美琴、ヒーローショーを勧める
「はいはい、私についての詮索は終わり。まったく、どうしてこんなことになったんでしょうね」
半分くらいあなたのせいですよね。自分の罪を棚に上げないでもらいたい。
「話題を変えましょ。瑞稀、小説を書いていると言っていたけど、調子はどうなの」
いきなり話の中心に祀り上げられ、瑞稀はあたふたする。強引すぎるが、俺も気になっていたところだ。執筆に集中したいとのことで、あまり相談に乗れていないからな。
「大方出来上がってはいるのですが、少し詰まっている部分があるのです」
「一体どんな場面だ」
「戦闘シーンなんですけど」
以前読ませてもらった「転生の龍人(以下略)」でもモンスターやヒロインを追う他国の兵士との戦闘があったな。今回の物語でもやはり刃を交えるシーンがあるのか。
「どうしても納得のいく描写ができないのです。戦闘シーンの参考にするとしてもなかなか資料はありませんし」
言われてみれば、日常生活を送っていて戦闘とまではいかなくとも、喧嘩の場面に出くわすのは稀だよな。資料とするなら時代劇とかバトルアニメの殺陣ぐらいしかない。
「思えば、今の世の中は喧騒が少ないのう。平和なのはいいことじゃが、昔はそこかしこで争いが頻発しておったわい」
しみじみと語っていますが、昔過ぎやしませんかね。そうツッコみたかったが、武家社会だったらいざこざが絶えなくてもおかしくはないか。でも、数百年昔を回顧されても返答に困る。
とにかく、問題点が浮上したんだ。戦闘シーンの参考ね。俺はポンと手を叩く。
「美琴とよーこさんで喧嘩してみればいいんじゃないか」
「どうしてそこで私とよーこさんが出てくるんだ」
ペルセウスさえ石にできそうな眼光で睨まれた。だってお前ら、トムとジェリー以上に過激な喧嘩をしそうじゃん。
「単純に殺陣を参考にしたいなら私の部活でも見学したらと言いたいところだけど、西洋ファンタジーだとなんか違うわね」
竹刀を片手に異世界を闊歩する勇者だと違和感が半端ない。剣道で異世界を支配する小説があるかもしれないが。
思考は膠着状態に陥り、みんな一様に唸っている。すると、唐突に美琴が一枚のチラシを机の中心に置いた。今朝の新聞の折り込みチラシのようだ。
「剣術だけじゃなくて、他の体術も参考にしたいのなら、こういうのもいいんじゃない。変化球ではあるけれど」
どれ、一体どんな手を繰り出してきたんだ。高圧的に俺はチラシを手にする。途端、絶句する羽目になった。いや、変化球すぎるだろ。
俺の手からこぼれおちたチラシを瑞稀が確認し、似たような反応を示した。話の流れからすると順当ではあるけど、まさか美琴がこんな提案をするなんて誰が予想しようか。
机の上で衆目を集めているチラシ。それには「昆虫戦隊ビーレンジャーショー」と掲載されていたのだ。
あと十数分したら放送が始まる戦隊シリーズ。現在放送されているのが昆虫をモチーフとしたビーレンジャーである。地球を自分たちの住みやすいように変えようとする害虫軍団と戦うって話だっけな。ヒーローの紹介はさておき、ヒーローショーであれば様々な殺陣は見学できる。ただ、
「ショーのチラシを隠し持っているということは、行く気満々だったんじゃないか」
「ち、違うし」
ジト目で追及すると、口笛を吹いて躱された。
ショーはこの後宇迦市内のスーパーの屋上で開催されるという。今から行っても第一回目の公演には十分に間に合いそうだ。
「せっかくだからみんなで見に行くか」
「あいにくのお誘いだが、私は無理だな。この後部活があるし」
「うちも色々と家事が残っておるのじゃ。浬と同伴できぬのは不覚」
美琴とよーこさんは用事があるようだ。よーこさんよ、切腹しそうな勢いで後悔しないでくれ。
二人が行けないとなると、赴くメンバーは自然と限られる。っていうか、
「まさか、俺と瑞稀で行けというのか」
口に出した後で瑞稀を見遣ったせいで、彼女は椅子から転げ落ちそうになる。考えてみれば、瑞稀と二人で外出する機会なんて無かった。彼女としてはどうなんだろう。必死に眼鏡の位置を直しているけど。
「ま、まあ、小説のための取材をするのはプロの方もやっていることですし。私一人で行くのも、なにか違うと思いますし」
しどろもどろになりながら、俺にチラチラと合図を送る。なんだその、夜中にトイレに行けない幼児みたいなしぐさ。俺の庇護欲を掻き立ててどうしようというんだ。
前にみんなで出かけたときは瑞稀をないがしろにしてしまったわけだし、きちんと埋め合わせをするいい機会でもある。
「えっと、せっかく勧められたから、行ってみるか」
「そ、そうですね」
こうして、俺と瑞稀でヒーローショーを見学に行くという予想外な予定が立つのだった。いいのか、これで。
やたらとパロネタが多い本作ですが、「昆虫戦隊ビーレンジャー」は東映製作の本家戦隊ではなく、私が勝手に考えた戦隊です。20年以上前にやっていた重甲ビーファイターから着想を得ているとだけ言っておきます。




