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瑞稀、さらわれる

 最弱の幹部怪人と判明したものの、サソリーダーは己の使命を果たそうと暗躍する。

「憎きビーレンジャーどもめ。奴らを倒すにはやはり新たな仲間が必要だ。アーリーよ。この会場にはガイチューンの有能な幹部となりうる子供たちがいる。将来の幹部候補を攫ってくるのだ。俺が直々に教育を施してやろう」

 ヒーローショーではおなじみの、子供たちをステージに上げる企画だな。俺が幼稚園児だった時にもやっていたからよく覚えている。確か、指名されて簡単なゲームをやったらヒーローの塗り絵とかがもらえたはずだ。


 怪人に拉致されるという危機的状況のはずだが、子供たちはむしろ自分からステージにあがろうと無邪気にアピールしている。現実世界において全身真っ黒スーツでアリを模したマスクを被った変質者に付いていっちゃダメだからな。


 あくまで子供たちを対象にしたお遊びだ。だから、高校生である俺たちには無関係。なんて安心していたのだが、ここで想定外の事態が発生した。

 なんと、アーリーが俺たち二人の前に立ちふさがったのだ。会場には似つかわしくない大きなお友達だから偵察に来たのか。でも、すぐに通り過ぎるだろう。ほら、瑞稀の手を掴んでステージへと帰っていく。問題ナッシング。


 じゃねえ! おい、あのアリ! 訳も分からず拉致された瑞稀は目を白黒させている。どうするんだ、これ。他に連れてこられた子供と年が十歳ぐらい離れているぞ。

「おお、ずいぶんと大きな子供を連れてきたな。どうしたのだ、アーリーよ」

 困惑しながらサソリーダーが尋ねると、アーリーはこしょこしょと耳打ちする。意地でもしゃべることができないという設定を守り通すつもりか。

「なになに。可愛いから連れてきた。公私混同するな、馬鹿者!」

 サソリーダーがアーリーの頭を引っぱたくと会場からは笑いの渦が巻き起こる。しかし、瑞稀の顔は引きつっている。これは相当にまずいだろ。


 瑞稀はどう考えても大舞台に立って一芸を披露するようなタイプではない。しかも、本来なら幼児が登壇するような場面で無理やり矢面に立たされてパニックに陥っているはずだ。遠目からしても挙動不審なのが分かる。何事もなく過ぎてくれればいいが。


「まあいい。よし、まずは未来の幹部となる子供たちの名前を聞こうじゃないか。君からだ。お名前は何というんですか」

「たなかたくろう君です」

 最初に声をかけられた男の子が元気にお返事をした。幼稚園のお遊戯会を想起させて懐かしくなる。

「たくろう君は何歳ですか」

「ごしゃいです」

 舌足らずに「しゃい」と言ったのがポイント高い。まったく、幼稚園児は最高だぜ。いや、俺はロリコンじゃないからな。


「たくろう君は将来何になりたいですか」

 サソリーダーがマイクを向ける横で、アーリーが「ガイチューン帝国の幹部」と囁いている。お前、しゃべれない設定じゃないのかよ。思い切りマイクに声が入っているぞ。そして、たくろう君も素直に答えるかと思いきや、

「ウルトラマン!」

 他社が製作しているヒーローの名前を出されるというスポンサー的にまずい状況に陥った。

「そ、そうか。たくさんご飯を食べればなれるかもしれないぞ」

 立体起動装置で駆逐されるくらいの巨人に育つにはどれだけの栄養を摂取しないといけないことやら。上に伸びる前に横に伸びそうだ。


 たくろう君へのインタビューも終わり、問題の瑞稀だ。サソリーダーはどんなテンションで行こうか迷ったようだが、

「おなまえは何ですか」

 あえてたくろう君と同じ調子で尋ねた。


「え、えっと、あ、あ」

 酸欠の金魚みたいにしどろもどろになる瑞稀。たくろう君が元気にお返事をしてしまった手前、うやむやに済ますことは人生の先輩として許されない。どこからそんな声が出たんだという大声で瑞稀は叫んだ。

「阿部美琴です!」

 偽名を使いやがった! どうするんだ。本来、宇迦学園高校の道場で剣道に打ち込んでいるはずの少女が登壇していることになってしまったぞ。


「美琴ちゃんはボーイフレンドはいるのですか」

 しゃべれないという設定をガン無視して雑兵アーリーが失礼極まりない質問をぶつけてきやがった。名前を言うだけでも一苦労だったのに、そんなセンシティブな質問に答えられるわけがない。


 当然の如く、会場全体を見渡すように首を回す瑞稀。そして、ある一点で止まってステップを鳴らすように地団太を踏んだ。なんか、強烈な視線を感じるのだが。無視はできないよな。相手が虫だけに。


 瑞稀がなかなか答えないものだから、会場は次第に微妙な雰囲気に包まれていく。空気を読まずに返答を待ち焦がれているんじゃねえよ、戦闘員が。

 運営に支障があると判断したのか、サソリーダーはいきなりアーリーの頭を引っぱたいた。

「いきなり失礼なことを聞くもんじゃない。えっと、今の質問は忘れてくれ」

「は、はい」

 瑞稀はほっと胸をなでおろすが、俺への熱烈な視線は止むことは無かった。おまけに熱源がステージ上から来ているというのが妙だ。怪人共が発しているわけはないし、まさか、な。


「よし、ガイチューンの幹部になるために必要な訓練を行う。これからアーリーがダンスを踊るから同じように真似をするんだ。うまくできたらご褒美をやろう」

 恒例のお遊戯会コーナーだな。サソリーダーに促されてアーリーがステップを踏む。子供が真似しやすいようにという配慮のためか、振り付けは簡単だ。と、いうよりもどこかで見たことがある。アメリカにカモンベイベーしそうだが、いいのかそれで。


 振り付け自体が有名ということもあり、たくろう君は難なくクリアしてご褒美をもらっていた。問題は次だ。がちがちに緊張しており、MPを減らすダンスさえ踊れそうな気配がない。

「君は大きいからな。ちょっと難しいダンスを踊ってもらおうか。アーリー、お手本を頼むぞ」

 敬礼してアーリーは二、三度飛び上がる。そして、次の瞬間目にもとまらぬ勢いで両腕を振り上げた。既にたくろう君の時から難易度が跳ね上がっている。そして、上半身を激しく振り子のように揺らすダンスを踊りだした。


 この動きはまさか。俺も同類だから確信がもてる。数々のアイドルコンサートなどで踊られてきた伝統芸能。その名もオタ芸だ。しかも、初心者の動きではない。絶対にあいつ、プライベートでやっているだろ。


 一見すると簡単そうだが、実際に再現しようとすると骨が折れる。まして、瑞稀は緊張で全身の筋肉がガチガチに強張っている。たくろう君が踊っていたダンスでさえうまくできないだろう。

「さあ、踊ってもらおうか」

 瑞稀の調子などお構いなしにサソリーダーは意地悪く促す。瑞稀はというと、足を震わせてうろたえるばかりだ。遠方からでも涙目になっているのが分かる。登壇するだけでも相当な恥なのに、更に恥を重ねるなどあまりにも酷だ。


 どうにかして彼女を救えないものか。幸い、あの程度の振り付けならば完コピできる。ガクドルズのライブで散々踊ったからな。加えて、瑞稀の荷物の中に残されているライダーのお面。これは、やるしかないか。

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