言された。俺の目的は漫画家の仕事の見学ではないから支障はないが。

「でも、どうしてもというなら、八子の部屋に案内するのだ」

 ルールル、ルルル、ルールルという音楽が流れてきそうだ。普通の一軒家のはずだが、とんでもない魔境に思えて二の足を踏んでしまう。


 級友を巻き込んでしまった手前、敵前逃亡はできない。俺だけで突入しようかと思ったが、一蓮托生の精神というか、瑞稀たちも同行を申し出た。怖いもの見たさというのもあるかもしれない。


 二階を仕事場にしているようで、階段を上がってすぐの部屋に通された。最奥に大きな机、両サイドに二つずつ小さな机が配置されている。左右に一人ずつアシスタントと思われる人たちが着席し、一心不乱に筆を動かしていた。


 漫画家の仕事場を目の当たりにするのは初めてだが、割とイメージ通りだった。乱雑に広がっている紙束は未発表の原稿だろう。機密事項になるからと、深入りは禁止された。

「漫画家の仕事場に興味があるだろうと思って、見せるだけ見せたのだ。話を聞きたいなら、別の部屋に行くのだ」

「彼女は一応プロですから、アシスタントの邪魔にならないように配慮しているんですよ」

 玉川さんが補足を入れる。変人でもアニメ化した漫画家というプライドが垣間見える。首輪と犬耳はどうにかしてほしいのだが。


 仕事場の隣の応接間に俺たちは押し込まれる。編集者と二人で打ち合わせするのを想定して設計されたらしく、五人も余分に入ると窮屈である。机と椅子ぐらいしか置かれておらず、どことなく取調室を彷彿とさせる。


「あらかじめ話は聞いているのだ。牟田ちゃんについて知りたいのだろ」

 無遠慮に椅子に腰かけ、足を組み替える。ミニスカでやるものだから、目のやり場に困る。

「そうです。知っていることはありませんか」

 代表して俺が応じた。八子先生はポリポリと額を掻いていたが、やがて、腰に手を当てた胸を張った。

「教えてやらないこともないのだ」

 おお、すんなりと事が進みそうだ。無理難題をふっかけられると思った。


「でも、条件があるのだ」

 真顔で指をつきつける。やっぱり、簡単には教えてくれないか。俺は固唾をのんで彼女の動向を探る。そんな俺たちを弄ぶように八子先生は口角を上げた。

「うちと遊ぶのだ」


 言っている意味が分からない。漫画家と遊ぶことが条件? いいや、表面だけとらえてはダメだ。漫画家といい小説家といい、読者の裏をかくことが求められているはず。素直に言葉に従っていては足元をすくわれる。


 同じく創作をしている瑞稀に考えを伺ったが、「ヒントが無さ過ぎて分からない」だそうだ。出会って十分足らずの犬耳をつけた変なお姉さんが「遊ぼう」と言っている。ツッコみどころはあるけど、メッセージ性は皆無だ。素直にとらえると「遊びたい」になってしまうし。


 返答に窮していると、八子先生は眉根を寄せた。

「別に他意は無いのだ。最近、気分転換できていなかったから、単純に遊びたいだけだぞ。アシの子とかサブちゃんとは遊び飽きたし」

 本当に遊びたいだけかよ。

「遊ぶ暇があったら仕事を進めてほしいのですが」

「大丈夫。破っちゃいけない方の締め切りはまだ先なのだ」

 ブイサインをしているが、玉川さんは目を白黒させている。確か、聞いたことがある。漫画家には余裕を持った締め切り日が告げられ、製作に支障が出る方の締め切りは別に設定されていると。


 ともあれ、ゲームに参加しないと話が進まないようだ。こうなるなら、茜さんを連れてくればよかったな。万が一、ファイトモンスターズで勝負を挑まれたら、こちら側が圧倒的に有利となる。

 緊張した面持ちでズボンを握っていると、八子先生は机のほぼ全面を占めるプリントを広げ、左下に六体のソフビを並べた。そいつを前に瑞稀が声を上げる。

「犬太郎のソフビだ。食玩で売ってますよね」

「そうなのだ。作者の権限で全種類譲ってもらったのだ」

 チワワの犬太郎、ブルドックでガキ大将のガキ太郎。内気なパグのウツ太郎に、ひょうきんなダックスフンドのあほ太郎。マドンナなパピヨンのひめこに、常に死んだように眠っているセントバーナードのしん太郎と主要キャラが勢ぞろいだ。犬太郎、ガキ太郎、ひめこはまだいいけど、他の面子は改めて考えるとネーミングがひどすぎるな。しん太郎の「し」の字は子供向け番組では使っちゃいけない漢字が当てはまるだろ。


 これでどんなゲームをするかと問われれば、可能性は自ずと絞られる。と、いうか、主に正月にやるあの遊びぐらいしかない。極めつけに、机の中央にサイコロを転がした。

「刮目するのだ。これこそ、うちが自作した究極にして禁断のすごろく。『小学生が考えそうなすごろく』なのだ」


 どや顔で宣言しているけど、俺たちは呆気にとられて固まるしかなかった。なんていうか、あまりにも予想外すぎるゲームが提案されたからだ。

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