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浬と美琴、チャンネルで争う

今回、下ネタ注意です。

 とある日曜日のことである。寝ぼけ眼をこすりながら食堂へ赴くと、いつもの如く先客がいた。ただし、普段なら本を広げているところ、今日はノートを広げている。どちらも広義には「書物」に分類されうるが、決定的に違うのは読んでいるのではなく書いているのだ。

「おはよう、瑞稀。珍しいな、ここで勉強か」

「えっと、勉強というか、執筆です。あと少しで完成しそうなので」

 例の丸山先輩との小説勝負に使う原稿だろう。以前から書いていたような異世界転生ファンタジーで挑むようで、連日執筆に励んでいた。

「前の部活の時に小耳に挟んだのですが、丸山先輩はほぼ原稿を完成させているようです。同時に公開すると取り決めましたし、後れを取るわけにはいきません」

 鬼気迫る表情でノートにシャーペンを走らせていた。清書はパソコンで行っているそうなので、いわばアイデア出しというところだろう。


 ノートには「転生して盾になる」だの「ヒロインは獣人」だの色々と興味をそそられるワードが書き連ねられていた。小説のプロット作成の技法のひとつで、とにかく思いつくままアイデアを出し、それらを取捨選択しながらストーリーにしていくのだそうだ。

「異世界転生で短編ねえ。やっぱりインパクトが大事だろうな」

「それは分かってはいるんですけど、いまいちこれというネタが思いつかないんです。他にも色々と修正したいところもありますし」

 器用にシャーペンを回しながら頭を小突いている。簡単にインパクトのある異世界転生と言ってはみたが、考えてみると難しいものだな。一分足らずも思考していないが。


「いっそのこと奇をてらってみるとか」

「例えば、どんなのですか」

 おおっと、瑞稀が欲しいおもちゃを前にした幼子のように食いついているぞ。よっしゃ、渾身のネタをぶち込んでやるぜ。

「転生したらう〇こだった件とか」

「おちょくってるんですか」

 なぜだ。シンカリオンのおもちゃを買ってあげると言ってヒカリアンのおもちゃを買ってきた父親を蔑む子供みたいな目になっているぞ。むしろ、ヒカリアンのおもちゃなんてネットオークションぐらいでしか手に入らないのに。


「昔話でもう〇こが活躍する話があったからウケると思ったんだけどな」

「さるかに合戦ですよね。あれってサルを転ばせただけで、臼とか蜂のほうが活躍していますし」

 空から落下するだけで致命傷を与えられる臼と比較するなんて卑怯だぞ。いや、冷静に考えるとう〇こが主人公って色々と無理がある。う〇こを褒めたたえる美少女とか嫌すぎるな。


「ま、まあ、冗談だ、冗談。うーん、とりあえずテレビでも見ながら考えるかな」

 ごまかすように俺はリモコンを操作する。すると、派手な格好をした変人が「ウットウシイナー」と吠える黒い怪物を召喚して住民たちを襲っていた。もうニチアサがやっている時間だったな。この後プリティでキュアキュアな戦士が出てくると分かっているのに破壊工作に勤しむとか、敵の怪人さんもご苦労なことだ。


「おはよう。浬、あんたやっぱりこれを見ているんだな」

「俺がいつも見ているように決めつけるなよ」

 朝一番に失礼なことを抜かしたのは美琴だ。一応見てますけど。


「懐かしいわね。幼稚園に通っていた時もやっていたな」

「と、いうよりも俺たちが生まれたころぐらいにシリーズの初代が放送されたんじゃなかったっけ」

「確か、二人で手をつないで変身するやつですよね」

 今じゃ二人どころか五人いるけどな。同時変身してウットウシイナー相手に名乗っているところだった。何気なくチャンネルを回しただけだったのに、つい夢中になって戦いの行方を見守ってしまった。子供向けアニメとはいえ、戦闘シーンの作画は気合が入っているな。深夜の低予算アニメとは大違いだ。


 エンディングの子供に躍らせる気のないダンスも終わり、俺はリモコンを手にする。さりげない所作のはずだったのだが、ここで予想外の事件が起きた。

 なぜか、美琴もまたリモコンに手を置いているのだ。番組が終わった後にリモコンを使う目的は十中八九チャンネルの変更だ。俺もまた、別の番組を選局しようとしていた。なのに、美琴は俺が操作するのを阻止しているかのようだった。


「おい、美琴。プリキュアが終わったから別の番組にしてもいいだろ」

「いいんじゃないか、このままのチャンネルで」

 ちょっと待て。あまりにも意外過ぎる返答を食らったぞ。報道バラエティに変更しようとしていると思ったのに。


「お前、自分で言っていることが分かっているのか。この後にやる番組ってあれだろ。ショッカーによって改造人間にされるやつ」

「いつの時代の話をしているんだ。別にいいんじゃない、童心に帰ったつもりになれば。どうせあなたも裏番組のアニメを見ようとしていたんでしょ」

「そうだけどさ。だって、あのアニメを見ないと同級生との会話についていけないんだぜ」

「あんた普段どんな話してんのよ」

 同級生とは森野のことだ。あいつ、鬼太郎をガチで考察してくるから、実際に視聴していないと追随できない。小泉は端から脱落している。


 番組開始時刻までわずかだが、両者一歩も引かない。まったく、とんでもない番組改編をしてくれたものだ。仮面ライダーの裏にアニメとか爆死する気満々だろ。

「別にここで見る必要性はないんじゃないの。あなたのことだから録画してあるでしょうし」

「そうだけどさ、リアルタイムで見てなんぼじゃん」

 気に入った深夜アニメは必ずリアルタイムで見るようにしている。おかげでしょっちゅう寝不足である。よーこさんが(物理的に)枕になってくれなければぶっ倒れていたところだ。あの尻尾だけには感謝しないといけないな。


 平行線を辿っていた闘争だったが、ここで瑞稀がおずおずと手を挙げた。

「あの、だったら間を取ればいいんじゃないですか」

 鬼太郎とライダーの間? 一体どうするつもりだ。

転生したらう〇こだった件は思いついたものの、色々とアレすぎて執筆を断念した作品です。

糞人間とかコロコロコミックにしか出てこなさそうなキャラだな。

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