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浬と瑞稀、作戦会議をする

 帰宅して早々瑞稀と作戦会議を始める。個人的な争いで部の本来の活動に支障をきたしてはいけないということで、ジャンル不問の短編で勝負するようだ。

「ネット小説で受けそうな短編か。改めて問われると難しいな」

「セオリー通りならば異世界転生ものですが、長編よりもインパクトが大事になりそうですね」

「インパクトね。第一話が衝撃的なアニメとか参考になるんじゃないか。例えば、ほのぼの日常系だと思っていたら外でゾンビが徘徊していたとか」

「一理あります。最後の最後に大どんでん返しは面白い物語の基本ですし」

 物語の方向性を決めたいところだが、あのアニメの一話がよかっただのオタク話に花を咲かせてしまったのは悲しい性だ。でも、瑞稀は「どんな話が小説のネタになるか分からないから無駄ではない」と肯定的であった。


 とりあえず、異世界転生物語にしようと決定したが、一体どんな物語にすればいいのか皆目見当がつかない。

「抽象的な質問になるのですが、浬さんが面白いと思う物語ってどんなのですか」

「難しい質問だな。ガクドルズみたいなのと考えると、美少女たちが和気あいあいと日常生活を送りながらも、立ちはだかる壁を懸命に乗り越える話かな」

「そのような話も一大ジャンルを築いていますよね。でも、ガクドルズのキャラクターを異世界ものに適用するとなると、若干違和感がありそうです」

「案外マッチするんじゃないか。ゆるふわ日常系のキャラクターたちがファンタジー世界で戦うソシャゲもあるぐらいだし」

 カルタードで敵を倒しているありそでなかった日常系ファンタジーならあるみたいです。


 ヒントにならないかと、俺は瑞稀が書いていた長編小説を読み直す。単行本にして三冊ぐらい出せそうな文量があったから途中読みになっていたのだ。

「なあ、これだけ面白いのなら出版とか考えたりしないのか。小説って売れれば印税生活できるんだろ」

「小説一本で食べていける人なんてごくわずかです」

 瑞稀は苦笑して続ける。

「この小説にしても、昔見ていた深夜アニメに触発されて書き始めたものですし。なんというか、書きたいから書いただけなので、有名になろうとは考えてもみなかったです」

 そういうものなのかね。印税生活も悪くないと思うのだが。


 それからしばらく美琴は考えあぐねていた。納得いく展開にたどり着かないようだ。だからといって、俺は小説に精通しているわけではない。下手なアドバイスもできそうにないから、後頭部で手を組んで背伸びした。

「とりあえず、色々と書いてみたらどうだ。案ずるより産むが易しとか言うだろ。読んだ感想を言うぐらいなら俺でもできそうだし」

「それもそうですね。長々と付き合わせてしまって申し訳ないです」

「いいってことよ。瑞稀の小説、楽しみにしているからな」

 律儀に頭を下げる瑞稀に、俺は朗らかに返答する。どこぞのがり勉野郎よりもよほど礼儀正しくて好感が持てるぜ。


 その日から瑞稀の戦いが始まったわけだが、予想以上に熾烈になるとはこの時は思いもよらなかった。


 翌日のことである。身支度を済ませて台所へと赴くと違和感があった。いつもならいるはずの先客がいない。ただでさえ朝の台所は静かなのに、居心地悪さを覚えるほど静まりかえっていた。テーブルの上には新聞が無造作に置いてある。おかしいな。新聞が読まれることなく放置してあるなんて。

 キッチンではよーこさんが鼻歌混じりで料理中だ。彼女が読んでいるとは考えにくいし。とりあえず、コボちゃんでも読もうかと俺は裏面をめくる。


「おはよう、浬」

「美琴か。今朝は早いな」

「いつもと同じくらいだぞ。むしろ、一人足りないような」

 美琴も埋まっているはずの席をのぞき込む。うーむ、どうしたのかな。


 新聞は美琴の手に渡り、手持無沙汰になった俺は朝のニュース番組をチェックする。そうしていると、よーこさんがご飯を載せたお盆を運んできた。まさにそのタイミングで慌ただしく階段を下ってくる足音が響く。

「すみません、遅くなりました」

「珍しいのう。瑞稀が朝食の時間間際にやってくるとは。ずっと勉強しておったのかの」

「えっと、まあ、そんなところです」

「勤勉なのはよいが、時間は守らんといかんぞ。さあ、早く食べるのじゃ」

 そうだ、瑞稀だ。いつもならばとっくの昔に席について新聞を占領しているはず。勉強に集中していたといっても、中間テストはもう少し先だし。苦心するほどの量の宿題も出されていなかったはず。今日に限ってどうしたんだろう。


 いや、その日に限ってではなかった。瑞稀は度々朝食時に遅れてくるようになったのだ。ひどい時にはよーこさんに叩き起こされていた。元々寝起きが悪いというわけではなかったはず。いきなり寝坊助になった要因。思い当たることがあるとすれば一つだけある。

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