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浬たち、お気に入りの作品について語る

「ここからが重要な話になってくるのですが、現在僕は骨太犬太郎の作者、八子先生の担当を務めています。ブレーメン四天王時代の伝手があったからですが、それは置いておきましょう。八子先生もまた、当時の牟田先生や蛮先生とは交流があったはずです。彼女であれば、牟田先生の居場所を知っているかもしれません」

「本当ですか」

 机に乗り出したせいで、プレミアムなコーヒーがこぼれそうになる。瑞稀に「どうどう」と慰められて席につく。前にも似たようなことをされた覚えがあるぞ。


 たらいまわしにされてはいるものの、当時交流があった漫画家ならば信ぴょう性は高いだろう。一気にコーヒーを口にし、苦みで舌を出す。

「漫画家同士で交流があったのなら、直接漫画家に連絡を取ればいいのに。どうして、わざわざ編集を通したのでしょう」

 瑞稀が鋭い疑問を投げかける。言われてみれば、直接八子先生に会わせてくれれば解決できそうなのに。

「理由は色々でしょうが、君たちがうちへ見学に来るのに合わせたのでしょう。それに、昔知り合いだったとはいえ、最近は連絡を取っていないのです。いきなり連絡をするのは同じ漫画家として気が引けた。むしろ、こっちが本命かもしれません」

「明日をも知れぬ職業」

「小野塚、ストレートに言うのはやめような」

 淡々と指摘する小野塚さんを小泉が制していた。漫画家同士、近況報告すると気まずいという側面があるのだろう。ましてや、馬込さんは立場的には脱漫画家した身だ。八子先生の方が気を使うと配慮したのかもしれない。


 ただ、玉川さんは遠い目をしながらコーヒーを口にしていた。

「それに、八子先生はけっこう特殊ですからね。まあ、会えば分かります」

 かなり含みがある言い方だぞ。とりあえず、これから八子先生と打ち合わせする予定があるみたいなので、特別に同行させてもらうことになった。高校生がくっついてきて鬱陶しいと思われるかもしれないが、当人は二つ返事で承諾したという。漫画家と対面するのは初めてだな。どんな人だろ。いや、元漫画家と一緒にバイトしているんだけどさ。


 移動の電車の中で、話題は自ずと常翔社の作品についてとなる。なんか、職場見学の範疇を逸脱しているが、「漫画家本人に取材できるなんて、いい勉強になるだろ」と提案したら、全員から合意を得られた。後で先生から小言を言われそうではある。


「やっぱり、一番面白いのはチキンレーサーだよな。バイクで爆走するシーンは憧れたぜ」

「森野は本当にチキンレーサーが好きだな。オカルト要素はないのに」

「小泉、俺がオカルトばかり見ていると思うなよ。ああいったアクションもけっこう見るんだ」

 威張ることかな。確か、仮面ライダーに出演していた俳優が出ていたとかで、アクションシーンには定評があるようだ。ならば、美琴も視聴していそうだ。


「チキンレーサーで思い出したが、こいつ、師匠とのチキンレースのシーンに憧れて、実際にチキンレースをしたことあるんだ」

「それで、どうなったんだ」

「失敗して川に落ちた」

 森野は通常運行だった。しかも、自転車をおしゃかにしたせいで、母親に死ぬほど怒られたという。むしろ、自転車で川に突撃して無事という奇跡を喜ぶべきでは。


「私は犬太郎が好きです。なので、作者さんに会えるなんて夢みたいです」

「うん。犬太郎は女子のバイブル」

 そこまで断言するか。とっとこするハムスターのアニメと同じく女子が好みそうな内容ではあるが。

「でも、あの作品、たまにブラックな発言があるよな」

「畜生だけにチクショーとか」

 放送コードギリギリの単語を連発していたような。ちなみに、小野塚さんが言ったセリフは、犬太郎の友達でガキ大将のガキ太郎が小梅太夫の真似をしながら叫んだものだ。水面に映った影の方が大きな肉を持っているから奪おうとしたら、所持していた肉を台無しにしてしまったという話だっけ。童話で似たようなのがあったな。


「浬はネコパラがお気に入りなんだっけ」

「まあ、そうだな」

 厳密にいえば、作者に早山奈織について聞きたいだけで、作品自体はそれほど好きというわけではない。俺のバイブルはあくまでガクドルズだ。


「作者は牟田馬論か」

「耳をすましそうな名前」

 小野塚が呟いたが、俺も初めて聞いた時に同じことを思った。ネコを主人公にしていることからして、あの映画が由来になっているだろう。

「一体どんな方なのでしょうね。私、作家の方に会うのは初めてだから楽しみです。サイン会とかに行きたかったのですが、地方だとなかなか開催されないんですよ」

 作家のサイン会が開催されるとしたら、大抵は関東になるからな。瑞稀の出身地近くでやるとしたら、仙台辺りになるのではないだろうか。

「楽しみにしているところ悪いですが、八子先生はあまり期待しない方がいいです。色々な意味で」

 玉川さんはしきりに汗をぬぐっている。そこまで含みがある言い方をされると、逆に会いたくなってくる。果たして、どんな人物なのだろうか。


 電車に揺られること約二十分。八子先生が住んでいるという最寄り駅に到着した。都内の喧騒とは無縁の閑静な住宅街だ。八子先生は自宅を職場にしているという。奇抜な外見の物件と対面するかと若干期待していたのだが、案内されたのはごく普通の一軒家だった。


 表札には「田中」と記載されている。本名は田中さんなのか。なんて、野暮なことを考えてはいけない。玉川さんは念を入れていたけど、案外普通の人物なのでは。そんな期待は数秒後に裏切られた。


 呼び鈴が鳴らされてからすぐに、

「受信料の集金なら帰るのだ」

 首輪と犬耳をつけた変なお姉さんが飛び出してきた。

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