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よーこさん、とんでもないものを引き当てる

「これで最後だから外れても文句言うなよ。7番」

「っしゃあああああああああああああああああ!」

「そこ、当たったからとうるさいぞ。あまり騒ぐようなら取り消しにするからな」

「はい、すみませんでした」

 勢いよく絶叫したまま謝罪した。フハハハハハ、どうだ、これが俺の実力だ。見学に行くことさえできれば、早山奈織についての情報を得ることができる。まあ、実力だと見栄を張ったところで、俺は何もしていないけどな。


「やったな、浬」

「まさか本当に当たるとは思ってもいませんでした」

 森野や小泉とハイタッチを交わす。瑞稀とも便乗して小さくハイタッチしておいた。

「すごい。これで出版社に行ける」

 小野塚さんの口調は平坦だけど、一応喜んでいるんだよな。さっきからずっと先生を凝視したまま動かないし。


「あの、小野塚さん。一つ聞きたいんだが」

 森野が恐る恐る訊ねる。

「右手はどうしたんだ。まるで猫みたいだぞ」

 指摘されて、小野塚さんはそそくさと手を引っ込める。どことなく頬が蒸気していた。

「気にしなくていい。民間療法」

 風邪の時に首にネギを巻くようなものか。効果があるとは思えないが。そもそも、療法って誰も病気になってないし。まあ、当確したから問題ないや。


 帰宅してからもバカ騒ぎをしていたら、美琴に「うっさい」と叱られた。瑞稀までもが、「抽選の後からずっとあんな調子なんです」と告げ口している。

「まったく、盆と正月が一緒に来たようなはしゃぎぶりね」

「まったくだ。ガクドルズのソシャゲのガチャでLRレジェンドレアの花園華が二枚来たぐらいの快挙だ」

「ダブってるから外れているんじゃないの」

「甘いな。同じカードを強化合成すると覚醒するんだよ」

「ソシャゲで採用されている救済処置ですね」

 瑞稀が身も蓋もないことを言った。花園華LR+6を作るのにどれくらい苦労したと思っているんだ。無暗に課金できないから、周回イベントに粘着してガチャを回せるダイヤを溜めたんだぞ。


 ソシャゲの話はさておき、俺の快挙をまだ報告していない人物がいたな。せっかくだから得意げに自慢してやりたいぜ。息まいて台所へ向かったところ、

「やったのじゃ、浬!」

 見事なまでに不意打ちをくらった。攻撃技読みで不意打ち選択とか、アブソルみたいなことをしやがる。


 直後に美琴が俺を引き離そうとしていたのは、ひとえに俺の顔がよーこさんのおっぱいにうずもれていたからだ。わざとじゃないからな。体当たりしていったら、ちょうど顔のところにおっぱいがあったのだ。


 よーこさんもまた、俺ほどではないが狂喜乱舞している。俺たちが学校に行っている間に何かあったのだろうか。

「どうしたんですか、よーこさん。バストアップに成功したんですか」

「そうなのじゃ。また新しくブラジャーとやらを買わないといかん……って、そうじゃないわい!」

 思い切り張り手された。嘘じゃないんかい。地味に痛かったぞ。


「聞いて驚け、見て笑えなのじゃ。商店街の福引ですごいものを当てたのじゃ」

 小鬼のトリオみたいなことを言っても閻魔大王の杓は返さないぞ。しらけている俺をよそに、よーこさんは得意そうにズボンの後ろポケットをまさぐる。そして、数枚の紙束を取り出した。


 一見するとどこかの施設のチケットのようだ。まさか、絶対に名前を言ってはいけないネズミの根城か。それはそれで魅力的だが、負けず劣らずの豪華な観光地が記されていた。

「すごいです。私、一度行ってみたかったんですよね」

「あなたにしてはやるわね」

 女性陣も目を輝かせている。よーこさんが引き当てたもの。それは、避暑地として有名な「重井沢」への招待チケットだった。


 夏の避暑地として軽井沢と長年争っている重井沢。地球温暖化に逆行しているかのような清涼な気候で、山あり、海ありとレジャーにも事欠かない。人気が高すぎるために、宿泊費がべらぼうに高いと聞くが、よーこさんが持っていたのは無料宿泊チケットだったのだ。


 ものすごい掘り出し物ではあるが、よくゲットできたな。商店街の福引で当てたとか言ってなかったか。

「あれは今日の夕飯の食材を買いに行った時のことじゃ。商店街の福引を回せるチケットが溜まったから、引いてやろうと抽選会場へと向かった」

「たまにやっているわね。複数店舗で買い物することで抽選ができるって企画」

「そうじゃ。当たるとお米とか自転車がもらえるならお得じゃろ」

 商店街の福引にラインナップされていそうなベタな商品だな。どうせ、外れはポケットティッシュだろ。


「一回だけしか引けんかったから、念を込めて回した。そうしたら、金の玉が出たのじゃ。よもや、大当たりするとは思いもよらんかった」

「一発で一等を当てるなんてすごいです」

「じゃろ。金の玉はすごいのじゃ」

 一等がすごいのは分かったから、金の玉を連呼しないでください。


「あなたの悪運も大したものね。呪いとかは使ってないだろうな」

「失礼な。運も実力のうちじゃ。でも、こいつのおかげかもしれぬ」

 そう言って、チケットが入っていたポケットから出した物に、俺は大声を張り上げた。

「不細工な猫のキーホルダー。どうしてよーこさんが持っているんですか」

 手のひらにあったのは、童から譲り受けたはずの運気上昇アイテム「ラッキーホルダー」だった。


 学校で血眼になって探して見つからなかった物がよーこさんの手の中にある。妖術で盗まれたか。警戒して拳を強く握りしめる。

「浬の部屋を掃除してやろうと忍び込んだら、布団の下に落ちておったのじゃ。届けに行こうと思ったのじゃが、受信料を払えとうるさいおじさんが来ての。そこから掃除とか色々やっておったら、つい忘れてしまっておったわい」

 なるほど。集金のおっさんのせいか。いや、慌てていた俺の失態なんですけどね。


「キーホルダーには運勢を上げる効果があると言ってましたよね。ひょっとしたら、効果が出たのかもしれないですね」

「そうじゃろう。証拠にここを見よ。立派な髭が途中で折れておる。効果が発揮されたから、代償で壊れてしまったのじゃな」

 よーこさんの言う通り、太くて丸みを帯びていた髭がポッキリと欠けていた。ポケットに入れていたせいで欠損したかもしれないが、材質はメッキ金属だ。一日やそこらで部位破壊されるなど考えにくい。


 一回だけしか使えないことも合わさり、ラッキーホルダーの効力は本物だったんだな。チケットを当てたことで、夏休みはみんなで旅行へ行こうと盛り上がりを見せている。俺も便乗してやんややんやしていたが、心の底で引っかかることがあった。


 キーホルダーを持たずに当選したのだから、俺の運が相当良かったという結論に落ち着く。でも、本当にそうだろうか。年末の宝くじよりもはるかに当選確率は高いとはいえ、すんなり当確したことに末恐ろしさすら覚えるのだ。まあ、考えすぎだよな。

 避暑地に出かけるとしても夏休みの話になりそうだし、今は目の前の職場見学に集中しよう。俺は頬を叩いて気付けを施すと、女性陣の会話へと加わるのだった。

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