瑞稀、浬を羨望する
やってきました、フードコート。美琴ならまっさきにアイスクリームとかを頼みそうだが、瑞稀だとどう出るか。思えば、瑞稀の食べ物の好みはよく分からないな。よーこさんの食事で受け付けない物は無さそうだし。
「瑞稀、食べたいものとかあるのか」
「そうですね……パン、とか」
「パン!?」
意外すぎる返答に面食らう。
「ダメですか。最近ご飯ばかりであまり食べることができていないんです。たまにはいいじゃないですか」
「ダメってわけじゃあないが。いや、まさか、パンね」
「秋田出身だから米だとか思ってましたよね」
図星です、ごめんなさい。
「秋田県民が年がら年中米を食べているわけじゃないんですよ」
ぷりぷりと憤慨する瑞稀もなんだか新鮮だ。とはいえ、フードコートでパンを食べられるところか。パンの範疇に含めてもいいものかどうか迷うが。
「教祖様のところにお布施に行くか」
「あの赤いアフロの道化師を教祖様と呼ぶのは浬さんぐらいだと思います」
呼ばないのかよ。未だに嬉しくなるとついあのポーズをやっちゃうぞ。ただ、「教祖様って誰だ」という反応になるところ、違和感なく通じている辺り瑞稀も相当だと弁明しておきたい。
ともあれ、お目当てのハンバーガーを手に入れ、俺たちは席に着く。冗談半分で機関車トーマスのおもちゃ付きセットを頼んだことは脇に置いておこう。すごいぞ、これ。後ろに引っ張ると勝手に走るぞ(白目)。
「小説の参考にするためだったのに、普通に楽しんじゃったな」
「でも、色々と参考にはできました。久しぶりに童心に返って楽しかったです」
「怪人に拉致されたりしてな」
「そ、それは言わないでください」
俺がからかうと、瑞稀はハムスターみたいにハンバーガーを頬張った。余計嗜虐性が刺激されるが、俺はそこまでSじゃない。
「ところで、こいつはどうしようか」
机の上に置いたのはサソリーダーからもらったビーレンジャーの塗り絵だ。幼稚園児なら喜ぶだろうが、高校生がもらっても微妙な代物である。
「小野塚さんにあげたら喜ぶんじゃないでしょうか。彼女は絵を描くのが好きみたいですし」
「ビーレンジャーがピカソみたいになりそうだけどな」
怪人のイラストが魔改造される未来が容易に想像できる。試しに明日持っていってみようか。
「あるいは美琴さんとか」
「さすがに微妙な反応をするんじゃないか」
案外喜ぶかもしれないが。確実性で言うなら小野塚の方が上だろう。ビーレンジャーどうこうよりも、奇抜な品を好みそうだし。
美琴の名前が出た直後、瑞稀はジュースを嚥下して肩を落とした。そして、滔々と語りだす。
「浬さんや美琴さんはすごいですね。すんなりと自分が好きなものを語ることができて。私、こんな調子だから、これまでアニメについて語ることができなかったですし。小説の件にしても、浬さんたちに余計な心配をかけてしまいました」
「称賛されるようなことではないと思うけどな。俺はただ好きなものは好きだと言っているだけだし」
「それでも、周囲の目を気にせず発言できるのはすごいです」
本能的に発言しているだけだから、褒められる覚えはない。ただ、瑞稀のような隠れオタクにとってはすごいと映るのだろうか。
「さっきだって、周囲の目を気にせずステージに突撃したじゃないですか。あんなの、普通はできることじゃないです」
「あれは正直恥ずかしかったぞ。ライダーのお面があったからできたようなものだ」
「お面があってもやろうとは思いませんよ」
羨望の眼差しを向けられ、俺はついポテトを頬張る。CM通り野菜もしっかり食べているから許してくれ。
「なんていうか、浬さんのバイタリティはけた外れですよね。こうと決めたことには一直線というか。私はまだまだです」
うつむいて、もちゃもちゃとハンバーガーを咀嚼する。一口で半分くらい行けそうだけど、ハムスターみたいな食べ方をしているな。
「瑞稀も自分の殻を破ってみればいいんじゃないか。今どき、オタクだからどうこう言う奴はいないだろ」
「浬さんが気にしていないだけで、風当たりはあるんですよ」
そういうものかね。陰口っぽいことは言われたことはあるかもしれないが、いちいち覚えていない。
「なんなら、被ってみるか、ライダーマスク。世界が違って見えるかもしれないぞ」
「いくらなんでもやりませんから。茶化さないでください」
殻を破れるかなと思ったのだが、まだまだ早いか。俺が手にしているお面を必死になって押しのけている。でも、ごり押ししてくる瑞稀というのも想像ができないからな。このままの瑞稀というのも案外悪くはないと思う。
そこからは瑞稀の小説についての談義へと移った。最大の見せ場であるアクションシーンはどうするかとか、後半の展開はどうとか議論自体は白熱していたと思う。けれども、瑞稀が終始浮かばれない表情をしていたのが気にかかるのであった。慰めようとしても、いい言葉が思い浮かばなかったのがもどかしかった。




