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丸山、見境ない

 バイトが終わり、俺は真っ先に瑞稀の部屋に突撃した。こっそり録画した深夜アニメを視聴していたようで、「うぴゃ」というおおよそ人間離れした悲鳴を上げる。

「もう、びっくりしました。いきなりどうしたんですか」

「瑞稀、小説勝負に絶対勝つぞ」

「へ、ええ!? 本当にどうかしたんですか」

 無意識に手を握ってしまっていたようで、瑞稀は尻をついたまま後ずさりしていた。困惑して目を白黒させている。いきなり迫られても訳が分からないだろう。


 俺の算段としてはこうだ。瑞稀の小説がもっと有名になれば書籍化のオファーが来る。そいつが売れればアニメ化の声がかかる。そしてヒロインの声優に早山奈織を呼ぶことができれば自ずと接点が持てるって寸法だ。


 荒唐無稽ではあるが、現状でアニメ関係者と接触を持つにはこれが一番可能性が高い。唯一の欠点は最終地点であるアニメ化が何年先になるか分からないことだ。でも、策を弄しないよりは幾分マシだろう。

 そのためには丸山との勝負に勝って弾みをつけたい。

「現状、ポイントはどうなってるんだ」

「ちょっと待ってくださいね」

 俺の方が部屋の四分の三まで侵略してきており、本来の主である瑞稀が肩身の狭い思いをしている。腰をあげることなくパソコンを持ち出すと、「小説を書こうぜ」のページにアクセスした。


 投稿を開始してから三日だが、果たして結果は。


瑞稀 登録数23 ボーナスポイント8

丸山 登録数176 ボーナスポイント34


「嘘だろ。既に差をつけられているじゃないか」

 まだ接戦しているのではと思っていたが、まさにけた違いだった。俺は愕然と腰を抜かす。どういうことだ。両者の作品を読んだが、こうも明白に差が出るはずはないのに。


 瑞稀も沈痛な面持ちでため息をつくと、別のブラウザを立ち上げる。開いたのはツイッターの画面だった。

「私も、まさかここまで点を取られるなんて思ってもみなかったので、丸山先輩の動向を調べてみたのです。おそらく氷山の一角でしょうがこれを見てください」

 表示されているのは丸山のツイッターのページだった。自作小説の宣伝を固定ツイートにしているようだが、リツイート数が、

「なんだこれ。5736ツイートだって」

 存分にバズっているじゃないか。アニメの感想がまとめサイトに引用された時よりも稼いでいるぞ。


 他にも、小説を書こうぜ関連の掲示板に片っ端から宣伝の書き込みをしているらしい。オタク界隈には常軌を逸した行動を取る奴が少なくはないから珍しいことではない。ラブコメマンガの人気投票において一人で数千票を入れた猛者がいると聞いたことがあるからな。

「私もいくつか宣伝の書き込みをしてみたのですが、丸山先輩ははるかに上回るペースで宣伝をしているようです。正直、ここまでやるとは思っていませんでした」

 見境がなくなったオタクほど怖いものは無いからな。俺と瑞稀共々腑に落ちてしまった時点で人のことは言えない。


 先手を取られてしまったが、勝負はまだこれからだ。諦めたら試合が終わるとバスケの先生も言っていたではないか。

「単純に宣伝しているだけでは敵いそうにない。あちらが尋常ではないスピードで宣伝しているというのなら、こちらは奇策を使うまでだ」

「でも、ネット小説で奇策なんてあるんでしょうか」

 出まかせに言ってみただけなので返答に詰まる。工夫の余地はどこかあるだろうか。他の人気小説にあって瑞稀の小説には無いもの。ヒントはないかと、俺たちはランキング上位の小説を眺めていく。


 それにしても、ものの見事に異世界ものばかりだ。転生したらエクスカリバーになっていたり、追放されたら最強になったりとタイトルだけで大体の内容が分かる。そういうのがトレンドなら、ガクドルズは「学校でアイドル活動を始めた私たちが宇迦市のPR活動もしてみた」というタイトルになるぞ。どちらかというと動画投稿サイトのやってみた動画に近いな。


 試しに一本の小説にアクセスしてみると、意外なものが表示された。

「このサイトって挿絵も載せることができるのか」

「そうみたいですね。絵がうまい人は自作のイラストもアップしているみたいです。私は絵心がないので無理ですが」

 恥ずかしそうに机の淵に顔をうずめる。試しにゴブえもんを描いてもらったが、輪郭が崩れて地獄のモンスターみたいになっていた。そいつは数秒後に瑞稀の手によってびりびりに破かれるのだった。恥じることは無いぞ。そいつと似たようなモンスターを全国放送で描いた歌のお姉さんがいたからな。


 モンスターはさておき、イラストは盲点だったかもしれない。瑞稀が無理なら俺が描くという手もあるが、あいにく描けるのは花園華ぐらいだ。

「どこかにイラストが上手そうな人はいないでしょうか」

「都合よくそんな知人がいるわけ」

 言いかけて、俺と瑞稀は同時に指を突き合わせた。偶然にしてはできすぎだろ。いるじゃないか、俺たちのクラスに画伯が。

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