瑞稀と丸山、小説を披露する
ヒーローショーに出かけてから数日後。俺と瑞稀は文芸部の部室に赴いていた。今日が原稿の締め切り日。この日に同時にネット上に小説を投稿し、読者の判断に委ねるのだ。
「メンターを雇って画策していたようですが、それで僕に勝てるなんて思わない方がいいですよ」
相変わらず、RPGのどうでもいいボスキャラみたいな口調の野郎だ。得意げに眼鏡をクイクイ動かしているのが鼻につくぜ。
これまで書いていた小説の傾向から予想通りというか、瑞稀は異世界転生ファンタジー、丸山はVRMMOで仕上げてきた。
まずは瑞稀の物語。タイトルは「異世界転生の真実」。冒頭はテンプレート通り、事故死した主人公が異世界に渡り、チート能力を手に入れるところから始まる。この主人公は自分に自信が持てずにうじうじしたところがあった。それでも、ヒロインたちとの出会いを経て魔王軍の手下を倒していき、ついに魔王当人との直接対決を迎える。
激闘の末に魔王を討伐する。これでめでたしと思いきや、主人公は違和感を覚える。一度死んでいる割には前世のことをあまりにも鮮明に覚えているのだ。よくあるチート転生だと説明されても納得がいかない。
やがて、ロケットという異世界ファンタジーには似つかわしくないものを発見したことですべてが明らかになる。実は、主人公が移転したのは異世界ではなく地球とは異なる惑星だった。地球とは重力が異なるため現地人の数倍の力を出すことができ、魔王を討伐できたというわけである。
このまま他惑星に留まらないかと誘いを受ける主人公。だが、ありのままの自分が魔王を倒せたのだ。自信を持った主人公は現実世界でも頑張ってみようと帰還を決めるのである。
異世界転生において「前世の記憶を保ったまま」というのは当たり前の利点のように扱われるが、そこを突いた作品だった。また、異世界だと思われた世界が実は違うというどんでん返しも用意されている。
「なるほど。最後に真実が明かされる過程はよく書けているわね」
部長の三河さんも太鼓判を押していた。最後まで読み終わると、丁寧に原稿の束を整える。
「特に、魔王との戦闘描写が良かったわ。石動さんはそういうのは得意じゃないと思っていたけど、勉強したの」
「ええ、まあ」
例のヒーローショー見学の成果が発揮されたようだ。歯切れが悪いのは害虫帝国ガイチューンとのやりとりを思い出したからだろう。
一方で丸山は感想を漏らすことなくページをめくるだけだった。こいつ、無理強いしてないよな。
対して、丸山の作品は「俺が無双できるゲームをしていたら実際に不死身になった件」というネタバレ全開のタイトルだった。丸山曰く、「長編小説だと錯覚させて釣らせる作戦です」だそうだ。ネット小説では短編よりも連載長編のほうが閲覧数は伸びやすく、あえて短編っぽくないタイトルを付けたという。こいつ、こざかしいテクニックを使いやがる。
あらすじとしては、新作のVRゲームをプレイしていた主人公はサクサクとステージをクリアしていき、あっという間にラスボスまでたどり着く。前人未踏で誰にも倒せないとされていた強敵だったが、主人公はこれまたあっさりと討伐してしまう。
完全クリアして勝利の余韻に浸る主人公。すると、ゲームマスターなる謎のマスコットからお告げが下される。実は、このゲームは選抜試験のようなもので、クリアできたものにはゲームの主人公と同じ力を実際に与えて永遠に幸せに暮らす権利をやるという。
現実世界に飽き飽きしていた主人公は申し出を受け、ゲームの中の世界ではあるが永久に幸せな生活を送るのであった。
最後はそれでいいのかという気がしないでもないが、ストレスフリーな展開に加え、魅力的なヒロインとのイチャイチャと、ネット小説で受けそうな要素がふんだんに盛り込まれている。文学作品としてどうこうよりも完全にポイントを稼ぎに来ているようだ。
「清々しいまでにネット上の読者にこびているわね。それを差し引いたとしても面白いというのはすごいと思うわ」
苦笑しながらも三河部長は称賛を贈る。悔しいが、面白いという点では同意せざるを得ない。不覚にもメインヒロインを可愛いと思ってしまった。地の文も読みやすく、流し読みでもスラスラと内容が頭に入ってくる。認めたくはないが、瑞稀に迫る高得点を叩き出しただけはあるか。
ただし、一点だけ言わせてもらいたい。
「戦闘シーンは手抜きなんじゃないか。剣戟をキンキンだけで表現するのは無理があると思うぞ」
「知らないのか。ウェブから書籍化した小説の中には、実際に戦闘シーンを擬音だけで表現したものがあるんだ。先人の知恵というやつだよ」
「堂々と胸を張っているけど、文芸として認めるのは心苦しいわ」
三河部長は苦笑していた。ネット上で話題になっていたので、一応そんな小説があるとは知っていたようだ。とりあえず、戦闘シーンに限れば瑞稀の圧勝だった。
勝負の期間中、小説の内容に手を加えたり、SNSで宣伝したりするのは自由とされた。広報についてはプロの小説家でも注力していることだが、内容変更できるというのはネット小説ならではだろう。
「勝負はむしろここからですね。読者の反応に合わせて内容を吟味していく。加えて、いかにPV数を伸ばしていくか。僕のテクニックが完璧だということを教えてあげますよ」
「言ってろ。瑞稀の小説には小手先だけのテクニックなんか通用しないということを教えてやるぜ」
「あ、あの、浬さん。一応勝負しているのは私なんですが」
いかん。つい熱くなって喧嘩を売ってしまった。とにかく、読まれなくては意味がないので、まず力を入れるのは広報だ。よっしゃ、腕が鳴るぜ。
「君たち。ネット小説に熱を入れるのもいいが、うちの活動もおろそかにしないでおくれよ」
三河部長に釘を刺され、瑞稀と丸山はぐうの音も出なかった。さすがだぜ、部長。そして、この機に及んでも無言で読書している宍戸さんもさすがだぜ。




