サソリーダー、ディスられる
ところ変わってスーパーの屋上。なんやかんやで開演時間間近となったため、大勢のちびっことその親御さんで大賑わいだ。現役高校生が混じっていると違和感が半端ない。ヒーローショーなんて何年ぶりだろう。場の空気に触発されたか、童心に帰ってわくわくするまである。とりあえず、邪魔にならないように後方で立ち見としゃれこんだ。
「みんな、こんにちは!」
やたらと元気な挨拶とともに、司会のお姉さんが入場した。とりあえず、短パンがエロい。瑞稀もいる前で不埒な発言はできないが。
当の瑞稀は既に勉強を開始しているのか、ショーの説明をしているお姉さんを注視していた。アニメ声ではあるが、まだまだ粗削りだな。早山奈織と比べると雲泥の差だぜ。いや、司会のお姉さんを吟味してどうするんだよ。
お姉さんにばかり留意していると、いきなり横腹を小突かれた。振り向くと、なぜかむくれている瑞稀がいた。俺、別に悪いことしてないだろ。
抗議しようとすると、謎のお面を差し出された。ビーレンジャーとは違う造詣のヒーロー。現在放送されている仮面ライダーのものかな。
「この近くで物販もやっているみたいですね。記念に買っちゃいました」
「真っ先に物販をチェックするあたり、瑞稀もオタクだよな」
「そ、そんなことないです」
おたふくかぜにならないか心配なほどむくれる瑞稀。買っちゃったところでこのお面はどうしよう。美琴にあげれば喜ぶかな。
諸注意が終わり、「みんなでビーレンジャーを呼んでみましょう」という掛け声とともに、子供たちから元気な歓声があがる。いよいよ始まるか。だが、最初に現れたのは、
「フハハハハ! ビーレンジャーなど来るものか」
全身真っ赤でサソリを模した鎧を纏った怪人と、その手下であろう漆黒の戦闘員だった。
「聞け、子供たちよ。この会場は害虫帝国ガイチューンが支配した」
害虫帝国ガイチューンってそのままだな。
「我らが王ゴキプリンス様の野望をかなえるため、貴様らは俺たちの手下となってもらおう。行け、雑兵アーリーよ」
「アーリー!」
戦闘員たちが敬礼してステージ前方をうろうろと巡回する。アリと兵士を掛けているのか。いちいち設定を考察してしまうのはオタクの性だ。
突如現れた謎の敵により、会場は魔の手に落ちる。そう思われたが、
「待て! 害虫帝国の怪人!」
威勢のいい掛け声とともに、赤、青、白の戦士が入場した。途端、子供たちからひときわ大きな喝采が上がる。いよいよヒーローの登場か。
「強きことカブトの如し! ビーレッド」
「砕くことクワガタの如し! ビーブルー」
「舞うことチョウの如し! ビーホワイト」
口上とともに、三人の戦士はポーズを決める。マスクにはきちんと、カブト、クワガタ、チョウの特徴が表れていた。
「出たな、ビーレンジャー。アーリー、奴らを始末しろ」
けしかけられた戦闘員がヒーローへと立ち向かっていく。
そんじょそこらでやっているショーだから大したことは無いと高を括っていたが、案外殺陣は本格的だった。アーリーが繰り出す拳を右へ、左へと巧みにかわし、逆にパンチを決める。助走をつけて飛び蹴りを放った時には会場がおおいに沸いていた。
ついショーの内容に夢中になってしまったが、瑞稀はしきりにノートにメモを取っていた。ヒーローショーでノートを広げている女子高生ってあまりにも異質だが、当人はいたって真面目である。
ちなみに、俺もただショーを楽しんでいるわけではない。後で見返したいとのことで、スマホのムービー機能でヒーローの活躍を録画しているのだ。美琴が「映像を私にも見せてくれ」とすごい勢いで懇願してきたな。やっぱあいつ、特撮そのものも好きなんじゃないの。
アーリーたちを蹴散らしたところでショーはひと段落する。ビーレッドが「またガイチューンが現れたら俺たちを呼んでくれ」と豪語している。すると、ここで瑞稀が唐突に疑問を投げかけた。
「ビーレンジャーと戦っている怪人ってどんな相手なのでしょう」
「戦闘員じゃなくて赤い怪人の方か。特攻隊長サソリーダーとか名乗っていたけど、ググれば出てくるんじゃないか」
冗談半分で言ったが、瑞稀は本当に検索をかけていた。案外スーツの造詣は本格的で、そのままテレビに出しても問題無さそうなので、もしかしたらヒットするかもしれない。
すると、俺が予感した通りというわけではないが、ピクシブに個別記事ができていた。マジかよ。ビーレンジャーってまだ一クールほどしか放送されてないんじゃなかったっけ。人気の深夜アニメだと放送中にキャラの個別記事ができることもあるからおかしくはないか。
えっと、どれどれ。さっそく、瑞稀が探し出してくれた記事に目を通す。
「特攻隊長サソリーダーとは昆虫戦隊ビーレンジャーに出てくる悪の組織害虫帝国ガイチューンの幹部である。
地球をガイチューンにとって住みよい星にするため、偵察目的で派遣される。第八話においてビーレンジャーと直接戦闘して追い詰めるも、その時に登場した怪人ガイミノムシに邪魔されとどめの機会を失う。
第十一話で巨大化してビーレンジャーを始末しようとしたが、同じ回で初登場したダンゴーキャノン(ダンゴムシ型のキヤノン砲)と合体したバスタービーレンジャーロボの前に敗北する」
「こいつ、既に本編で負けてるし」
しかも、手柄を焦ったガイミノムシと正面衝突するとか、幹部怪人ではありえないミスを犯しているし。なんていうか、「奴を倒したか。だが、奴は我ら四天王の中では最弱」の「最弱」にされるようなキャラだった。まあ、放送はまだ始まったばかりだし、いきなり最強の幹部怪人が出てきては番組が終わってしまう。