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浬、アニメショップを訪問する

オタクの敵=金欠

と、いうことでバイト編開幕です。

 基本的に帰宅部の高校生の放課後は暇になる。学生の本分として勉強しろと言われるかもしれないが、最低限宿題をやっておけば案外時間は取れるものだ。自堕落に過ごしてもいいが悠長にしてはいられない事態に陥ったのである。俺はスカスカになった財布を逆さまにして呟く。

「金がない」


 明日の生活もままならないほど困窮しているわけではない。アパートの家賃や最低限度の生活を送るための生活費はどうにか賄っている。授業料を加味しても親からの仕送りを活用すればやりくりは可能だ。

 しかし、オタクというのはどうにもお金がかかる生き物だ。早山奈織がリリースしたCDはキャラソンも含めてコンプリートしたいし、ガクドルズのグッズも毎月のように発売されている。その他にも買い揃えている漫画や小説があるので、必然的にお金は逃げていく一方だ。


 いくらなんでも授業料や生活費を削っては仕送りそのものが打ち切られて、野垂れ死んでしまう。だからといって、何もしないままでは欲しいグッズを買うことはできない。では、どうするか。

「働くしかないか」

 働いたら負けというニート様の格言があるが、背に腹は代えられない。高校生で闇金のお世話になったら親父から抹殺されるし。世の中にはコミケで戦利品を買い漁るためだけに短期バイトをやりまくる猛者もいるくらいだ。俺とて「金がない」なんてしょうもない理由でガクドルズグッズを諦める愚行は犯したくない。


 決心をつけたものの、どこで働くべきか。しばらく一休さんみたく懊悩するがポンと思いつくわけもない。とりあえず出歩いてみるかな。よーこさんには「しばらく散歩に出る」と言付けをし、俺は街へと繰り出すのであった。


 バイトを探すなら専門のフリーペーパーを参照するべきだが、どうせだから直接この目で確かめてみたい。タウン誌には載っていなくても店先の張り紙で人員募集しているところもあるし。定番はやはりコンビニとか飲食店だろう。変わり種ではゲーセンやカラオケ店という選択肢もある。

 ただ、就職内定率が上昇しているとかニュースでやっていた割にはバイト募集の張り紙をしているところはあまりない。ようやく発見しても「熟女の相手をする楽しいお仕事です」という怪しすぎる代物だった。ごめんな、俺のストライクゾーンはもっと下なんだ。その前に高校生がやっていいような仕事ではない。


 どうすべきかと探索を続け、たどり着いた先が、

「アニメショップ漫々か」

 無意識のうちにアニメショップを探り当ててしまうとは我ながら恐ろしい。


 アニメショップというとアニメイトとかが有名だが、この店はチェーン店では無さそうだ。個人で経営している古本屋を度々見かけることがあるが、あれのアニメグッズ版というべきだろう。

 人通りの少ない町はずれの一角にそびえる店舗。スルーしてもおかしくなかったのだが、俺が誘い水に乗ったのはひとえに店頭ディスプレイで飾られているフィギュアのせいかもしれない。

「花園華の初期のフィギュアだと」

 既に購入済みだが、アニメ放送直後に発売され、現在だと出荷数が減少したことから入手困難になっている逸品だ。ファーストシングル「輝く私たち」のサビで飛び上がる振り付けを完全再現しており、ディスプレイの窓ガラスを突き破ってきそうな躍動感がある。


 花園華のフィギュアは数あれど、あえて最初期のフィギュアを推しだすとは「分かっている」じゃあないか。俺もまだまだだったな。宇迦市のアニメ関連のショップはチェックしたと思っていたのに、こんな隠れ家みたいなスポットを見逃していたとは。よし、入るしかない。俺は当初の目的を忘却の淵に追い込み、ドアベルを鳴らすのであった。


 店頭ディスプレイが客寄せの役割を果たしているのか、入店してすぐ出迎えたのは大量の美少女フィギュアだった。最近のアニメキャラのみならず、懐かしアニメのものまで取り揃えられている。すごいな。セーラームーンとかミンキーモモのフィギュアまであるぞ。

 ほかにも書籍や音楽CDも陳列されており、どちらかというと中古品の販売が中心となっているようだ。俺よりも上の年代層がご用達かなと思いきや、トレカのばら売りまでやっている辺り子供心を分かっている。2万円のリーリエのポケモンカードって誰が買うんだろう。


 店内はそれほど広くないとはいえ、ウィンドウショッピングをしているだけでも半日は潰せそうだ。いやあ、こんな神スポットを発見するなんてラッキーだぜ。なんて、遊園地にやってきた園児並みのテンションで浮足立っていたときだった。


「お探しの物はありますか」

 急に声をかけられ、俺は陳列棚に激突しそうになった。膝まで隠れる長いエプロンを身に着け、四角縁の眼鏡をかけたギザギザ頭の男性であった。よーこさんよりも少し年上ぐらいだから、三十代だろうか。中肉中背と言いたいところだが、やや痩せ気味だった。

 眼鏡をかけた男というと嫌味な先輩と出会ったばかりだが、こちらはうってかわって柔和な雰囲気を醸し出している。この店の店員だろうか。推測するまでもなくエプロンに「アニメショップ漫々」とプリントされている。


「えっと、どんな商品があるのか見ていただけです」

「そうですか。ゆっくりしていってください」

 発音が例の頭だけのキャラっぽかったのはシャレだろうか。せっかくだから土産に何か買っていこうかな。


 なんて、素直に買い物客になっている場合ではない。大きく首を振り、雑念を追い出す。そうだ、いいことを思いついた。と、いうよりもこんなお宝スポット、働き口として逃す手はない。


 先ほどの男性は鼻歌混じりでカウンターへと戻ろうとしている。狭い店内で転倒しそうになりながらも俺は男性の後を追いかける。

「あの、すみません」

「お探しの物は見つかりましたか」

 人のよさそうな笑みを浮かべていた店員は次の瞬間に仰天しただろう。いや、間違いなく仰天していた。

「な、なにをやっているんですか」

 そんなセリフを吐くのも無理はない。俺は正座した状態で額を地面に密着させていたのだから。相手に依頼や謝罪をするときに使う最大級の切り札。その名も土下座だ。


 店員さんが面食らっているのは百も承知で俺は声を張り上げる。

「ここで働かせてください!」

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